- 2019年03月26日 17:53
BIGBANG「スンリゲート事件」で韓国社会の「意識変化」は定着するか - 山本美織
2/2疑惑を報じた女性記者の思い
この事件には、先述したように、韓国における女性の人権意識の高まり、権力の乱用や不正を許さないという韓国社会の変化が顕著に表れている。
最初にV.Iの性接待疑惑を報道した「SBS funE」の女性記者、カン・ギョンユン氏は、2016年ごろからV.Iの疑惑を追っていたという。その中で、カトクの内容を入手。性接待のあっせんや盗撮映像の流布など、衝撃的な内容が含まれていた。
カン記者はインタビューにこう答えている。
「20代前半のとても若い女子大生たちや新人芸能人を酒の席に招待して、一晩相手として過ごさせる。しかも、性交の様子を盗撮して流布までしていたという事実を初めて知り、同じ女性としてショックを受けた。『必ず報道しよう』と決意した」
カン記者は取材の過程で、新人芸能人や芸能人志望の若い女性がそうした性接待の相手になっていることを突き止め、「女性を非常に性道具化するような状況を発見した」とする。
その上でカン記者は、「女性を性道具化し、歪曲された性意識、芸能権力を作り上げた私たちの社会の非常に大きな問題」とした。
女性のモノ化に「NO」
昨年、性被害を訴える世界的なムーブメントとなった「#MeToo」運動は、韓国でも大きな広がりを見せた。人気俳優や監督、文化人、政治家などが告発を受けて謝罪し、表舞台から姿を消した。
家父長制が根強い韓国は、もともと男性優位の社会だが、とりわけその傾向が顕著なのが芸能界だった。
2009年に人気女優チャン・ジャヨンさんが、所属事務所からの性接待の強要を苦にして自殺したことは、韓国社会に大きな衝撃を与えた。その際に女性芸能人や芸能人の卵に行った聞き取り調査では、半数以上が性接待を強要されたと告白した。
当時、性接待の加害者として名前が挙がった人のほとんどが嫌疑なしで解放されており、今回の問題に絡み、この事件に関しても真相究明に取り組む方針が表明された。
また、2016年に江南駅付近で発生した女性殺害事件は、犯人の動機が“女性嫌悪”だったことから、女性たちがデモを起こすなど、社会問題へと発展した。
いま、さまざまな要因から、韓国の女性に対する人権意識が高まっている。女性を性的なモノとして扱うことに対して明確に「NO」を突き付ける社会に、変わろうとしているのだ。それが、このスンリゲート事件への「許さない」という国民の態度を作り出しているのだろう。
盗撮被害者のプライバシー保護
実は盗撮映像を流布していたチョン・ジュニョンは、2016年にも同様の容疑で書類送検されていたが、嫌疑不十分で不起訴。その後も芸能活動を継続していた。今回、彼が芸能界引退に追い込まれた背景に、決定的な証拠が出てきたことだけでなく、社会的な批判の高まりがあったことは間違いない。
韓国ではアダルトビデオが公に流通しておらず、男性が女性との性行為を盗撮することが以前から社会問題になっており、警鐘を鳴らすCMも放映されてきた。
この事件に絡んだ報道で特筆すべきなのは、報道する側が「我々は誰が被害者なのか知りたくない」と強調していることだ。いま複数の女性芸能人の名前が盗撮の被害者として浮上しているが、「詮索するのは、やめるべきだ」と、テレビ局が呼び掛けている。それがSNSで拡散され、被害者のプライバシー保護への意識も広まりつつある。
膿を出し切れるか
BIGBANGは言わずと知れた韓国のトップスターだ。2006年にデビューして以来、次々にヒット曲を生み出し、「東方神起」と人気を二分する国民的アイドルとなった。日本でも6大ドームでコンサートを開いており、5人のメンバーの中でも日本語が堪能なV.Iは、日本のバラエティ番組にもたびたび出演していた。現在、彼以外の4人は兵役中で、グループ活動は休止している状態だ。
本来ならばV.Iも兵役に就かなければならなかったが、事業を優先し、入隊を遅らせたという。彼は芸能活動以外にも、実業家としてクラブやラーメン店などの飲食店を経営していた。実業家として成功するスンリは、韓国のテレビ番組などで「偉大なるギャッツビー」からもじった「スンツビー」としてもてはやされていた。
今回の事件では、V.Iが店舗の拡大や資金調達の過程で犯罪に手を染めていったことが浮き彫りになった。
V.Iの不祥事により、これまでのBIGBANGメンバーの不祥事も再び議論の的になっている。
2011年5月に、メンバーの1人であるD-LITEがソウル市内で乗用車を運転中、男性をひき、書類送検された。最終的には不起訴処分になっている。
また、同年10月には、リーダーのG-DRAGONが同年5月の日本公演中、大麻を吸引していたとして、麻薬管理法違反の疑いでソウル中央地検が摘発。7月に検察の毛髪検査で陽性となり、任意で事情を聞かれていたが、韓国検察当局は彼が大学生であるうえ初犯で吸引量が少なく、取り調べに素直に応じていたことなどから、起訴猶予処分とした。
最年長のT.O.Pは兵役中の2017年6月、兵役前の2016年10月に自宅で女性と大麻を使用していた吸引の疑いで在宅起訴。懲役10カ月執行猶予2年、1万2000ウォン(約1200円)の追徴金(吸引や投薬によって物的証拠がなくなる麻薬などの犯罪では、物品を没収する代わりに金銭を徴収される)を言い渡された。
果たして今回の事件を機に「膿」を出し切ることができるか。韓国社会の目が注がれている。



