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「インフルエンザ予防に乳酸菌」のページが消えた! 健康効果の読み解き方(前編)- 松永和紀 (科学ジャーナリスト)

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(kuppa_rock/iStock/Getty Images Plus)

毎年冬になると、「インフルエンザ予防によい食品」というニュースがテレビや雑誌、ネットなどで流れます。今冬の新顔は紅茶でした。インターネットでは強く批判されましたが(米国国立衛生研究所で研究中の病理医研究者のブログ、五本木クリニック院長ブログ)、信じ込んで紅茶をがぶ飲み、という人もいたようです。

おなじみなのはヨーグルトの乳酸菌。でも、私から見れば、乳酸菌も根拠は希薄なのです……。なんて思いながら企業サイトを調べていて、すごいのを見つけてしまいました。

水戸ヤクルト販売会社のWebページのキャプチャー。指摘したら、あっという間に消えた 写真を拡大

ヤクルトの販売会社の「インフルエンザ予防」というページでした。免疫力アップの方策として「乳酸菌 シロタ株を摂取する!」と明記してありました。

ヤクルト=乳酸菌シロタ株というのが消費者の認識でしょう。つまり、ヤクルトを飲めばインフルエンザを予防できるということ?

2月20日(水)、(株)ヤクルト本社広報室に文書で問い合わせをしたところ、22日に「一部不適切な表現があることについて確認しました」という回答が来て、あっという間にページは読めなくなりました。

えっ、どの会社も乳酸菌のインフルエンザ予防をどんどん宣伝しているのに、なぜこれはダメ? そう思ったあなた、鋭いです。企業の「これが効く」研究と広告・宣伝、法律は、かなり複雑な関係があります。2回にわたって考えてみます。

薬機法、公正競争規約に違反の恐れ

まず、インフルエンザという疾病の予防効果、つまり医薬品的な効果効能を食品でうたうのは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)違反の恐れがあります。成分を添加した食品はとくに厳しくみられます。

また、食品の健康効果は、実際のものよりも著しく優良であると示す表示や誤認させる表示が禁止されています(健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について)。この場合の表示は、容器包装に印刷されているものだけでなく、テレビや新聞、インターネット等における広告も含まれます。

さらに、事業者団体が景品表示法に基づき、公正取引委員会と消費者庁の認定を受けて決めた自主ルール「発酵乳・乳酸菌飲料の表示に関する公正競争規約及び同施行規則」では、「発酵乳・乳酸菌飲料が、病気の予防等について、効能又は効果があるかのように誤認されるおそれがある表示」は「してはならない」と定めています。

こうしたことから、私の指摘を受けて、すぐさまWebページを削除したのでしょうか。

ちなみに、「免疫力がもっとも高まる状態は、36.6度です!」とも記述されていました。これは、明らかな“ニセ科学”です。

インフルエンザ予防、根拠は薄い

食品が医薬品的な効果効能をうたうのは法律上ダメ。でも、それは、乳酸菌シロタ株にインフルエンザ予防効果があるのかどうか、という科学的根拠とは別問題です。本当に効果があるのなら、杓子定規な法律をかいくぐり、なんとかうまく宣伝してゆきたい、という企業の気持ちもわかるし、自分も知りたい……。そう考える人も少なくないでしょう。

では、乳酸菌シロタ株の予防効果、その根拠はどの程度のものなのでしょうか?

「インフルエンザ予防に乳酸菌シロタ株が効く根拠論文、免疫力がもっとも高まる状態が36.6度である根拠論文をお示しください」とヤクルト本社広報室に文書で尋ねたところ、前述のようにページ削除という結果でした。

2月22日の回答は「一部不適切な表現があることについて確認しました。今後、ヤクルトグループの情報発信について、お客さまに誤解されることのないように連携していきます」というもので、根拠についての説明はありませんでした。

ならば、ということで、学術論文のデータベース「Pubmed」で探してみました。乳酸菌シロタ株のインフルエンザとの関係について人で調べた論文は2つしか探せませんでした。

1つはヤクルトUKがスポンサーとなり英国の大学で行われたもので、ヤクルトを飲む前後で一部の免疫機構の指標は上昇したものの、インフルエンザAに特異的な指標は、有意差なし。もう1編は、ヤクルト本社が資金提供しベルギーの大学で行われた研究ですが、こちらも高齢者施設の健康な高齢者には効果なし、という結果です。

これで、学術的な根拠があると言えるでしょうか?

