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“イチロー的存在が日本を救う” ~イチローの人生・言動にみるリーダーシップ ~

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先述したミスチルの「イノセント・ワールド」の歌詞の中に「陽(ひ)の当たる坂道をのぼるその前に、またどこかで会えると良いな」という一節があるが、イチロー選手は、脚光を浴びるようになった後も原点となる「イノセント・ワールド」での想い、即ち、「何者でもなかった自分が、何に悔し涙を流し、何を心のよりどころとして生きてきたのか」を常に胸に大切に抱いているように思う。「振り子打法」の否定に苦しみ1軍と2軍を行ったり来たりして悩んだ日々と、その時に刻み込んだ想いが念頭になければ、引退会見でのあの言葉は出ないであろう。真の始動には「原点の想い」が重要だ。

原点と言えば、イチロー選手は、米国で2度目の首位打者に輝きシーズン最多安打の新記録を打ち立てた直後の2005年春、雑誌Numberの「日本野球の25人 ベストゲームを語る」のインタビューで、興味深いことに、何と自身が愛工大名電高校にいた際の1991年の愛知県大会の準々決勝の試合を挙げている(余談だが、私はこのインタビュー集が大好きで一時期何度も読み返していた)。

イチロー選手は、当時を振り返り、「あの夏、僕の目標は甲子園に出ることじゃなかった。高校に入る前からプロになることを第一に考えていて、モチベーションが他の選手とは全く違っていた」と自らの原点となる強い想いについて述懐している。結果として、オリックスにドラフト4位で何とかすべり込めたのは、この試合が鍵であったと。

実は愛工大名電高校は、この県大会の準々決勝では、強豪の中京高校に3-5で負けていて、イチロー選手は見せ場もなく、甲子園はもちろん、プロ入りするという夢も潰えかかっていたらしい。ところが、圧倒的な強い想いをベースに、自らの道をコツコツと歩んでいると「不思議な導き」があるようだ。何とこの負け試合は、途中で降雨ノーゲームとなる。そして、翌日行われた再試合の準々決勝で、イチロー選手は、逆転ホームランを含む4打数3安打と大活躍する。次の準決勝でも満塁ホームランを含む5打数4安打と大爆発する。決勝ではノーヒットに終わり、甲子園出場も逃すが、この年のドラフトで、先述のとおりオリックスに指名される。

降雨ノーゲームがなければ、愛知大会準々決勝と準決勝での大活躍はなく、イチローにはドラフト指名が来なかったかも知れない。再度ミスチルの歌詞となるが、あたかも「『運命のいたずら』ってやつも考慮して」原点の想いを大切にコツコツと努力していたかのような述懐だ。___

考えすぎかも知れないが、イチロー選手の引退の決断には、平成の終わりが影響している気がしてならない。平成という時代と共に、何者でもない少年から「陽のあたる坂道」をのぼりつめた英雄は、刀折れ矢尽きつつも闘い続けていたが、突然の平成時代の終焉を目前に想うところがあったのではないか。天皇陛下の生前退位こそが「運命のいたずら」であったのかも知れない。二刀流でメジャーを沸かせる大谷翔平やチームメイトとなった菊池雄星といった次代の才能への期待も込めて、時代の終わりに身を引いた気がする。曰く「雄星のデビューの日に僕は引退を迎えたというのは、何かいいなと思っていて」。

平成という時代は、日本の凋落の時代であった。特に経済面での存在感は地に墜ちた。平成6年に、世界のGDPの18%近くを占めていた日本のGDPは、1/3の約6%に落ち、平成元年から4年まで1位だった日本の国際競争力ランキング(IMD調べ)は30位近くをさまよっている。平成元年に世界の時価総額ランキングでトップ50社中32社を占めていた日本企業だが、現在はトヨタ自動車1社(30位代)だけだ。

この凋落は、我が国の天然資源の枯渇といった外生的ショックが原因ではない。残念ながら、突き詰めると人的資源の劣化以外に原因を見出すことは困難だ。これまで世界を席巻してきた日系企業、或いは日本を牽引してきた政治・行政分野では、変革を志す始動者(=リーダー)が激減し、目先の地位の獲得・安定を目指す茶坊主が激増してしまった。

ただ、一方で、イチロー選手の活躍が代表的だが、スポーツ、アニメ、食、美容、建築などの主に文化面では、平成を通じて世界における日本の存在感は、格段に上昇してきているとも言える。道を切り拓いたイチロー選手をはじめ、面白い変革者・始動者がむしろ増えている印象だ。「イチロー的存在」こそが、日本の将来の活路だ。

そんな中、「始動者」の集まりを目指す「青山社中リーダー塾」の9期生募集が3月22日の無料説明会を皮切りに本格的に開始した。塾頭として、日本を様々な分野から共に変革していく志士たちとの楽しみな出会いを願ってやまない今日この頃だ。我こそは、と思う方は、是非、弊塾の門戸をノックしてもらいたい。「閉ざされたドアの向こうに新しい何かが待っている」かもしれない。

「成功すると思うからやってみたい。それができないと思うから行かないという判断基準では、後悔を生むだろうなと思います。できると思うから挑戦するのではなくて、やりたいと思えば挑戦すればいい。その時にどんな結果が出ようとも後悔はないと思うんですよね。」とは、引退会見におけるイチロー選手の言葉だ。

「世界に誇れ、世界で戦える日本を創る」と一念発起して、約14年勤めた霞が関を飛び出して創立した青山社中も9年目を迎えている。毎月末に発行する定期無料メルマガも、今回で100号を迎えるに至った。つい長文になってしまったが、ここまで読んでくださった読者諸賢には感謝したい。

最後に、イチロー選手が会見中に述べた珠玉の言葉を引用して筆をおくこととしたい。自らの戒めとしつつ、今後とも指導者ならぬ始動者として歩んでいきたいと思う。塾生たちは、塾頭の指導よりも、塾頭の背中に影響されると信じて。

「人より頑張ることなんてとてもできないんですよね。あくまで『はかり』は自分の中にある。それで自分なりにその『はかり』を使いながら自分の限界を見ながらちょっと超えていくということを繰り返していく。そうすると、いつの間にかこんな自分になっているんだという状態になって。だから少しずつの積み重ねでしか自分を越えて行けないと思うんですよね。一気に高みに行こうとすると、今の時分の状態とギャップがありすぎて、それは続けられないと僕は考えているので、地道に進むしかない。(中略)でも、それが正解とは限らないわけですよね。間違ったことを続けてしまっていることもあるんですけど。でも、そうやって遠回りすることでしか本当の自分に出会えないというか、そんな気がしているので」

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