記事

「令和」の元ネタは中国の古典なのに…

新元号「令和」が決まり、出典は国書(日本で書かれた書物)の万葉集だと発表されました。「あれ?」と首をひねった人も多かったでしょう。和書と言いながら、出典とされる部分が大和言葉(やまとことば)ではなく漢文だったからです。狐につままれた気分でいると、午前11時41分の発表からわずか3時間余り後の午後2時55分に、「Twitter」で岩波文庫編集部のツイートが種明かしをしてくれました。

岩波文庫編集部 ‏ @iwabun1927

新元号「令和」の出典、万葉集「初春の令月、気淑しく風和らぐ」ですが、『文選』の句を踏まえていることが、新日本古典文学大系『萬葉集(一)』 https://www.iwanami.co.jp/book/b325128.html の補注に指摘されています。

「「令月」は「仲春令月、時和し気清らかなり」(後漢・張衡「帰田賦・文選巻十五)」とある。」

なんのことはない、「初めて和書を出典とした」と言いながら、実は中国の代表的古典「文選」からの孫引きだったわけで、政府の説明は看板に偽りありです。「出典は文選だが、万葉集にも類似の文章がある」というのが実態で、万葉集を引き合いに出すにしても「文選と万葉集の二つが出典」と言い張るのがせいぜいでしょう。

 私の前回のブログ『新元号 和書出典なら伝統の破壊になる』(3月31日)から、関連する部分を再掲します。

「朝日新聞は『新元号、初めて日本の古典由来に? 漢籍とのダブル説も』(3月19日)という興味深い記事を出しています。この記事には『日本と中国両方の古典にルーツを持つ元号となる可能性も取りざたされている』と書かれています。元号にふさわしい良い意味を持つ言葉は、和書に掲載されていたとしても元々は漢籍から借用してきたケースが多いので、和書から持ってきても漢籍からの孫引きとなってしまうというわけです。」

まさに、この通りになったわけで、朝日新聞の予想が的中したというか、取材が的を射ていたといえそうです。

和歌集である万葉集は、歌の部分は大和言葉(やまとことば)で書かれていますが、令和の出典とされる序文は「どういう状況でこの歌が詠まれたか」を説明する解説で、まったくの漢文です。そして、日本で書かれた漢文が漢籍から表現を借用するのはごく一般的なことです。今風に言えば「パクリではなくリスペクト」で、読み手も「これは張衡の帰田賦だね」なんてニヤリとするわけです。

首をひねらざるを得ないのは、政府が文選の孫引きであることを伏せて「出典は万葉集」だと言い張る理由です。政府は元号案の作成を、国文学、漢文学、日本史学、東洋史学の4分野の複数の専門家に委嘱したとしています。これらの学者らが「原典は文選である」と気付かないことは100%あり得ません。

『文選』は中国の南北朝時代に編纂された詩集ですが、これはもう定番中の定番です。日本で言えば『古今和歌集』くらいメジャーで、高校の教科書に載っているレベルです。元号の出典としても、サンスポの記事『元号のトリビア(4)引用回数』(3月28日)によれば、書経(35回)、易経(27回)に次ぐベスト3(25回)に入っているそうです。有名どころでは、明治の前の元号「慶応」の出典も文選です。

元号案の作成にあたっては綿密な調査をするはずですが、今回は国文学者であれ漢文学者であれ、「ちょっと調べれば分かる」「調べなくても知っている」程度のことではないでしょうか。学者サイドは間違いなく、「文選にこのような表現があり、これを受けて万葉集にもこう書かれています」とか、あるいは「万葉集のこの文章は、文選から引用したものです」等と報告したはずです。

出典が万葉集だと言い張っている理由は良く分かりません。「史上初めて和書から引用した」というレガシーをつくりたかったのか、それとも朝日新聞に見抜かれたのが気に入らないのか…。しかし、素直に考えれば「令和」の出典は、明らかに文選です。

安倍首相は令和について、「人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つという意味が込められています」と語っていますが、少々こじつけっぽく思えます。この序文は「大伴旅人の邸宅で宴会を開いたが、季候が良くて風も爽やか、梅はきれいで蘭も香っている。景色も良くて風情もある。酒を飲んで気持ちが通じて、良い宴会だなあ。よし、この気分を表現するために、みんなで歌を詠もうぜ」という程度の文章ですから…。

どうも、安倍首相は今回の元号選定を、個人的なアピールの場と履き違えている気がしてなりません。元号は天皇陛下が定める国民共有の財産で、首相個人や特定内閣の私物ではないのですから、この一連の流れは、いささか見苦しいものでした。

あわせて読みたい

「新元号」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    よしのり氏「山本太郎氏は終了」

    小林よしのり

  2. 2

    不評クドカン大河は本当に酷いか

    新井克弥

  3. 3

    中国人記者 天皇陛下に深い敬意

    PRESIDENT Online

  4. 4

    「処理水飲め」応じても解決せず

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  5. 5

    河野太郎氏が振り返る自身の外交

    河野太郎

  6. 6

    血税1兆円イージス購入 亡国の道

    文春オンライン

  7. 7

    加害者の実名さらし 収入目的も

    文春オンライン

  8. 8

    立民に入党「代表から強い要請」

    黒岩宇洋

  9. 9

    北が新ネタで文在寅政権に攻勢

    高英起

  10. 10

    遅すぎる豚コレラのワクチン接種

    小宮山洋子

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。