巧妙なトリックがある

でも、ヤクルトのインフルエンザ予防効果という記事を何度も読んだことがあるけれど……。そんな人は多いでしょう。実はそこに、“トリック”が隠れていると私は思うのです。

ヤクルト中央研究所は、「菌未来レポート」(https://www.yakult.co.jp/kinmirai/)というサイトで研究成果を公表しており、 “上気道感染症(カゼ・インフルエンザ)”(https://www.yakult.co.jp/kinmirai/report/report2/)というページでは、 「乳酸菌シロタ株を含む飲料を飲むと上気道感染症(カゼ)にかかる回数が、約半分になるという研究成果が得られました」と書き、「乳酸菌シロタ株でカラダにいい未来を」と大きな字で伝えています。

そして、そのすぐ下で「インフルエンザは予防が大事」として予防接種などについて紹介した後、「免疫力アップ」も予防ポイントとして挙げ、「米、魚介類、野菜、果物、乳製品をバランス良く食べることに加え、乳酸菌などのプロバイオティクスを摂取することで免疫力が高まることが、近年の研究で明らかになっています」と書いているのです。


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「乳酸菌シロタ株を含む飲料を飲むと上気道感染症(カゼ)にかかる回数が、約半分になるという研究成果が得られました」と説明したすぐ下に、「インフルエンザは予防が大事」「乳酸菌などのプロバイオティクスを摂取することで免疫力が高まることが、近年の研究で明らかになっています」と書いている
写真を拡大

これを素直に読んだらだれでも、ヤクルトを飲んでインフルエンザ予防をしよう、と思うのでは。でも、水戸ヤクルト販売会社があっという間に削除したページとは異なります。「上気道感染症にかかる回数が半分になる」という論文は実際に出ているし、後段でも、直接的には「ヤクルト製品や乳酸菌シロタ株が予防する」とは書いていない。したがって、このページはセーフ、なのです。

製品を紹介するページとは別に、研究成果を紹介するサイトを作り、その中で疾患への効果を説明する。あとは、消費者が頭の中で製品と疾患への予防効果を勝手につなげてくれるのを待つだけ……。

この手法だと、法律や公正競争規約違反に問うのは難しくなります。私は消費者の心を惑わすトリックだと思いますが、この手を使う食品企業はかなり多くあります。

ちなみに、「乳酸菌シロタ株をとっていると上気道感染症にかかる回数が半分になる」という論文、たしかにあるのですが、批判されています。

研究は、ヤクルト本社がスポンサーになり英国の大学研究者が調べたもの。同社は、この研究やほかの論文等を根拠にし、「生きた乳酸菌シロタ株の日常的な摂取により、免疫機能のサポートを助け上気道を守る効果を維持する」(maintain the upper respiratory tract defences by helping to support immune functions)という表示をしたい、と欧州食品安全機関(EFSA)の審査を受けたことがあります。

しかし、この研究は、試験のやり方に問題があり根拠とならない、とコテンパンに批判され、ほかの論文と共に審査された結果、却下されているのです。

こんなことまで知ると、「えっ、根拠はほとんどないのに、私たちは信じ込んでいたの?」と思いませんか?

ヤクルト本社に、EFSAという権威ある機関の審査で却下された後もなお、上気道感染症への効果や“免疫力”アップなどをアピールすることについての見解を尋ねたのですが、次のような回答でした。

「菌未来レポート」は、日本で実施した当社の研究成果を紹介する企業広告です。EFSAの指摘は、欧州で食品のヘルスクレームを申請した際に示されたものです。

研究成果を用いた目的が異なるため、EFSAの指摘に対するコメントはありません。

これで納得できますか? 

いずれにせよ、論文やEFSAの審査結果など読まないメディアは、科学的根拠などどうでもよいようです。企業やその資金提供を受けて実験した研究者の話をそのまんま流しています。

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