- 2019年04月04日 09:15
給与格差"55歳同期で月17万円差"の意味

■男性の平均賃金 大企業38万7000円、小企業29万2000円
4月といえば昇給の季節である。
勤続年数が1年積み上がるごとに給与がアップする定期昇給に加えて、アベノミクス以降、賃上げ(ベースアップ)も続いている。だが、その一方で日本の賃金差は拡大し、格差社会に突き進んでいる。
働き方改革の一環として、政府は「同一労働同一賃金」の実現に向けた法改正を、来年の2020年4月1日に施行する(中小企業は21年4月1日)。だが、同一労働同一賃金といってもあくまで同じ企業内の正規と非正規の賃金格差の是正策にすぎない。
日本で最大の賃金格差といえば、大企業と中小企業の格差であるが、そこは放置されたままだ。中小企業(従業員300人未満)は日本全体の企業数の99.7%を占め、働く人は全従業員数の約7割だが、大企業との賃金格差は大きい。
初任給は高卒・大卒ともに大企業とほぼ同じであるが、その後の給与の上がり方が違う。
厚生労働省の統計によると、2018年の大企業(1000人以上)の男性の平均賃金は38万7000円なのに対し、小企業(100人未満)は29万2000円と約10万円近い差がある(2018年賃金構造基本統計調査)。
■50代前半男性 大企業50万6000円、小企業33万7500円
賃金水準がピークとなる50~54歳になると格差はさらに拡大する。大企業の男性の平均賃金が50万6600円であるのに対し、小企業は33万7500円。その差約17万円だ。この年齢層の家庭は大学に進学する子供も多いと思われるが、とてもその余裕があるとは思えないし、自宅通学をしない場合の仕送り額の平均約7万円を捻出するのはかなり大変に違いない。
国際的に見ても日本の格差は大きい。
大企業の賃金を100とした場合の中小企業の賃金は68.8。ドイツの68.7とほぼ同じだ。アメリカが60.9と格差が最も大きいが、イギリス99.0、イタリア92.0、オランダ、デンマーク、フィンランドは100を超えるなど、まさに企業規模間の同一労働同一賃金を実現している(労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2017』)。
■ボーナス格差 大企業100、中企業61.7、小企業36.2
日本の賃金格差は毎月支給される基本給だけではない。

ボーナスの格差はもっと深刻だ。大企業のボーナスを100とすると中企業(従業員100~999人)は61.7、小企業は36.2にすぎない。年収ベースでの格差はもっと大きくなるということになる。
それだけではない。大企業と中小企業の格差は2014年のアベノミクス以降も拡大し続けている。
経団連の調査によると、大手企業(東証1部上場・従業員500人以上)の2014年賃上げ率は2.28%、金額にして7370円。15年2.52%(8235円)、16年2.27%(7497円)、17年2.34%(7755円)、18年2.53%(8539円)と2%台をキープしている。
一方、中小企業(従業員500人未満)の14年の賃上げ率は1.76%(4416円)、15年1.87%(4702円)、16年1.83%(4651円)、17年1.81%(4586円)、18年1.89%(4804円)と、2%を下回っている。
賃上げ率自体は中小企業がやや低く、ベースとなる基本給が大企業のほうが高いので金額に大きな開きがある。アベノミクスになって大企業と中小企業の格差は縮まるどころかますます拡大しているのだ。
■大企業vs中小企業の格差の構図は依然変わらず
こうした格差を最も問題視しているのが労働組合だ。中央組織の連合は2019年春闘で例年以上に格差是正を掲げ「規模間格差の是正(中小組合の社会横断的水準の確保)に向けて賃金の絶対額を重視した月例賃金の引き上げ」に取り組んだ。
つまり、賃上げ率だけでは格差が縮まらないので大手と中小の基本給の違いに焦点を当てて格差を是正しようという戦術だ。
では、その結果はどうだったのか。連合の今年3月22日時点の集計結果によると、全体の平均賃上げ率は2.13%(6475円)。そのうち従業員300人未満の中小組合は2.02%、金額は5183円。それに対して300人以上は賃上げ率2.13%(6534円)だった。格差の構造は依然として変わっていない。
■同じ業界同じ35歳で、上と下では10万~13万円の差
しかも長年続いてきた格差は大企業や中小企業の違いだけではなく、労働者間でも拡大している。

連合の構成組織のひとつである機械・金属産業の労働組合である「ものづくり産業労働組合JAM」(組合員35万人)が実態調査を実施している。組合員約25万人の賃金データを10階層に分けて各層の平均給与(所定内賃金)を出している。これを見ると、自分がどの層に位置しているのかわかるだろう(組合員なので管理職は基本的に含まれない)。
それによると30歳の平均は約25万8000円。上位10%(第9十分位数)の平均は約30万7000円、下位10%(第1十分位数)が約21万1000円。
35歳の平均は約29万7000円。上位10%約36万5000円、下位10%約23万4000円となっている。35歳くらいまでは上位と下位の差が10万~13万円であるが、年齢を重ねるとさらに格差は広がる。以下、平均と上位10%と下位10%の違いを示す。
40歳 →【平均】31万8000円/【上位】39万円/【下位】24万8000円45歳 →【平均】33万8000円/【上位】41万1000円/【下位】26万3000円
50歳 →【平均】36万2000円/【上位】43万9000円/【下位】27万9000円
55歳 →【平均】37万3000円/【上位】45万6000円/【下位】28万3000円
■同じ業界同じ40歳で上下差は14万2000円、55歳は17万3000円
同じ正社員でも40歳の上位と下位の差は14万2000円、55歳になると17万3000円に拡大する。しかも下位層は30万円にも満たない。
初任給は大企業も中小企業も変わらないと書いたが、大企業と中小企業、さらには労働者間で年齢とともに格差が拡大していく構造が固定化している。
日本の大企業と中小企業の格差が大きい理由として、元請け・下請けの関係で「理由なく値引きさせる」「発注者の事情のみで価格を一方的に決める」といった取引慣行が背景にあると言われる。政府や労働組合も中小企業に無理な要求をしないように下請け取引の改善を大企業に要請している。
しかし、この構造が簡単に変わるとも思えない。また、日本の労働市場は中小企業から大企業への転職者が少なく、大企業から中小企業に転職する人は中高年層に限定されるといういびつな構造になっている。
今後、格差の固定化・拡大が進行すれば学生の大企業志向がさらに強まり、中小企業を希望する学生がますます少なくなるだろう。
お隣の韓国では財閥系大企業と中小企業の賃金格差が深刻な社会問題になっており、大企業を目指した高学歴志向も強まっている。日本も決して例外ではない。
(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)
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