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ケムリクサになったわたくし

2年前けものフレンズになったわたくし、そしてけものフレンズ2になれなかったわたくしとしては、やはり最終回を迎えたケムリクサに触れないわけにはいかないだろう。同じたつき監督作品だから。

これ、脚本と構成は難しかったと思う。特に最初数話の、世界を状況を開示していく部分。物語の進行速度が遅いので、視聴者を離さないためには、キャラクターへの没入と、世界の謎への興味を獲得しないとならない。

その部分で人を選ぶ印象を、ケムリクサは与える。だが一話ごとにエピソードをていねいに描写するので、4話くらいからは、世界の謎よりも主人公たちの彷徨がどうなるか(うまくいってほしい)という点に、視聴者の興味が収束していく。

キャラクターの心情に寄り添う、ていねいな描写の積み重ねがあるからこそ、10話くらいからの怒涛の展開に、求心力がある。そして11話の絶望から12話のカタルシスへと、視聴者はとことん感情を揺さぶられてしまうのだ。

最後2話で、大量の伏線が高速回収される。それはもう見事で、各話にばらまかれていた細片すべてが伏線だったのかと、唖然とするばかりだ。何気ない会話、姉妹の発光部分、ボロボロの白衣、しばられていた紐や語尾すらも伏線だったのかと。

世界の滅亡後、絶望的な状況を背景に、それぞれ弱点を持った登場人物たちが、互いを思いやり、かばいながら、それでも希望に向かって進んでいく。――ケムリクサは、そうした構造を持つ物語だ。

誰しも気づくことだが、こうした構造やていねいな各話エピソード、伏線回収の見事さなどは、まさにけものフレンズ一期が持っていた美点と同じ。

けもフレに私が自分でも意外なほど惹かれたのは、やはりたつき監督の手腕だった。

もうこれは稀に見る逸材であって。私だけが感じていることではない。だからこそ、各所での高い評価やブルーレイのアマゾン上位独占などの結果を呼んでいる。




それにしてもあのエンディングアニメの演出はうまい。3話でエンディングのキャラ一覧を初めて観たとき、「これ死んだ順に爆散してるんじゃ」と気づく。ということは今後最終話に行くまでに、次々キャラが死んで、エンディングで爆散するんだろうなと予測できる。

そうでなければ、こんな演出にするはずがない(ぶん投げ伏線も同様になる)し、実際、一話冒頭でキャラがひとり死んでおり、今後もありうるとわかるから。「島を出るとだいたい誰か死ぬ」という会話もあるしさ。

それで実際、11話のエンディングが、あの演出だ。けもフレ並の「11話ショック」。12話でキャラが生きてたとわかると、「そういや爆散でなく、消える演出だった。あれは、りんが感知できなくなるって意味だったんだ」と気づく、といった具合。

こんな具合に、たつきは伏線のミスリーディングを仕掛けるのがうまい。「フネ」だとか「船長」ってのも、船の残骸にいるからだと思ったら、実はそうじゃなかった、とかもそう。

それで最後、12話のエンディングアニメが勢揃い(歌含め)で、暗転部に仕込みまで入れてる。

もう思うがままに「やられた」って感じ。

最終話を観終わった当方が最初に思ったのは、「たつきにビッグバジェットを与えたかったなあ」ということだ。ラスボスと三姉妹のバトル、シリアル描写じゃなく、カットインを多用したパラレル描写だったら、緊迫感が死ぬほど出ただろうにと。それには多くの人員や技術、時間などのリソースが必要。そのための予算を与えたかったと。あの戦闘、順番に攻撃したのでせっかくのラスボスが、あのシーンだけ棒立ち気味の間抜けに見えてしまった。

観た人なら誰しも感じたと思うが、ただしこれはケムリクサという作品にとって、わずかな瑕疵に過ぎない。魅力の本質は、戦闘にあるわけではないからだ。

いちばんの魅力は、「絶望的状況に負けない、優しさに裏打ちされた向日性」だ。これはたつき監督作品の、他者に取り替えのきかない美点だろう。

12話のボス戦を観ていて、「スタッフ頑張れ」という気持ちになった。「カメラを止めるな」の作中人物たち同様、限られた時間や予算で、それでもなんとかできうる限り上質な作品を届けようとする姿勢を感じたから。

作品全体から否応なく漏れ出してくる、主要スタッフの矜持や誠実さ。だからこそ感動するし、私を惹きつけてやまないのだろう。鬱展開でも癒し系の感すらあるのは、おそらくそのため。これこそが、今、この同時代でのケムリクサなのだ。


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