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先生に忖度するのがうまい子どもが学校で良い成績を収め、偏差値の高い大学に進学して、社会に出て行くとしたら、日本の未来は暗いですよ - 「賢人論。」第85回湯浅誠氏(中編)

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2009年10月、政権交代後の副総理を務めていた菅直人氏に請われて内閣府参与に就任した湯浅誠氏。「より良い社会をつくる」という目標は一緒でも、民間と行政では視点が180度違うのに驚かされたという。また、2014年度から法政大学の教授となり、学生たちと過ごした5年間も驚きの毎日だった。湯浅氏はそこで、何を感じ、学んだのか?

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

自分を人質にして約束を取り付ける

みんなの介護 内閣府参与への就任を請われたとき、すぐに決断できましたか?

湯浅 いや、すぐにはできませんでした。一緒に活動してきた人たちに話を聞いても、「政府に取り込まれるだけだからやめたほうがいい」という意見と、「せっかくの機会だから受けたほうがいい」という意見が半々でしたから。

とはいえ、それまで政府に対して制度の改善を要求してきた立場の私が、「あなたの言う方向に改善しますから手伝ってほしい」と頼まれて、それを断るのはおかしいんじゃないかと考えて、お引き受けすることにしたんです。

みんなの介護 就任にあたって、湯浅さんは3つの条件を菅副総理と約束したそうですね。説明していただけますか?

湯浅 その条件とは、次の3つです。

①実効性のあるワンストップサービス(その場で決裁し、居所確保できる)

②行政機関の年末年始開庁

③国の責任による在宅確保を年末に向けた主要対策に据える

①のワンストップサービスとは、ひとつの場所でさまざまなサービスが受けられる環境や場所のことで、これは近年、貧困支援に限らず、子育てや高齢者施策の場面でも言われるようになり、浸透しましたよね。

②については、「年越し派遣村」の翌年から国立オリンピック記念青少年総合センターで「公設派遣村」が置かれることになりましたけど、長続きはしませんでした。

③は、紆余曲折があって「年末に向けた主要対策に据える」というわけにはいきませんでしたけど、2013年に制定された生活困窮者自立支援法に「住居確保給付金の支給」という項目が入って法制度化されました。

政策実現度を自己採点すると、私の力が及ばず、不十分なところもあったけれど、一定の成果は得られたということになるでしょうか。

みんなの介護 湯浅さんが内閣府参与に就任したのは2009年10月26日ですが、翌年の2010年3月5日で辞任し、その後、同年5月10日に再任用されています。なぜこのように、出たり入ったりすることになったのですか?

湯浅 そもそも内閣府参与というのはアドバイザーですから、部下もいなければ自由に使える予算もありません。できることが非常に限られているんですね。

ですから、入るときに先ほど述べたような3つの条件を提示して、「これに取り組みます」という約束を取り付けておくことが重要なんです。自分を人質にして、制度化を推進するわけですね。

みんなの介護 二度目の再任用のときは、どんなことを約束したんですか?

湯浅 「パーソナル・サポート・サービス」と言って、生活・就労に困窮する求職者のために全国に求職者総合支援センターを設置して支援を行う寄り添い型の人的サービスのモデル事業です。

人も予算も十分には使えませんから、事業が縮小になったり、取り止めになってもおかしくない状態でした。

これが厚生労働省のモデル事業に移され、予算も下りて制度化されれば軌道に乗ったと言えるんですが、それが実現したのが2012年4月のことで、私はようやく内閣府参与の任から離れることができました。

税金を使うということは、反対者のお金も使うということ

みんなの介護 政府の政策立案に携わる仕事と、社会活動家の仕事は「社会をより良いものにする」ことが共通の目標です。でも、仕事の進め方には大きな違いがあったのではないですか?

湯浅 おっしゃる通りです。民間で何かを始めるときは、基本的に「この指止まれ」で人を集めて事業を動かしていきます。私たちの民間事業では寄付を募ることが多いですが、この場合も企画に賛同してくれた人のお金を使うわけですから、やはり「この指止まれ」でしかお金は集まらない。

一方、行政の制度や政策をつくる場合、使うお金は税金です。賛同者のお金だけではなく、「私はこの制度をつくるのに反対だ」という人のお金も使って制度づくり、政策づくりをしていくということになります。賛同してくれる人の税金だけ使って、反対している人の税金は使わないということはできません。

みんなの介護 しかも、一緒に働く政府の中にも、湯浅さんがやろうとすることに反対する人がいるわけですね?

湯浅 ですから、強固に反対している人に対して、せめて強固に反対しないように促すとか、賛成しないで良いからこちらの足を引っ張らないでくださいとお願いするとか、そういう努力をしていかねばなりません。

みんなの介護 民間で活動するときとは、まったく別方向の努力なわけですね?

湯浅 そう、民間の場合、5人の仲間を10人に増やすとか、リーダーを育成してボランティアをまとめてもらうといった、「内側から外側へ」組織を広げていくのに対して、行政はその逆です。

「内側から外側」へと政治家や官僚の中に仲間を増やしていきつつも、同時に「外側から内側」への働きかけをして合意に近づけていかなければなりません。

みんなの介護 民間と行政と、ふたつの組織の違いを目の当たりにしたことは、湯浅さんにとって有意義な経験だったのではないですか?

湯浅 ええ、実に有意義でしたね。内閣府参与に就任する前の私にとって、霞ヶ関にいる官僚の人たちは得体の知れない存在でした。

こちらからコミュニケーションをとろうにも、役所の窓口担当者に書類を渡すか、建物の外からトラメガ(拡声器)でこちらの主張を一方にがなりたてるしか方法はありません。

ですから、参与に就任して具体的な政策決定プロセスに関わったことは、発見と驚きの連続でした。どんな人がどんな思いで働いているのか、具体的な顔と名前と役職を知った上で見ることができたわけですから。

みんなの介護 では今後、湯浅さんが再び政府の中に入って活動することはあり得るのですか?

湯浅 あるかもしれないし、ないかもしれない。私を呼ぶかどうかは、私以外の人たちが決めることですし、もし呼ばれることがあったとしても、その内容と権限で判断することになるでしょうね。

民間で活動しているときは、「政府は実行力があっていいな」と思っていたけど、実際、政府の中で仕事をしてみると、「民間のほうが自由に動けていいな」と思いました。

結局のところ、どっちもどっちですね。民間でなければできないこともあれば、行政でなければできないこともあるんです。

今は、官僚の人たちと築いた信頼関係を財産にして、民間での活動に重きを置いていくのが自然なやり方だと思っています。

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