- 2019年03月27日 15:44
「こども食堂」は、2018年3月の時点で2,286ヵ所まで増えました。わずか2年で7倍になって、今もどんどん増え続けている - 「賢人論。」第85回湯浅誠氏(後編)
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ホームレス支援活動を通じて「貧困問題」に突き当たり、内閣府参与、大学教授を努めながらも、社会活動家として日本社会から貧困をなくす活動に取り組んできた湯浅誠氏。少子化、高齢化、人口減少の波にさらされている日本が危機を脱するには、「共助」のパワーバランスを上げていくことだと言う。今の日本社会がどのようになっているのか、改めて語ってもらおう。
取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人
かつての「日本型雇用、日本型福祉社会」は崩壊しつつある
みんなの介護 湯浅さんは2度目に内閣府参与になったとき、就任の条件として次の目標を掲げています。
①女性や若者の就業率の向上
②家計支出(子育て・教育・住宅費用)の低減
③子ども(子育て世帯)やひとり親世帯および日本全体の相対的貧困率の低減
これらは現在、安倍内閣が少子高齢化への取り組みとして目標にしている「一億総活躍社会の実現」を先取りしていたように見えます。湯浅さんが蒔いた種が芽を出したということでしょうか?
湯浅 いえいえ、私が蒔いた種というより、超高齢化および人口が減少している日本の社会は、そういう方向へ向かわざるを得ない状況になっていて、私はただそれを指摘しただけです。
さかのぼれば、2008年の福田内閣のときに開催された社会保障国民会議でも「全員参加型社会」という目標が打ち出されていますし、私が内閣府参与を努めたときの鳩山政権でも、「みんなに居場所と出番を(社会的包摂)」という言葉でその目標が表現されています。
安倍政権の「一億総活躍社会」は、いわばそのバリエーションとも言えるでしょう。世の中の客観的な構造というのは、誰が総理大臣を務めたとしても変わらないので、言葉の表現やテイストに違いはあっても、同じことをやらざるを得ないんです。
みんなの介護 湯浅さんは、今の世の中の構造をどう捉えていますか?
湯浅 ひとことで言えば、高度経済成長期以降の「日本型雇用、日本型福祉社会の崩壊過程」であると捉えています。
つまり、現役世代は家族と企業で支え、引退世代は社会保障で支えるというモデルが成り立たなくなってきたということです。
そもそも、正社員として働く世帯主1人の給料で、家族全体の生活費だけでなく、子どもの子育てや教育、住居などのすべてを賄っていたのが不思議な状態なんです。
これは、急速に経済が発展していた高度経済成長期だからこそ実現できたモデルで、90年代以降、国も企業も余裕を失った結果として家庭の支える力も弱っていき、誰からも支えられずに生活困窮に陥る人が増えていった。
みんなの介護 誰からも支えられなくなった人とは、湯浅さんがこれまで支援してきたホームレスなどの人たちですね?
湯浅 支えを失っているのは、ホームレスだけに限りません。
働き過ぎでメンタルヘルスを害した労働者、就職氷河期世代の未婚男女、親が高齢化した障害者や引きこもりの人たち、リストラされた中高年男性とその家族、貧困家庭に育った子どもたち、家族に支えられなくなった低年金・無年金の高齢者、親の介護や子育て負担から充分な就労機会を持たない人たち、廃業せざるを得なかった自営業者など…。
「貧困」の世界は今や、これほど多様になっているんです。