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ナイキが"国歌に片膝"選手を支持した背景

■ジョブズが手本にしたナイキのブランド構築法

「ナイキ」といえば、多くのアスリートに支持され、人気のあるブランドだ。

ナイキは大胆な広告で支持を集めて、売り上げアップに成功した。(AFP/アフロ=写真)

ブランドの構築や、その維持において模範的な事例として広く注目されている。

スティーヴ・ジョブズ氏が、自分が創業したにもかかわらず、一時期追い出されていた「アップルコンピュータ」(その後「アップル」に改称)に復帰した際、真っ先に取り組んだのがブランドの再構築だった。

社内のミーティングで、ジョブズ氏はナイキがブランドとしていかにすぐれているかを熱弁する。

ナイキは「靴」という「コモディティ」(汎用品)を作っているのにもかかわらず、そのブランドは広く支持されている。なぜか? それは、ナイキが一貫して「アスリートに対するリスペクト」を示すことでコミュニケーションしているからだ。

それでは、アップルコンピュータはどんな会社なのか? コンピュータという「箱」を作る会社なのか? いや、違う。では、自分たちのブランドをどのように伝えればよいのか?

答えとしてジョブズ氏が提案したのが、「シンク・ディファレント」のコマーシャルだった。アルベルト・アインシュタインやボブ・ディラン、ジョン・レノン、パブロ・ピカソなど、既成の概念を破り、独創的な仕事で新しい道を切り開いた人たちの映像を用いて、「違う考え方をすること」(シンク・ディファレント)の大切さをアピールしたのだった。

結果として、キャンペーンは大反響を呼び、ジョブズ氏はアップルコンピュータのブランド再構築、そして経営の立て直しに成功する。その後の「iPhone」の発表に至る道筋はもはや歴史の一部である。

ジョブズ氏が、ブランド構築の模範としたナイキ。2018年、大きな反響を呼んだコマーシャルがあった。

アメリカンフットボールのスターであるコリン・キャパニック氏を一連のキャンペーンに起用したのである。

これは、リスクを伴う「賭け」だった。キャパニック氏は、アメリカ国内で論争を呼ぶ存在だったからである。試合前の国歌斉唱の際、掲揚された国旗を前に片膝をつくことで、人種差別の現状に抗議の意を表したキャパニック氏の行動が、賛否の烈しい論争を巻き起こしていた。

ナイキのコマーシャルは、キャパニック氏の写真にこんなキャプションをつけた。「何かを信じよう。その結果、すべてを犠牲にするとしても。」

これに対して、トランプ大統領がツイッターで批判し、ナイキの靴を燃やす動画を投稿する人が出るなど、反発が起こった。

ところが市場はむしろナイキを支持した。商品の売り上げが増えて、株価も上昇した。「ミレニアル世代」と呼ばれる若い世代を中心にナイキの姿勢に対する支持が広がった。

ナイキの広告は、「アスリート」という生き方を支持するというその「DNA」の本質に寄り添った表現だったと言うことができる。ある程度抵抗があっても、自分の信じる道をゆく。そんなメッセージがブランドの真ん中にあるという判断だったのだろう。

現代におけるブランド価値とは何か。破壊的イノベーションで文明が更新されていく現代においては、ありきたりのおとなしい広告では人々の心に届かない。

リスクをとってこそ、成果が挙がる。ブランドも人生も同じことだ。

(脳科学者 茂木 健一郎 写真=AFP/アフロ)

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