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王将が「店で餃子を包む」のをやめたワケ

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■主要な食材を国産にしたらファミリーが増えた

もうひとつの大きな改革は14年の10月、主要な食材をすべて国産にしたことだ。たとえば餃子の場合、豚肉、キャベツ、ニラ、にんにく、生姜、小麦粉を国産に変えた。もともとすべてが海外産だったわけではないが、高いハードルだったのは小麦粉だ。中華麺用の小麦粉(餃子の皮も同じものを使用)の95%は海外産だった。なんといっても国産小麦は量が少ないから、手に入れるのは簡単ではない。そのうえ、価格は輸入小麦のほうが安い。「餃子の王将」のように、大量に使用している中華麺用の小麦粉を国産に変えるのはコストも上がるし、調達の手間もかかる。しかし、渡邊は断行した。

「いらっしゃるお客さまの層が変わりました。『餃子の王将』と言えば学生さん、ビジネスマン、現場の労働者といった方たちが主要な客層なんですが、食材を国産に変えてから、ファミリーの方々が増えました。私がいちばん嬉しかったのは、『“王将の餃子”は安心なので、離乳食にしています』というお母さんからのメッセージでした。そんなこと、以前ならとても考えられなかった」(同)

■「王将調理道場」で料理のコツを教える

ほかにも改革はいくつかある。

16年には女性を主なターゲットとした新しい形の店舗「GYOZA OHSHO」も出した。女性デザイナーに店舗の設計をしてもらい、女性客が入りやすい雰囲気になっている。メニューもこれまでの王将とは違い、ヘルシーなそれがラインナップに入っている。なお、19年3月には東京の有楽町にもオープンした。

また、本社の隣に「王将調理道場」を作った。そこに全国から店長を集め、調理技術を磨き、料理のコツを教えることで、料理の品質向上を図っている。基本を大切にすることもまた改革のひとつだ。

こうした話を聞いて、わたしは地元の王将の店にあらためて足を運んだ。そして、餃子を頼む。久しぶりに行ったわけではない。前社長の時代から食べに行っていた店だ。出てきた餃子を食べても、まったく以前の味と同じ。そして、あらためて店内の従業員を見たら、確かに仕事はシンプルになっていた。

以前は餃子を巻きながら指示を出していた店長も、調理をするときは調理に集中し、部下に指示を出すときはふたりで話し合いをしていた。思うに、渡邊の行ったもっとも大きな決断は、やはり店で餃子を巻くのをやめたことだ。そして、社内の誰もがそう思っていたにもかかわらず誰もが口火を切るのを躊躇していたことなのだろう。習慣を変えることは簡単ではない。

■休日は3000人前の餃子が出る「空港線豊中店」


休日は2500人もの客が訪れる空港線豊中店(撮影=熊谷武二)

さて、王将チェーンのなかで断トツの集客を誇るのが伊丹空港に近い空港線豊中店だ。同店舗は237席で24時間営業、休日ともなると2500人の客がやってきて、3000人前の餃子が出る。

店長の尾﨑雄太は「わたしたち現場としては餃子を巻く時間がなくなったのは、すごくありがたかった。以前は営業中でも常に餃子を巻かないといけなかったから、部下の話もちゃんと聞くことができなかったし……。餃子を巻くことに追われてしまうところがありました。今では心に余裕をもって調理に集中できますし、接客もできます。よりいいものを出そうという気持ちで調理をできるのはありがたいことなんです」と言う。

また、国産食材に変えてから、「お客さまにママたちが増えました」とも言う。

では、彼ら現場の人間が大切にしている言葉はどういったものなのか。

■「自奮自発」でお客さんに喜んでもらう


空港線豊中店の尾﨑雄太店長(撮影=熊谷武二)

「わたしたちが入社当時から言われてきたのは、『自奮自発』ということです。自らを奮い立たせて、自ら行動を起こしてということをずっと言われてきました。王将は、現場に裁量権があり、店長が采配を振るってイベントをやったり、オリジナルメニューを出したりすることができる。それも現場の店長がその地域をよくわかっていて、理解したうえでやらなきゃならない。自奮自発で、お客さんに喜んでもらうというのが王将の現場の言葉です」(尾﨑)

「餃子の王将」の麺、餃子の皮はすべて国産小麦だ。世の中にはおいしいとされる中華料理店は多い。同社よりも儲かっている飲食企業も多い。しかし、そのなかで、消費者に安心を届けるために、すべての食材を国産に変えたところはあるのだろうか。特に困難な麺や餃子の皮を国産小麦に変えたところはあるのか。

「餃子の王将」は富裕層やグルメのための高級店ではない。庶民のための店だ。庶民に腹いっぱい食べてもらうため、庶民に安心してもらうための店だ。彼らは日々、現場の言葉をたよりに、日本を支える庶民のために努力を続けている。(敬称略)

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉 撮影=熊谷武二)

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