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「100球までの球数制限」は本当に正しいのか - 赤坂英一 (スポーツライター)

今年もまた、甲子園の選抜高校野球大会に大勢の観客が詰めかけている。昨年優勝した大阪桐蔭の根尾昂(現中日)や藤原恭大(現ロッテ)、一昨年注目を集めた履正社の安田尚憲(現ロッテ)クラスの〝スーパースター候補生〟こそ少ないものの、それでも将来が楽しみな原石や逸材は結構いるものだ。


(Siberian Photographer/Gettyimages)

私が注目しているのは東邦の主将で3年生の内野手・石川昂弥。地元・愛知の知多ボーイズでプレーしていた中学時代から大阪桐蔭の根尾ばりに投手と内野手の二刀流で活躍、大阪桐蔭の西谷浩一監督がスカウトにやって来たほどの実力とセンスの持ち主である。

そのころから早くもプロに目をつけられ、元中日投手でコーチも務めた水谷啓昭氏が、「石川は内野手一本でいけば巨人の坂本勇人クラスの選手になる」と絶賛。東邦のチーム事情により、現在も二刀流を継続しているが、今年のドラフトでは内野手で上位指名される可能性が高い。

〝本職〟の投手では、大会初日の履正社戦で3安打完封、17奪三振の力投を見せた星稜の3年生右腕・奥川恭伸が株を上げた。自己最速を1㎞更新した151㎞の真っ直ぐもさりながら、要所で空振りを取れるスライダーのキレが素晴らしい。

鮮やかに横に曲がる軌道の美しさは、駒大苫小牧時代の田中将大(現ニューヨーク・ヤンキース)を彷彿とさせた。ネット裏に陣取るプロのスカウトの間では、「ドラフト1位でいく球団もあるだろう」ともっぱらだ。

この奥川の向こうを張る〝左の本格派〟と騒がれていたのが、横浜の3年生左腕・及川雅貴だった。が、こちらは初戦の明豊戦で、三回途中5安打5失点でまさかのKOと課題の残る結果となっている。

この及川、中学時代の2016年に15歳以下の野球世界一を決める〈第3回WBSC・U-15ベースボールワールドカップ〉で侍ジャパンのメンバーに選出。強豪キューバとの試合に先発し、7回を4安打無失点に抑えて、鹿取義隆監督(元巨人投手、ヘッドコーチ、GM)を驚かせた。となれば、巨人をはじめ複数の球団が注目しているのも確実。夏の選手権に向けてどれだけ復調できるか、興味を持って見守りたい。

さて、そうした高校生の好投手が出てくるたび、付きもののように議論されるのが球数問題である。昨年12月には新潟県高野連が全国に先駆け、今春の県大会から球数が100球に達した場合、それ以降の回に登板できなくなるという新ルールを導入すると発表した。

これに対し、日本高野連は今年2月の理事会で「投手の少ない高校が不利になる」などの理由で再考を要請。新潟高野連は3月までに審議を重ねて、球数制限ルール導入をいったん見送る方針を固めた。

富樫信浩・新潟県高野連会長は「日本高野連が全国一律を(前提)ルールとしているので仕方がない」としながら、「今回の決定は(球数制限の)撤廃ではなく(あくまでも)見送り」と強調。今後は、日本高野連が4月から発足させる「投手の障害予防に関する有識者会議」に富樫会長自ら出席し、引き続き理解を求めていく。

新潟県高野連による提言はプロや大学球界でも関心を集めており、DeNA・筒香嘉智が「子供たちの将来がかかっていること。新潟県高野連に敬意を表したい」と発言。前述の「障害予防有識者会議」にはプロやメジャーリーグで活躍し、現在は早大野球部の小宮山悟監督も参画する。夏の全国高校野球選手権の地区予選が近づいてきたら、ふたたび球数制限をめぐる議論が再燃しそうだ。

なぜ「100球」なのか

しかし、ここで素朴な疑問がひとつ。それは、なぜ「100球」なのか、だ。100球が投手の肩や肘に負担を与えるというのなら、80~90球ぐらいで痛みや違和感を覚える投手もいるはずだろう。

アメリカのベースボール・コラムニスト、ジェフ・パッサンは、投手の肩、肘の故障について様々な症例を取材、『豪腕/使い捨てされる15億ドルの商品』(ハーパーコリンズ・ジャパン)というノンフィクションの力作を著している。恐らく、トミー・ジョン手術(靱帯再建手術)をはじめとした投手の身体的負担と治療法について、いま最も詳しい本だろう。パッサンもこの本の中で、100球という球数制限には確たる科学的根拠などないのではないか、という疑問を提示している。

本書によれば、アメリカでは1996年、野球マニアの医学生5人のグループが、『ベースボール・プロスペクタス(野球趣意書)』という本を出版、球数と投手の肉体に相関関係についての新たな見解を打ち出した。98年には彼らのウェブサイトで「投手酷使ポイント(PAP)」という投手の疲労度、故障の確率を数値化する方法を発表。100球以上の球数が肩、肘を壊す可能性を具体的な指数にして算出し、野球界でもスポーツジャーナリズムでも一時大いに注目された。

しかし、それではなぜ、100球という球数が基準になったのか。PAPを考案した医学生は「100は単なる出発点だった。あれをPAPの基本線にしたのは、99球までは害がないと思っていたからに過ぎない」と、パッサンのインタビューに答えている。何の根拠もなく100球を基準にしたことに「罪の意識を覚えている」というのだ。

その後、PAPはセイバーメトリクス(統計学的見地による野球の分析法、選手の評価法)論者などから様々な批判を浴びて、現在ではあまり顧みられなくなったという。この顛末から、「なぜ境界線が100球に定められたのだろう。それは区切りのいい数字が好まれるからではないか」とパッサンは推測している。

続けて「2000年以降、(メジャーリーグでは)シーズン4000球以上投げたのはランディ・ジョンソン(2度)とリバン・ヘルナンデス(1度)しかいなかった。2015年には、3500球を超えた選手はひとりもいなかった。今日では先発投手の球数が100に達するとあたりまえのようにブルペンが動き始める」と書きながら、「しかし、(中略)投手の球数は減っているのに腕を痛める投手は増えている」とパッサンは指摘する。

そして、投手が腕を痛める原因は1試合の球数だけでなく、「イニングあたりの球数」「そのとき投げた球のスピード」「スピン量」「スピンをかけるときの腕の疲労度」、さらに「腕以外で――頭から爪先までとその間で起こる小さな運動連鎖で――どれだけ疲れを補えるのか」等々、様々な要因が絡んでいるのではないか、と考察を展開している。

少なくとも、球数を一律に制限すれば投手の肩、肘の故障を未然に防ぐことができるというほど単純な問題ではないようだ。「障害防止有識者会議」のメンバーをはじめ、プロアマ球界関係者には、様々な視点、いろいろな角度からこの球数問題を検討していただきたい。

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