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【読書感想】セイバーメトリクスの落とし穴

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セイバーメトリクスの落とし穴 (光文社新書)

Kindle版もあります。



セイバーメトリクスの落とし穴?マネー・ボールを超える野球論? (光文社新書)

内容紹介

統計データを基に選手やチームを評価するセイバーメトリクスは、もはや野球界の常識となった。

だが、マネーボールでそのさきがけとなったオークランド・アスレチックスは以後、一度もワールドシリーズへ進出できていない。

データ分析が当たり前となった今、世界トップの選手たちや常勝球団はどのように周りと差をつけているのか?

ダルビッシュ有選手を筆頭に多くのプロ野球選手や専門家から支持を集める謎の素人「お股ニキ」が、未だに言語化、数値化されていない野球界の最先端トレンドを分析。

新たな魔球の投げ方からデータに依存しすぎない選手評価、球団経営の未来を知ることで、野球はもっと奥深く、楽しくなる!

 あのダルビッシュ有投手とも深い交流がある、Twitterの中の人「お股ニキ」さん。

 語っておられることは凄いし、とにかく野球を見る、研究するのが好きな人なのだな、というのは伝わってくるのですが、(御本人も仰っているように)こんな怪しいアカウント名の人でも、話の内容に興味があれば、真摯にやりとりをするダルビッシュ投手って、すごい人だなあ、と思ってしまいました。

 ちなみに、この本のタイトルは「サイバーメトリクスの落とし穴」なのですが、書かれていることは、サイバーメトリクス流行後の野球界(とくにメジャーリーグ)の技術的な最新のトレンドや采配、選手評価の仕組みについて、なのです。

 

 冒頭で、著者は最近のメジャーリーグ(MLB)の傾向について、こう述べています。

 2014年頃までは投手の球速上昇と守備シフトの発達が猛威を振るい「投高打低」の傾向が強まり、試合がつまらないので対策が必要と言われていたが、ボールの変更はもちろん、打者が急激に対応し始めたことで状況は一変した。そして2018年はホームランが増加する一方で投手もそれを防ごうと投球を変化させ、再び三振に仕留められるようになったため、得点はそれほど増えていない。こうした投手と野手のせめぎ合いも野球の楽しさではあるが、ファンが本当に「ホームランか三振か」の野球だけを求めているのかは賛否が分かれるところだ。

 レベルが極限まで向上すると、投手は三振を狙って三振を奪い、打者はホームランを狙ってホームランを打ち、野手はボールが上空を通過していくのを見るだけになる。現実に一部ではこうなりつつある。テレビの放映権収入で莫大な利益をあげているMLBではあるが、こうした大味な試合展開や戦力差の拡大などによって、球場の観客数は減少している。データをもとに最も効率的な野球を展開するのはマネジメント・経営者サイドとしては当然だが、本当にファンが求めている野球とは何なのか、エンターテインメントと結果重視のバランスを再考する段階に来ている。選手からも不満の声が漏れているようである。

 僕はこれを読んで、イチロー選手の引退会見を思い出していたのです。

full-count.jp

――イチロー選手がいない野球をどう楽しんだらいいか?

イチロー「2001年に僕がアメリカに来てから、この2019年の現在の野球は全く別の違う野球になりました。まぁ、頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつあるような……。選手も現場にいる人たちはみんな感じていることだと思うんですけど、これがどうやって変化していくのか。次の5年、10年。しばらくはこの流れは止まらないと思うんですけど。本来は野球というのは……ダメだ、これ言うとなんか問題になりそうだな。問題になりそうだな。頭を使わなきゃできない競技なんですよ、本来は。でもそうじゃなくなってきているのがどうも気持ち悪くて。ベースボール、野球の発祥はアメリカですから。その野球がそうなってきているということに危機感を持っている人って結構いると思うんですよね。だから、日本の野球がアメリカの野球に追従する必要なんてまったくなくて、やっぱり日本の野球は頭を使う面白い野球であってほしいなと思います。アメリカのこの流れは止まらないので、せめて日本の野球は決して変わってはいけないこと、大切にしなくてはいけないものを大切にしてほしいなと思います」

 僕はこの本を読んで、ああ、イチロー選手が引退会見で言っていたのは、こういうことだったのか、と腑に落ちたのです。

 トレーニング方法が進化し、投手の技術も野手のパワーも向上してきたことにより、MLBには「三振かホームランか」という野球に変わり、イチロー選手のようなプレイヤーの居場所がなくなってきていたのです。

 三振かホームランか、というのは、大エースと大打者のオールスターゲームでの対決ではドラマチックな場面なのでしょうけど、公式戦がずっとそんな大味な展開ばかりでは、物足りないという野球ファンは多いはずです。

 最近のMLBの傾向として、長打の確率が高い、フライを打ち上げるバッティングの有効性が周知されているそうです。

 データを踏まえると、そういうチームを作らないと勝てなくなってきているということであれば、野球はどんどん大味になっていくのでしょう。

 もちろん、歴史のどこかで、これまでも繰り返されてきたような、スモールベースボールへの「揺り戻し」も起こるのかもしれませんが。

 著者は、「あまりにも技術論や練習法が進歩してしまうと、最終的には、努力で差がつかない、才能ですべてが決まる世界になってしまうのではないか」とも仰っています。

 みんながいちばん合理的なフォームで投げ、打ち、真面目にトレーニングばかりしていて、三振かホームランのプロ野球!

 ……実際は、そう簡単に「個性」が失われることはないと思いますが、観客としては、なんだか怖くなってきます。

 FAで巨人に移籍するヤツがいるのは許せないのだけれど、そういう選手への怨念みたいなものが、カープファンである僕を燃え上がらせる、という一面もあるわけで。

 とはいえ、この本を読んでいると、野球の「本質」というのは、僕がこれまで思い込んでいたものとはだいぶ異なっている、ということも思い知らされるのです。

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