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先生に忖度するのがうまい子どもが学校で良い成績を収め、偏差値の高い大学に進学して、社会に出て行くとしたら、日本の未来は暗いですよ - 「賢人論。」第85回湯浅誠氏(中編)

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大学にいる学生は、これまで会ったことのない種類の学生だった

みんなの介護 湯浅さんは2014年度から法政大学の教授に就任しましたが、官僚との出会いと同様、学生たちとの出会いも有意義なものでしたか?

湯浅 ひとことで言えば、衝撃的な出会いでしたね。

私は障害者やホームレスといった社会の底辺にいる人たちとは密に接してきて、内閣府参与になってからは短い間でしたけど国の方向性を決定するような重要な位置にいる人たちとも知り合うことになりました。

そんな私にとって、大学生は両者の中間にいる人たちということになりますが、彼ら彼女たちがまったく未知の存在だったということに気づきました。

みんなの介護 でも、ボランティアに参加する大学生のことは、よくご存知なんじゃないですか?

湯浅 そういう、いわゆる「意識高い系」の学生と違って、教室にいるのは社会問題などに関心を持ったことのない、ごくごく普通の大学生がほとんどなんですよ。

みんなの介護 そんな学生たちとの出会いが、どんな点で衝撃的だったんですか?

湯浅 リアクションペーパー(通称リアペ)というものがあって、授業のあとに感想を書いた紙を集める習慣があることが、まず軽い衝撃でした。

ですが、本当の衝撃はそのあと、学生たちが書いたリアペを読んだときにやってきました。なんと、8割の学生が同じようなことを書いていたんです。

「私は今日までこう思っていましたが、こういうことを学び、考えが変わりました。これからはこういうことに気をつけて生きていきたいと思います」というデフォルト三段論法。なんとも自分の言葉っぽい“他人の言葉”なんですよ。

みんなの介護 一説によると、リアペは教員の能力を大学側が判断する材料になるだけでなく、リアペの出来で学生の成績をつける教員もいたりするそうですね。

湯浅 私もそのことに気づいて、2回目の授業からは匿名で書いてもらうことにしました。「授業がつまらないと思ったら正直に『つまらなかった』と書いていい」と言って。

そしたら、1回目の授業のときとまったく変わらなかったので二度驚いたんです。

2年目は、最初の授業で「私は教えません」と宣言しました

みんなの介護 なぜ、学生が書いたリアペはデフォルトの定型文になってしまうのでしょう?

湯浅 おそらく、それが一番エネルギーを使わない書き方なんですよ。授業の感想を真面目に書こうとしたら、授業に集中して臨まなければならないし、自分の考えたことを適確に言語化しなければいけません。そういうのをすっ飛ばして、定形フォーマットを脳にダウンロードして書くと、デフォルト三段論法の文章ができあがる。

ただ、これは単に要領のいい学生が多くなったというだけではありません。問題なのは、こういう文章を書く子どもを褒めてきた大人が世間にはたくさんいるということなんです。

みんなの介護 生徒が教師の話を受動的に聞くのではなく、能動的に発言する「アクティブ・ラーニング」は、既に随分前から日本の幼稚園や小中高校の学習指導要領に取り入れられているはずなのに、不思議ですね。

湯浅 おそらく、そこで行われているのはまがい物のアクティブ・ラーニングなんです。

先生は「自分の頭で考えなさいよ」とは言いながら、「こう答えないと良い点をあげないよ」と思っている。で、生徒は自分の頭で考える前に、学校の先生の顔色を見て、先生の喜びそうな模範解答を答えてしまうんです。そして実際に、それをできる子が良い点をもらう。

そうやって、先生に忖度するのがうまい子どもが学校で良い成績を収め、偏差値の高い大学に進学して、社会に出て行くとしたら、日本の未来は暗いですよ。

ですから、2年目には、最初の授業で「私は教えません」と宣言して、完全に参加型の授業に切り換えました。そうすると、リアペの内容も「自分の言葉っぽい他人の言葉」ではなく、「自分の頭で考えた、自分の言葉」になっていきました。

みんなの介護 法政大学では、理想的な授業をしている先生を選んで表彰する「学生が選ぶベストティーチャー賞」を毎年実施していて、湯浅さんは2年連続で選ばれたそうですね。

湯浅 法政大学の任期は2018年度までで、つい先日、最終講義をしてきたんですが、この5年間はとても良い勉強になりました。授業でも、「君たちより私のほうが多くのことを学んでいるよ」と言っていたくらいです。

みんなの介護 再び大学教授になるという可能性はありますか?

湯浅 あるかもしれませんね。給料をもらって勉強させてもらえるところがあるとすれば、大学の教員はとてもありがたいポジションです(笑)。

※3月14日現在、湯浅氏は2019年4月より東京大学先端科学技術研究センター・特任教授に就任する予定です。(本文は2019年1月取材時のものです。)

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