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中国の南米宇宙基地、米が牽制

中国「宇宙探査センター」出典:アルゼンチン政府文部科学省

山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・アルゼンチンに中国が宇宙基地建設。

・米、けん制と監視のため、緊急事態対策センターを建設。

・アルゼンチン政府、米中間で巧みな外交戦略展開。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44969でお読みください。】

■ パタゴニアで建設中の米国の施設とは?

アルゼンチンのパタゴニア地方のネウケン州で今、米国が「緊急事態対策センター」(EOC)の建設を進めている。在ブエノスアイレス米大使館によれば、このEOCはアルゼンチンの支援要請に応じ、現地の自然災害対策を目的として建設される。ネウケン市の空港近くの約2ヘクタールの敷地にオペレーションセンター、環境モニター室、500人収容可能な宿泊施設などが作られる計画。工事は昨年から始まっており、早ければ今夏までには完成する予定だという。

EOCの目的について「自然災害への対応や防災だけでなく、ネウケン州の資源開発に関与する米国企業の利益を守ることも重要な使命だろう」とアルゼンチン在住の日本貿易商社幹部は話す。ネウケン州は世界最大級のシェールガスやシェールオイルの埋蔵量があるといわれ、シェブロンやエクソン・モービルなど米国企業がこれら資源の探査・開発に参加している。

だが、EOC建設にはさらに重要な目的が隠されているとの見方が有力だ。アルゼンチンの有力紙「クラリン」は軍事専門家の意見を引用しつつ、このEOCが中南米・カリブ地域を担当する米南方軍の主導で建設されると指摘し、「自然災害対策を隠れ蓑に軍事基地として使用されるのでは」と疑いの目を向ける。ネウケン市の新聞「マニャーナデ・ネウケン」の報道によれば、地元住民の間では、米軍基地化を心配する声が日増しに強まっているという。

■ 中国は“宇宙基地”を本格稼働

米軍事基地説が浮上する背景には中国の動きがある。ネウケン州では昨年4月から中国の「宇宙探査センター」が本格稼働した。同センターについて中国政府は「宇宙の平和利用のための観測・探査が目的」と強調する。今年1月に中国の無人探査機が月の裏側に着陸することに成功した際もこのセンターが重要な役割を果たしたという。

▲写真 中国「宇宙探査センター」出典:アルゼンチン政府文部科学省

しかし、中国側の主張とは裏腹に、同センターが軍事目的に利用されると警戒する声は多い。特に米国が懸念するのは、この中国の施設が誰の監視も受けずに管理・運営されていることだ。センターは、2012年当時のアルゼンチン・フェルナンデス左派政権との合意に基づき、約200ヘクタールの広大な敷地に建設されたが、敷地内は治外法権扱いとされ、アルゼンチン当局者すら事実上、立ち入り検査ができない。中国人民解放軍の管理下に置かれるとの説が専ら。しかも、敷地は50年間無税で中国が借用する。米南方軍のファーラー司令官は今年2月初め米上院軍事委員会で、中国の宇宙探査センターが軍事利用される恐れが強いと警告を発した。

事実、同センターの機能に関しアルゼンチンや米国の軍事専門家の間からも「他国の衛星通信を傍受したり、妨害したりすることが可能」との見方が示され、宇宙覇権を目指す中国の“宇宙基地”と伝える報道もある。

▲写真 中国「宇宙探査センター」で働くオペレーター 出典:アルゼンチン政府文部科学省

■ 米中相手にしたたかな外交―アルゼンチン政府

米中つばぜり合いの様相が濃くなる中、アルゼンチンのマクリ大統領は両大国を相手に巧みな外交を演じている。

マクリ大統領は2015年暮れに就任以来、アルゼンチン外交の転換を図り、フェルナンデス前政権の反米路線から、親米路線へと大きくカジを切った。トランプ米大統領とは旧知の仲でもあり、積極的な対米外交を推進。自国通貨ペソ急落で国内経済が苦境にあえいでいた昨秋にはマクリ大統領自ら、トランプ大統領に直接電話をかけ、国際通貨基金(IMF)の下で行うアルゼンチンの金融、財政政策への支援を得た。

昨年12月ブエノスアイレスで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議の直前、アルゼンチン政府は米国海外民間投資公社(OPIC)との間で総額8億ドルを上回る投資案件に関する合意文書に調印している。

▲写真 アルゼンチン・マクリ大統領 出典:ロシア大統領府

一方、中国への対応でも「マクリ大統領はしたたかな手腕を発揮している」(在ブエノスアイレス外交筋)ようだ。同大統領は昨年暮れのG20に参加した各国首脳の中で、「中国の習近平国家主席をただ一人、本当の意味での国賓としてもてなした」(在日アルゼンチン大使館関係者)といわれ、中国を特別扱いする姿勢を鮮明にした。

習近平主席との首脳会談では通貨スワップの拡大をはじめ、通商、投資、インフラなど広範な分野で大型の経済支援を取り付けることに成功。「中国の『一帯一路』構想への協力強化を約束するなど大統領の抜け目のなさが目立った」(前述の外交筋)という。

ネウケン州の中国の「宇宙探査センタ―」をめぐっては「中国の“特権”を黙認する代わりに経済援助を引き出し、米国が建設する新たな施設を利用して中国の動きを監視するというのがマクリ大統領の腹積もりではないか」と、現地メディアは伝えている。

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