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  • 濱田真里

「女性を憎んでいた」無差別殺人事件をきっかけに盛り上がる、韓国フェミニズム運動のいま

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声を上げる女性たちによって、急激に変化する韓国社会

韓国のフェミニズムが、今熱い。おそらくアジア諸国で一番盛り上がっている国といっても過言ではないだろう。きっかけとなったのは、ソウル地下鉄全線で最も乗降人員が多い駅と言われるソウル・江南(カンナム)駅で2016年に起きた女性刺殺事件だ。

2016年5月17日深夜、江南駅10番出口付近のビルの男女共有トイレで、23歳の女性が見知らぬ男性に刺殺された。男性はその後、「日頃から女性を憎んでいた」と発言し、女性たちの多くが「被害者女性はただ女性だというだけで殺された」「もしその場所にいたら、私が殺されていたかもしれない」と韓国社会にはびこる女性への暴力を問題視する一方、多くの男性が「被害者の性別は問題ではない」と主張して大きな論議となった。

この事件以降、韓国社会では女性たちが声を上げ始めたと言われている。Me tooムーブメントや違法動画撮影に対し数万人が街に繰り出すデモなど、「もう黙っていられない」とばかりに様々な動きがある。

特徴のひとつは、韓国のフェミニズム運動を先導しているのは20、30代の若い人たちだということだ。今では韓国の若者にとって「フェミニストであることはカッコいい」という認識まで生まれ、韓国女性政策研究院の調査では韓国の20代女性の42.7%、20代男性の10.3%が自らをフェミニストだと認識しているという結果になった。

本稿では、そんな韓国フェミニズムについて、筆者が今年2月に韓国・ソウルへ行って聞いてきた話や、韓国フェミニズムムーブメントのきっかけになった話題の本『私たちにはことばが必要だ――フェミニストは黙らない』の著者であるイ・ミンギョン氏への現地インタビューをお届けする。

イ・ミンギョン氏

「江南駅殺人事件が起こり、それまでの自分のように生きられなくなった」

――この本の大きなメッセージに「会話に応じるかどうかは、あなた自身が決めていい」というものがあります。なぜそう思うに至ったのでしょうか?

男友達に電話で3時間、自分が受けてきた性差別について話したことがきっかけです。いくら丁寧に一生懸命説明しても、理解してくれない。しまいには、「それはおまえが女だからしょうがない」「経験したことがないからわからない」と言われ、全く対話にならなかった。

彼以外にも、こういったやり取りを今までに何度もしてきて、本当に疲れ果ててしまって。そして電話を切った後、「なんでこんなに苦労しながら教えなければいけないんだ」「次はもう、説明しない」と心に決め、この本に書いたメッセージを思いついたのです。

――そんな出来事があったのですね。本書を書こうと思ったきっかけは、江南駅殺人事件だったと本に綴られていました。

その通りです。実は、私が男友達と電話で話したのは江南駅殺人事件が起きる3日前でした。そして事件後にSNSを見ていると、友人たちが周りの男性から事件の背景にあるとされた女性嫌悪や性差別に対する質問をされ、説明しようとし、苦痛を受けていることが伝わってきたのです。

その姿を見て、「あの時の私と同じ理由で苦しんでいる!」「これは個人的な体験ではなく、女性全体の体験だったんだ」と気づきました。

これまでも、性差別や女性嫌悪に基づく出来事に問題意識を持っていたのですが、具体的な行動は起こしていなくて。フェミニストに関心はあるけれど、そうとは名乗らない曖昧な時期を過ごしていたんです。

でも、江南駅殺人事件が私を決定的に変えました。今まで我慢したり心の中に積み重ねたりしてきたものが限界値を超えて、それまでの自分のように生きられなくなった。そして、事件の直後から自分のことをフェミニストだと名乗り、「これ以上友人たちが苦しまないようにしたい」と思って本の執筆をスタート。

9日間で一気に書き上げ、クラウドファンディングで出版のための支援を募りました。すると、プロジェクトの目標金額は3時間で達成し、最終的に3週間で約400万円が集まったのです。

初版5000部はあっという間に完売したので版を重ね、製作時に集まってくれたデザイナーやフェミニストたちはそのまま独立出版社を立ち上げました。現在この本はフェミニズムの入門書として広まっていますが、フェミニズムの本というより、女性が自分の言葉で話すための入門書として気軽に手にとっていただきたいと思っています。


