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「参考人質疑」と「証人喚問」の区別を付けられない国会~AIJの複雑なスキームと、幼稚過ぎる事業報告書

「証人が正当な理由なくて宣誓または証言を拒んだときは、1年以下の禁固または10万円以下の罰金に処せられ、また、宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、3月以上10年以下の懲役に処せられることになっております」

13日金曜日に実施された衆議院の財務金融委員会におけるAIJ投資顧問浅川社長、西村アイティーエム証券社長、石山氏に対する証人喚問は、前回の参考人質疑とは打って変わって、委員長の厳しい指摘で始まった。

しかし、委員長の厳しい指摘とは裏腹に、議員達の追及は参考人質疑と同様に大甘であった。

「私共は今回のAIJの資料を解析しておりまして、あなたたちがどういうことをやっていたか、ほぼ、あの、理解しているつもりです。ええ、また、そういう技術を持っております」

こう豪語して喚問を始めた議員の追及も、何を解析したのか、「そういう技術を持っている」ということを微塵も感じさせない、聞いている方が恥ずかしくなるような素人質問のオンパレードであった。

AIJ の資料を解析したという議員が示したロジックは、「10%を上回る高利回りを謳った5兆円を超える投資詐欺事件であるマドフ事件や、430億円の証券詐欺事件であったベイユー事件と比較して、AIJが示した累積パフォーマンスはマドフ事件の約3倍、ベイユーの約2倍の高い実績」であったことを示し、それを以て、「これは大変な虚偽だと、世界でも群を抜く虚偽だ」と断定。「この3ファンドとも高い運用利回りの源泉として精巧なオプション戦略を主張している」という共通点を挙げ、「この資料を見ただけでもAIJがとんでもない未曾有の巨額詐欺事件であることは明らか」だというトンチンカンな論理を展開した。

虚偽の実績が、過去最大の高いパフォーマンスであったことを以て「大変な虚偽だ」というのだとしたら、虚偽の実績が小さかったら「小さな虚偽」「大したことのない虚偽」ということなのだろうか。ついた嘘の大きさは、事件の大きさを測る物差しではない、全く別の問題である。

また、「精巧なオプション戦略を主張している」ことを以て「未曾有の巨額詐欺事件」だと決めつけるのは、「そういう技術を持っていない」素人が用いる感情論で、全く生産性のない議論である。

「精巧なオプション戦略を主張すること」=「詐欺」と決めつけてしまえば、世の中には詐欺まがいの商品が溢れていることになる。大手銀行が、年金や保険とお化粧をして「アマチュア投資家」に販売している商品の中にも、「精巧なオプション戦略」を利用して作られているものが山ほどある。これらの「精巧なオプション戦略」を利用することを顧客に伝えていない商品は「詐欺」にならず、「精巧なオプション戦略を主張」としたら「詐欺」とされるとしたら、今後「精巧なオプション戦略」を利用していることを顧客に隠す方が有利だという本末転倒の議論になってしまう。

こうした素人レベルの感情論を披露することに時間を浪費したうえで浅川社長になされた質問は、

「これまであなたは騙す意図はなかった、とこういう風におっしゃっていますが、受託資産をほとんど消失しているのに、顧客に嘘の運用報告を見せて金を集めていたことは事実であります。これは明らかに騙す意図があったということは間違いないと思いますが如何ですか」

と、浅川社長に感想を求めるもの。当然のように浅川社長の回答は

「何度も申し上げていますが、お客様のお金を騙し取って自分の利益をとるとか、そんな意思は全くありません」

という、参考人質疑から耳にタコが出来るほど聞かされ続けたおなじみのフレーズ。

続いてこの議員が取り上げたのは、ある年金基金の議事録に記載された「ある理事さんが、『この商品のリスクはなんだろう』か、と聞いたと。浅川和彦氏『リスクは余りない。株や債券が下がれば下がるほどこの商品の価値は高まる』と。…(略)…。また、『地震やテロがあれば下落するが、こうしたことは通常度々起らない』」という浅川社長の発言。

この議員が紹介した浅川社長の発言は、矛盾に満ちたもので、質問としてはいいポイントを突いていた。

「株や債券が下がれば下がるほどこの商品の価値は高まる」という浅川社長の主張が真実だとしたら、この商品は、実質プットオプションの買いか、コールオプションの売り、或いは両方というポジションをとっていたということ。

これに続く「地震やテロがあれば下落するが」という浅川社長の発言が、「相場が下落する」という意味なのか、「この商品の価値が下落する」という意味なのかは定かではないが、「相場が下落する」という意味ならば、「株や債券が下がれば下がるほどこの商品の価値は高まる」ポジションをとっていたと主張するこの商品にとっては好都合(価値が上がる)のはずである。

