- 2019年04月03日 09:15
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2/2工作機械の技術がものづくりの水準を規定する
一国の工作機械産業の技術水準は、ものづくりの基盤技術を規定するといわれるが、これは具体的にはどういう意味だろうか。それは、工作機械の持つ母性原理と技術的収斂の2点によって説明できる。
生産される機械や部品の精度は、それを作り出す工作機械の精度によって決まる。つまり、作られる機械や部品は、それを作り出す工作機械の精度を超えることができない。これは、工作機械の「母性原理(copying principle)」と呼ばれる。それでは、このような工作機械はどのように作られるのだろうか。それを作るのも、また工作機械である。
ここでも再び母性原理が働く。つまり、精度が高い工作機械を作るためには、それ以上の精度を持った工作機械が必要になる。一国の工作機械産業の技術水準がものづくりの基盤技術を規定する一つの理由は、この母性原理にある。
もう一つの理由は、米国の技術史家ローゼンバーグが指摘した「技術的収斂(Technological convergence)装置」としての役割である。工作機械は「機械を作る機械」として、あらゆる産業のものづくりの現場で使われる。ということは、ある特定産業の特定用途を実現するために開発された工作機械の新しい技術や機能は、他産業でも使用されることでその性能や機能が他産業にまで波及するはずである。
すなわち、工作機械を経由して新しい技術が多くの産業に普及するのだ。そのために、多くの産業の技術水準が工作機械を経由してある一定範囲に収斂するというメカニズムが存在する。これが、技術的収斂という概念の意味である。
このように、工作機械は他産業にはない独自の役割と機能を持つことが明らかにされており、産業規模では計ることができない戦略的重要性を持つ。
現在作られる工作機械のほとんどはNC装置付き
さて、このような特性を持つ工作機械には実に多種多様なものが存在する。工場内では様々な加工用途が生じるために、それに対応して様々な種類の工作機械が必要になるからだ。主要な工作機械として、旋盤(Lathes)、研削盤(Grinding machines)、そしてマシニングセンター(Machining center)などが知られている。表3は、2017年度の日本におけるNC(Numerical Control、数値制御)工作機械の機種別生産割合を表している。一口に工作機械といっても、実に様々な種類の機械が存在することがわかるだろう。

その中で、台数、金額ともに最大の機種はマシニングセンターで、工作機械全体の約4割を占めている。
マシニングセンターとは複数の刃物を自動交換できる装置を持ち、NC装置で読み込まれるプログラムに従って、穴あけや平面削りなど複数の異なる加工を1台で行う工作機械を指す。従来の工作機械が基本的に単一種類の加工を行っていたのに対して、複合加工を自動的に実現する機械であり、NC装置の出現によって誕生した。
次に多い機種はNC旋盤で、全体の約3割を占めていることがわかる。旋盤は円柱状の被切削物を回転させ、バイトと呼ばれる工具で切削加工をする工作機械である。現在の日本では、この二つの機種で全工作機械生産高の約8割程度を占めている。また、現在日本で生産される工作機械のほとんどは、NC装置が付いたNC工作機械である。
NC工作機械産業を主導したファナック
1980年代は、日本の製造業の国際競争力が向上し、それに対する世界的な関心が高まった時期だった。ちょうどその頃、米国の産業競争力の回復を目的として、マサチューセッツ工科大学(MIT)を中心として産業生産性調査委員会が組織された。
その委員会の調査報告書『Made In America』では、日本の強い産業競争力の背景にあるいくつかの要因を挙げているが、NC(Numerical Control、数値制御)工作機械産業についても一定のスペースを割いてその特徴を記述している。
報告書はまず、NC工作機械産業の戦略的重要性について次のように述べている。
NCおよびNC工作機械は、自動車やエレクトロニクス、機械工業などに対して少量・多品種かつジャストインタイムで納入している業者に、フレキシブルなオートメーションをもたらした。
