- 2019年03月26日 10:04
親の意見が気になって、自分らしい就活ができない──悩める就活生が、臨床心理士の信田さんに相談してみた
2/2親族の世界から飛び出すのは、宇宙へいくほど大きいものではない

みっちゃん
ほとんどが公務員といった、いわゆる「安定した職業」に就いている親族の中で、ひとりだけ国際結婚をした親戚がいるのですが、その人は「まがいもの」と言われています。
私が東京で働くことを選択したら、同じようになるのかなと思うと、振り切れないんです。


信田 さよ子
でも、みっちゃんが恐れている「親族」って、せいぜい20人程度でしょう?

みっちゃん
はい……。

信田 さよ子
世界はこんなに広いのに、その人たちに嫌われることを恐れて何もできなくなるって、すごくもったいないと私は思いますけどね。
親族だけが自分の世界だと思って生きていると、そこから飛び出すことは「宇宙へ行くようなものだ」と思ってしまうかもしれないけれど、そんなことはないんです。


みっちゃん
たしかに……。自分の世界を広げていくには、どうしたらいいのでしょうか?

信田 さよ子
まず、自分だけの「秘密」を持ちましょう。秘密という、親の知らない自分だけの世界をつくる。

みっちゃん
秘密? 親にはあらゆることを報連相するのが当たり前だと思っていたので、秘密を持つということ自体、考えたことがありませんでした。

信田 さよ子
1から100まで親が子どものすべてを知るなんてことはできないし、する必要はありません。秘密をつくることで、少しずつ自分の世界は広がっていくと思います。
文学作品を読むこともおすすめです。文学作品を通して、多様な価値観や人間関係を知ると、自分の今持っている価値観が当たり前じゃないことに気づきますよ。たとえば、毎年、芥川賞受賞作品は必ず読むとかね。
親の前の自分とありのままの自分、どちらもいていい

みっちゃん
私だけではなく、周囲にも、就職や結婚など将来の選択を考える際に親の意見を気にしている人は多い気がします。これはどうしてなのでしょうか?

信田 さよ子
それは、実は統計的にも証明されていることなんです。私たちの世代は高度経済成長期で、学歴も職歴も親を超えることが当たり前でした。だから、親を超えて養っていくことが親孝行だと思っていたんです。
でも、今は世の中がずっと低成長で、子どもが親を超えられないことも往々にしてある。だからこそ、大きな親の存在が子どもを苦しめてしまうことがあるんですね。


みっちゃん
たしかに、親の意見に従っておけば、失敗しないんじゃないか、と思ってしまいます。

信田 さよ子
でも、時代は変化していて、親世代が安定していると思っている公務員などの非正規雇用が増えてきています。
大企業だってどうなるかわからない。そうなってくると、安全とされている道を選ぶよりも、やりがいを持って自分が満足できる仕事を選ぶことが大事になってきます。

みっちゃん
「親の価値観はもうあたりまえじゃない」ということを、関係性を崩さずに伝えるにはどうしたらいいでしょうか?

信田 さよ子
「ダブルスタンダード」を持つことです。

みっちゃん
タブルスタンダード?

信田 さよ子
そうです。ダブルスタンダードというのは、親の前の自分とありのままの自分、どちらも認めるということ。
親は子どもから否定されることを嫌がるので、表向きは「お母さんの言う通りだよね」と親の意見を聞き入れるふりをして、自分の意思を尊重した選択をしていく。それもある種の秘密です。
親に抵抗してもなかなか勝てないので、真正面から全力でぶつかる必要はありません。


みっちゃん
私はいつも全力でぶつかろうとしてしまいます。

信田 さよ子
全力でぶつかると、傷つくことも多いでしょう? 傷つきすぎると立ち直れなくなってしまうから、余力は残しておいたほうがいいですよ。
全力でぶつかるふりをして、2割くらいの力を残しておく。

みっちゃん
なるほど……。ダブルスタンダードを身につけるコツはありますか?

信田 さよ子
自分と同じような悩みを持つ人たちと、ネット上でもいいので、たくさんつながってください。彼らと交流するときの自分と、母と対峙するときの自分は違っていいんです。「本当の自分」とか「何が真実か」とかは考えない。
作家の平野啓一郎さんが『私とは何か──「個人」から「分人」へ』で書かれているように、「私」の中に「分人」はたくさんいるんです。親に対しての自分、職場での自分、友だちといるときの自分、ひとりのときの自分、全部違ってあたりまえ。それは何も、悪いことではないんですよ。
少しずつでいいから、お母さんと上手な距離感を保てるようになるといいですね。
執筆・徳 瑠里香/撮影・尾木 司/企画編集・みっちゃん、明石悠佳



