記事

森喜朗元首相のサマータイムよりLGBT理解増進法こそ東京五輪のレガシーに

共同通信社

参院選に向け多様性をアピールしたい自民党

[ロンドン発]自民党の「性的指向・性自認に関する特命委員会」(古屋圭司委員長)が、性的少数者(LGBT)の理解増進を図る法案(性的指向および性自認に関する国民の理解増進に関する法律)の骨子案を了承した。議員立法として今国会での成立を目指す。

骨子案のポイントは次の通り。

・性的指向と性同一性の多様性に寛容な社会の実現を目指す
・政府に基本計画の策定と関係省庁連絡会議の設置を求める。政府は調査研究を行う
・国と地方自治体は国民の理解増進に向けた施策の策定と実施に努める
・企業は相談機会を確保する
・罰則規定は設けない
・法施行後5年をメドに見直す

自民党の杉田水脈(みお)衆院議員(比例中国ブロック)が月刊誌「新潮45」に「彼ら彼女ら(LGBT)は子供を作らない、つまり『生産性』がない」と寄稿し、大きな社会問題になったことは、まだ記憶に生々しい。自民党内には杉田議員のほかにも伝統的な家族観を重んじる「真正保守」派の政治家が少なくない。

BLOGOS編集部

保守派の古屋氏が委員長を務める特命委には7月の参院選に向け自民党の多様性をアピールし、イメージ回復を図るとともに、2020年に迫る東京五輪・パラリンピックに備え、性的指向を含む、いかなる差別も排除する「オリンピック憲章」の精神を実現する狙いがある。

広範囲のシステム改修が必要なことから断念に追い込まれた森喜朗・東京五輪・パラリンピック組織委員会会長による唐突なサマータイム(夏時間)導入論に比べると、LGBTの理解増進は、はるかに意義のある施策である。サマータイムは発祥の地・欧州でも廃止論が強まっている。

罰則より理解を深めるのを優先

野党6党派は別に「性的指向と性自認に関する差別解消を推進する法案」を衆院に共同提出済みだ。罰則規定が設けられている点が、罰則規定のない自民党骨子案と大きく異なっている。

自民党と共同歩調を取る一般社団法人LGBT理解増進会は、理解増進法について「国民全体の理解を促すボトムアップ型の法案で時間は掛かるが、確実に理解が深まる。今後すべての施策の基礎となる」と評価する。同会は、異性愛のほか性的指向や性別を次のように分類している。

https://lgbtrikai.net/yougo/index.html

【性的指向】 ・同性愛(ゲイ・レズビアン)
・バイセクシュアル(両性愛)
・パンセクシュアル(全性愛)
性的関心や恋愛対象の性別にこだわらない
・無性愛(アセクシュアル・Aセクシュアル)
他者に恒常的に恋愛感情や性的欲求を抱かない
・非性愛(ノンセクシュアル)
恋愛感情はあっても性的な欲求を持たない

【性別】 ・トランスジェンダー
出生時に届け出た性別と違う性別で生きている人、生きようとしている人、生きたいと思う
・性別違和
出生時に届け出た性別に違和感を覚える
・性同一性障害
身体上の性別と、自分自身が認識している性別が一致せず違和感を覚える
・X(エックス)ジェンダー
性別を男や女に限定したくない、できない、分からないと感じる

茨城県議会もLGBTへの差別禁止を盛り込んだ男女共同参画推進条例改正案を可決したばかり。同県議会によると、都道府県条例でLGBT差別の禁止を明文化したのは東京都に次ぎ2例目だそうだ。

東京都の条例は「都が啓発、教育などの施策を総合的に実施していくことにより、いかなる種類の差別も許されないという、オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念が広く都民などに一層浸透した都市となることを目的とする」と定めている。

オリンピック憲章でもうたわれた性的指向の権利

東京オリパラを契機に、日本でもLGBTへの理解が深まれば、世界から見れば周回遅れだが、次世代への大きなレガシー(遺産)となる。

多様性を強調した2012年のロンドン夏季五輪は同性愛フレンドリーな大会となり、エルトン・ジョンら多くのLGBTのアーティストが開・閉会式に参加、25選手がカミングアウトした。しかし14年のソチ冬季五輪では開催国ロシアが前年に同性愛宣伝禁止法を制定し、欧米諸国の反発を招いた。

これを受け、国際オリンピック委員会(IOC)は14年12月、オリンピック憲章にあるオリンピズムの根本原則第6項を改訂し「人種・ 宗教・ 政治・ 性別」に加え「肌の色・性的指向・言語・社会的な出身・財産・出自・身分」の違いを理由に差別してはならないことを明記した。