反対に、「地震やテロがあればこの商品の価値が下落する」という意味の発言だとしたら、それは、浅川社長が「地震やテロがあれば相場は上昇する」と思っていた(相場が上昇するので、「株や債券が下がれば下がるほどこの商品の価値は高まる」というポジションをとっているこの商品の価値は下がる)のか、或いは、「株や債券が下がれば下がるほどこの商品の価値は高まる」というポジションをとっていなかったのかどちらかということになる。

「解析する能力を持っている」議員ならば、こうした浅川社長の発言の矛盾点を突き、実際に浅川社長がどのようなポジションをとっていたのかを追及するべきだった。こうした質問に答えられないのだとしたら、浅川社長が実際にはオプションを使った運用など行っていなかったこと、要するに「騙す意図があった」ことの証明に繋がる可能性が出て来るからである。

しかし、「解析する能力」を持ってない議員の追及は、「東日本大震災が起きた時に4.88%の利益が出ている。これはいかにひどいか、これは明らかに詐欺ですよ。地震が起きたら下がると言っているのに地震が起きても全然下がっていない、でたらめな説明で勧誘をしていることは明らか」という的外れな感情論に向かってしまった。そして、「改めて質問しますが、あなたは事実と全く違う説明をしている。それによって多くの被害者を出してしまった。これは具体的に騙す意図があったのは明らか。もう一回どうですか。」

こうした追及に対する浅川社長の回答は、壊れたテープレコーダーを聞くようなものだった。

的外れな質問を繰り返す議員の質問の唯一の成果は、アイティーエム証券の西村社長から、年金基金より前にAIJ投資顧問に対して運用資産を預けていたのが「神戸女子学園」であるという証言を引き出したこと。まさに「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」を地でいった形。

ネットで調べる限り「神戸女子学園」という名称の学校は存在しないようだが、年金基金より前からのAIJ投資顧問のスポンサーの具体名が出てきたことは、 AIJ事件の全体像を把握する重要な手掛かりになる可能性を秘めたもの。ただ、この議員のお手柄は、もしかしたら「やぶ蛇」になってしまう可能性も秘めている。

延べ5時間にも及ぶ証人喚問は、殆ど見るべきものがなかった。それは、国会議員の知識不足と勉強不足は勿論のこと、国会議員達が「参考人質疑」と「証人喚問」の区別を認識していなかったことも大きな原因である。参考人に意見を述べてもらう場である参考人質疑であれば、参考人に対して「どう思いますか」という質問は仕方がない。しかし、偽証罪を問える証人喚問で「どう思いますか」という質問はあり得ない。「思い」や「感想」に「偽証」など存在しないのだから。

証人喚問においては、「思いますか」ではなく、資料に基づく矛盾点を挙げ、「YES or No」を応えさせなければ、証人喚問の意味がない。こうした基本的な違いを国会議員達が認識しないで証人喚問を繰り返しても、それは各党、各議員の政治的パフォーマンスの場にしかならない。これは税金の無駄遣いでしかない。次回参議院でも行われるだろう証人喚問では、参考人質疑との違いを踏まえ、資料の解析に基づいた「YES or No」を迫る追及をして貰いたいものである。

参考人質疑と証人喚問を通して感じたことは、浅川社長はデリバティブの運用など殆ど実際に行っていなかっただろうということ(少なくとも本人は)に加え、本当に浅川社長は全体像を殆ど理解していなかったのではないかということ。

あくまで個人的な見解であるが、年金から資金を騙し取ろうとするスキームとしては、今回のスキームは複雑、大袈裟過ぎるように思えてならない。以前にも指摘したが、このスキームは「年金から資金を騙し取ろうとしたスキーム」というよりも、「集めた資金がどこに流れたのかを隠すためのスキーム」であるように見える。

AIJの資料に目を通して解せないことは、これだけ複雑なスキームを作り上げられる人物が、何故一瞥しただけでおかしいと思われるような突っ込みどころ満載の「事業報告書」や「会社概要」を公表していたのかということ。本当に騙すことが目的であったのであれば、「事業報告書」や「会社概要」も巧妙に厚化粧して美しく見せるのが当然である。複雑なスキームと、余りにも稚拙な報告書の間に落差があり過ぎる。

参考人質疑から証人喚問に至るまで、国会議員達は「年金基金を騙してお金を集めたか」という点、つまり浅川社長の「詐欺」に焦点を当てて不毛な追及を繰り返している。しかし、何回「騙す意図があったのではないか」と追及したところで、何の真実も浮き上がっては来ない。

次回は、浅川社長の行為が詐欺行為に当たるか否かという不毛な追及は止め、是非とも「集めた資金がどこに流れたのか」に焦点を当てた追及をしてもらいたい。そのためには、今回アイティーエム証券の西村社長がAIJのスポンサーとして挙げた「神戸女子学園」を、正確に把握することが第一歩である。

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