- 2019年03月25日 09:15
シリアIS占領地消滅でアルカイダは復活するか-三つの不吉な予兆
2/2サウジアラビアの方針転換
第二に、サウジアラビア政府がアルカイダ支援を再開したとみられることだ。
サウジ政府とアルカイダの関係は、以前から語られてきた。9.11テロの実行犯グループのメンバーで、旅客機に乗り込む前に逮捕され、唯一生き残ったザカリアス・ムサウィは、裁判でサウジアラビア政府から支援があったと明言している。
もちろん、サウジ政府はこれを否定しているが、国内でのテロ活動をやめさせるため、そして場合によっては「共通の敵」に打撃を与えるため、サウジ政府がアルカイダと結びついてきたという認知は、もはや世界で公然の秘密として扱われている。
ただし、2015年に実権を握ったムハンマド皇太子は、サウジの近代化を目指すなか、それまでの外交・安全保障政策の見直しにも着手し、その一環としてイスラーム過激派との関係を縮小してきた。駐米大使を長く勤め、アルカイダとの窓口の一人と目されていたバンダル・ビン・スルタン王子が2015年に公職を追われたことは、その象徴だった。
ところが、ここにきてサウジアラビアはアルカイダとの関係を再び強化しているとみられる。
2月22日、アメリカ上院のエリザベス・ワラン議員はトランプ大統領宛ての公開書簡で「サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)がイエメン内戦でアルカイダと協力し、アメリカ製の武器を提供しているのはなぜか」と疑問を投げかけた。
イエメンでは2015年以来、シーア派のイランが支援するフーシ派が首都を占拠し、スンニ派諸国の支援を受けた政府との間で戦闘が激化している。
トランプ政権が関係を重視するサウジは、スンニ派諸国の有志連合を率いているが、イランやフーシ派との対抗上、イエメンを拠点とする「アラビア半島のアルカイダ」を支援しているというのだ。
イエメン内戦での民間人を巻き込む空爆で国際的に批判を招くなか、サウジ政府が「汚れ仕事」をアルカイダに任せる選択をしても、不思議ではない。
また、サウジアラビア人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏殺害事件で国内の求心力も低下したムハンマド皇太子は、それまで対立してきた守旧派の王族との関係改善に着手している。
2月24日、ムハンマド皇太子がリーマ王女を駐米大使に任命したことは、アメリカに向けては「女性の社会進出を促している」というポーズだが、国内的には全く別の意味をもつ。リーマ王女は、かつてアルカイダとの窓口だったバンダル・ビン・スルタン王子の娘だからだ。
このようにサウジが自分の事情でアルカイダとの関係を見直さざるを得なくなったことは、アルカイダにとってバックアップ体制が強化されたことを意味する。
欧米諸国の失点
そして最後に、イスラーム過激派のテロを誘発しかねない出来事が、欧米諸国で相次いでいることだ。
とりわけ、ニュージーランドのクライストチャーチで50人のムスリムが白人右翼に虐殺され、その映像が世界中に流出したことは、同様の白人右翼テロを誘発しかねないだけでなく、「報復」を大義とするイスラーム過激派の活動をも活発化させ得る。
実際、パレスチナのガザを拠点とするアルカイダ系組織はクライストチャーチ事件を受け、「ムスリムの悲劇にツイートやニュースをシェアして応えることは十分ではない」と主張し、「あらゆる可能な努力」を呼びかけている。
さらに、第三次中東戦争以来、イスラエルが占領してきたシリア領ゴラン高原をトランプ大統領が「イスラエル領」と認定したことは、ムスリムの目にはイスラーム世界の一部が切り取られたと映る。これは「イスラーム世界の防衛」を大義とするジハードをさらに正当化することになる。
欧米諸国のなかにイスラーム過激派を煽る言動が増えていることは、結果的にアルカイダの復権を促す一因となり得る。
こうしてみたとき、アルカイダの復権を促す条件は整いつつあるようにみえる。だとすれば、バグズ陥落でIS占領地が壊滅したことは、グローバル・ジハードを錦旗とするイスラーム過激派の活動の終結を意味するどころか、次のステージの幕開けに過ぎないのかもしれない。
※Yahoo!ニュースからの転載
- 六辻彰二/MUTSUJI Shoji
- 国際政治学者