しかし世界を見渡すと、LGBTを取り巻く環境は依然として厳しい。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、ロシア南部チェチェン共和国では昨年12月以降、40人以上の同性愛者が拘束され、少なくとも2人が死亡した。出国できないようパスポートを取り上げられた人もいる。

チェチェンでは17年にも100人以上の男性の同性愛者が拘束され、死者も出ている。

LGBT啓蒙教育へイスラム教徒が「洗脳と同じ」と猛反発

英イングランド中部バーミンガムの小学校ではLGBTの啓蒙教育が始まったため、イスラム教徒の保護者が「同性愛を子供たちに教えないで」「これでは洗脳と同じ」と猛反発。600人の生徒が授業をボイコットする騒ぎに発展し、LGBTの啓蒙教育は中止された。

保護者は「子供たちに性的な意識を持たせるのを止めて」「子供は子供らしく扱って」「子供の教育を決めるのは私たち」と怒っており、抗議活動は他の小学校にも飛び火した。バーミンガムの人口の16%超はイスラム教徒が大半を占めるパキスタン、バングラデシュ系だ。

同性愛を忌避するのはイスラム教だけではない。

ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は「幼い頃から同性愛の傾向が現れるなら、その状況を知るために、精神医学を通してできることはいっぱいある」「同性愛の傾向を無視するのは父や母としての過ちだ」と発言したことがある。

この発言は同性愛を精神疾患とみなしているとして国際的な批判を集め、バチカンの公式記録から削除された。

ロンドンのサディク・カーン市長が17年、LGBTの人たちに配慮した男女共用トイレの導入を提案。官庁や軍では実際に導入されているが、女性からは「男性と同じトイレを使うのは怖い」「ハラスメント(嫌がらせ)が心配」と反対の声も上げられている。

下は国際LGBT&インターセックス協会(ILGA)がまとめた19年版のマップだ。赤く(LGBTが死刑に相当する国)なればなるほどLGBTは迫害されており、青く(同性婚が法的に認められている)なればなるほど、権利が保障されていることを意味している。

国際LGBT&インターセックス協会(ILGA)

【LGBTが犯罪になる国】
死刑6カ国(イラン、サウジアラビア)
刑期10年~終身刑26カ国
刑期8年以下31カ国
事実上犯罪として扱われる2カ国

【性的指向の権利が保護されている国】
憲法で保護されている国9カ国(スウェーデン、ネパール)
広く保護されている国52カ国(英仏独、韓国)
雇用で保護されている国73カ国
限定的に保護されている国8カ国(米国、日本)

【保護もされず、犯罪にもならない国】
55カ国(中国、ロシア、インド)

日本はLGBTへの差別どころか、男女格差大国だ。世界経済フォーラム(WEF)の18年版男女格差報告書で日本は世界110位。列国議会同盟(IPU)の調べによると、下院の女性議員比率では日本の衆議院は463人中47人(10.2%)と世界193カ国中165番目だった。

これは日本がタテ社会であることと関係している。年功序列、男尊女卑……と、すべてにおいて稠密(ちゅうみつ)なヒエラルキーが構築されている。こうした柔軟性のないタテ社会こそが、高度経済成長が終わったあとの日本の変革を妨げてきた。

東京オリパラをきっかけにLGBT(性的指向)だけでなく男女格差(性別)を巡る問題の解消に向けた本質的な理解や議論が深まり、日本がタテ社会からヨコ社会に変わるきっかけになることを期待したい。

あわせて読みたい

「LGBT」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    韓国議員が米有力紙で日本を非難

    一般社団法人日本戦略研究フォーラム

  2. 2

    韓国で身内を守る嘘が溢れる背景

    NEWSポストセブン

  3. 3

    街で腕組むカップルが減った理由

    山口浩

  4. 4

    早実 性動画の拡散で大会辞退か

    文春オンライン

  5. 5

    徴用工の複雑化は日本にも原因

    大塚耕平

  6. 6

    よしのり氏 韓国批判を封じるな

    小林よしのり

  7. 7

    原発処理水の海洋放出は世界基準

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  8. 8

    北の秘密警察 AV鑑賞で絶体絶命

    高英起

  9. 9

    山本太郎氏はYouTubeに力入れよ

    かさこ

  10. 10

    イランと会談 日韓対立に影響も

    篠田 英朗

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。