ネットフェミニズムが、若い世代を巻き込んだ

――韓国では近年10、20代の若い世代がフェミニストとして活動していると聞きます。日本では韓国ほど、フェミニストとして名乗る若者は多くないと思うのですが、なぜ韓国では若い人を巻き込むことができたのでしょうか。

インターネットの影響でネットフェミニズムが広がったためだと思います。韓国でもフェミニズムに関心のない若い世代がたくさんいましたが、インターネットの力でその“どちらでもなかった”中間層を引き込んだのです。

運動において大事なのは、面白くてユーモアがある取り組みであること。たとえばミラーリングと呼ばれる、今まで女性が受けていた差別や言葉を男性に投げ返す手法は、女性嫌悪の深刻さを逆説的に伝える運動としてかなり広まりました。社会が女性に対して求める美の基準に意義を唱える「脱コルセット運動」も、SNSを通じたビジュアルとしてのインパクトがかなり話題になりました。

正義や正しさではなく、単純に面白いから多くの人が見るようになるのです。深刻さを出さなくても、大事なメッセージを伝えることはできます。韓国のネットフェミニズムではそうやって多くの人を巻き込んでいきました。

――日本でも、韓国ほどではありませんが、少しずつSNSを中心に声を上げる動きが出ています。『週刊SPA!』の「ヤレる女子大生ランキング」に対して学生たちが署名活動をして編集部と対話したり、女性蔑視的な広告に対してTwitterで批判したりと、これまでと変わってきた流れもあります。

なるほど。しかし、デモとかはしないんですね……日本は本当に優しいフェミニズムですね。韓国で同じようなことが起きたら、みんなで抗議します。女性蔑視的な広告を出す企業には不買運動をしたり、企業に直接電話したり、Twitterでハッシュタグを作って批判したり。

国民性もあると思いますが、韓国人は怒ると何らかの行動に繋げますね。日本人は自分の心の中で解決して日常生活に戻ったり、怒ってもそれを自分の心の中だけに留めたりすることが多いのではないでしょうか。

実はそういった違いも踏まえて、『私たちにはことばが必要だ――フェミニストは黙らない』の韓国版と日本版は、デザインが全く違います。韓国版のデザインは戦っているイメージなのですが、日本版はそれだと手にとってもらいにくいという理由で、できるだけ優しく、柔らかい印象に見えるように努力しました。一見フェミニズムの本だとはわからないような、クマのかわいいイラストが表紙には描かれています。


とはいえ、日本の変化を私も実感しています。今年の2月に日本で開催された本書のイベントに呼ばれたのですが、熱気があって盛り上がっていました。イベントチケットはすぐに完売しましたし、参加者はこれからの日本のフェミニズムに期待しているように感じましたね。

日本人女性の間にも、韓国人女性に起きたように、新しい意識の形成がされつつあるのではないでしょうか。それを私は待っていますし、私の本を通じて、ぜひお互いに繋がるきっかけを作って欲しいです。

インターネットでの動きも活発だが、ソウルにはフェミニストカフェ「Doing」など実際に繋がったり勉強会やイベントができたりする場所がある。店内にはフェミニズムに関する本を集めた大きな本棚があり、自由に読める

――日本と韓国の女性は、今後どのようにして連帯できると思いますか?

たとえば、今日本で開催されている韓国文学のセミナーに参加するのもいいですし、韓国で行われている運動を真似してやってみるのもいいですよね。また、Twitterのハッシュタグを通じて韓国のフェミニストと日本のフェミニストが連帯する動きは去年からすでにあります。

実は、韓国のフェミニズムは日本から影響を受けた部分もあるんですよ。今では韓国で普通に使われている「ミソジニー」という言葉は、『女嫌い ニッポンのミソジニー』(上野千鶴子著・ 紀伊國屋書店)が韓国語で刊行されたことがきっかけで認知されるようになりました。今後も一緒にできることはたくさんあるはずです。お互いの国のフェミニズム運動から刺激を与え合うことができたらいいですよね。

――最後に、『私たちにはことばが必要だ――フェミニストは黙らない』を日本ではどんな人に読んで欲しいですか?

10、20代の若い人たちに読んでもらいたいです。韓国ではデモにも10代の子がよく参加しているのですが、これまで起きた色んな革命は10、20代が牽引してきました。私は高校でフェミニズムの授業をすることもあるのですが、みんなどんどん行動を起こしてくれます。やはり世の中を変えるには、若い世代の力が必要なのだと思います。

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