このようなNC装置の設計と製造を主導したのが、ファナックであった。日本の工作機械メーカーの多くは、NC装置の開発をファナックに完全に任せて、自らは工作機械それ自体の革新に注力することができた。つまり日本の場合、ファナックと工作機械メーカーとの間で分業が行われたのである。
互換性を維持するとともに、規模の経済的メリットも
一方、米国の場合、日本のような分業体制ではなく、工作機械メーカーが自社でNC装置を開発した。今から振り返ると、この草創期の開発形態の違いこそが、後述するような大きな違いをもたらすことになった。しかし、黎明期は、まだそのような先のことまで見通すことはできなかった。日米の開発形態の違いに関して、報告書は次のようにいう。

日本はNC工作機械のNCの設計と生産をファナック1社に絞った。この為、規模の経済的メリットが得られただけでなく、アメリカの工作機械ユーザを悩ませた互換性のなさという問題も回避できたのである。工作機械メーカーは自社でNCを開発する重荷から解放され、ファナックがエレクトロニクス分野にその全力を集中した為、ファナックと工作機械メーカーとの直接の競合も回避された。
私の調査では、日本がNC装置の開発を意図的にファナック1社に絞ったという事実は存在しない。産業用ロボットなど、メカトロニクス製品の製造を行うメーカーで知られる安川電機もNC装置の開発をしていたからである。より正確にいえば、ファナックが結果として主導する形になり、ファナックのNC装置が大きなシェアを占めたということだろう。その結果、日本の工作機械メーカーは確かに、規模の経済のメリットを享受できたし、互換性も維持することができた。
ここでいう工作機械ユーザーとは、工作機械を使用して自社製品を作る自動車メーカーや精密機器メーカーなどを指す。これらの工作機械ユーザーは、自社の加工条件に従ってNCプログラムを作成し、それを使ってNC工作機械を動かす。したがって工作機械ユーザーにとっては、一度作成したNCプログラムを他の機械でもできるだけ使用したいという要望は当然であろう。
だが、NC装置メーカーが違えば、NCプログラムの言語仕様や操作性が異なるために、他のNC工作機械で使えない可能性が出てくる。これが互換性の問題である。日本の場合、たとえ工作機械が違っても付加されるNC装置の多くはファナック製であったために、互換性の問題が顕在化しなかった。
他方、米国の場合、工作機械メーカーがそれぞれ独自のNC装置を作るために、工作機械ユーザーは互換性の欠如という問題に直面していたのである。それが、強力なNC工作機械産業を発展させるのに大きな障害になった、と報告書は指摘する。
ファナックは先端技術をいち早く取り入れた
さらにファナックの技術戦略について、調査結果は次のように報告している。
アメリカの制御機器メーカーとは異なり、ファナックは早くから先端的な半導体技術を採用し、コストに見合った設計を行って標準品を低コストで生産した。
ここでいう先端的な半導体技術とは、半導体技術を使った記憶素子である半導体メモリやインテルのMPUを指す。これらの先端技術をファナックは積極的に取り入れたのに対して、米国のメーカーはそうではなかったと指摘する。
さらに報告書は、標準化を積極的に図ったことでコストを下げることができたという、ファナックの製品戦略の特徴を明らかにしている。
米国の産業生産性調査委員会では、産業競争力における工作機械産業の重要性と、その中で果たしたファナックの役割について、明確に認識していたことがわかる。
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柴田 友厚(しばた・ともあつ)東北大学大学院経済学研究科教授
1959年生まれ、京都大学理学部卒業。ファナック株式会社、笹川平和財団、香川大学大学院教授を経て2011年4月から現職。「イノベーションと変化のマネジメント」を研究分野とし、大学でイノベーション論や企業論の授業を担当する。著書に、『イノベーションの法則性』(中央経済社)、『日本企業のすり合わせ能力』(NTT出版)など。
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(東北大学大学院経済学研究科教授 柴田 友厚 写真=時事通信フォト)
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