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がん治療、なぜ著名人や富裕層は民間療法にハマってしまうのか? 2019年の論点100 - 林田 哲

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 近年、著名人のがん患者が抗がん剤や手術を拒否し、民間療法や代替医療に走る例が報じられている。たとえば2015年9月に亡くなった女優の川島なお美さんは、金の棒で患部を撫でる民間療法を受けていた。効果不明な高額療法や、キノコの抽出物などの話を身近で聞いたことがある人も多いだろう。

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 こうした例が絶えない理由の一つが、医療に内在する伝統・経験の蓄積と、現代科学との境界線の「曖昧さ」にある。

「曖昧さ」が生まれる理由

 古代より医療は人の営みに欠かせないものであり、長きにわたる経験と習慣の蓄積という側面がある。例えば、普段健康な若者が、咳や喉の痛みなどの症状で病院に行けば、医師は大がかりな検査を行わずとも風邪と診断し、症状を抑える薬を処方し、暖かくしてよく休養をとるよう指示する。これはヒポクラテスの時代から変わっておらず、この判断に現代科学は介入していない。先人の知恵が現代の医療現場に活かされている事例は数多く存在するが、これらと現代科学との境界線をはっきりと引くことの難しさが、疑似科学の医療への親和性を高めている。


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 この「曖昧さ」は時に専門医である我々に対しても、経験・習慣に基づく医療と科学の境界線を混同させることがある。ましてやがん患者として病院を受診する大多数の一般の方は、自身が受けるがん医療がどのような科学的根拠にもとづいているかまでは想像しないだろう。私もスマートフォンを使用する場合、問題なく操作できれば満足であり、その原理や構造に興味はない。医療を受ける側の態度もこれに似ている。

富裕層やステータスの高い人が「疑似科学」にハマる理由

 ただ、がん医療はスマホとは違い、有効性を確かめるには時間を要する。がん治療から得られる究極的な利益は、生命予後の延長である。状況にもよるが、これを確認するには数ヶ月から数年の時間がかかることが一般的である。例えば、私が専門とする乳がんが根治したか否かの確認には、手術から10年を超える年月が必要である。そのため、自分が受けたがん医療の正当性を患者自身が即座に見極めることは困難であり、不可能といってもよいかもしれない。

 さらに状況を複雑にする現実として、必ずしも全てのがんが根治するわけではないことが挙げられる。この場合、最終的な結末はがんによる「死」であるため、治療の過程や長さに価値を見いださない人や、逆によりよい医療を求めて独自の情報収集を行い、お金に糸目をつけず治療を行う人が存在する。とりわけ富裕層や社会的ステータスの高い人は、「一般病院で行われる保険診療よりも、自身にふさわしい、プレミアムな治療が世界のどこかに存在する」と考えがちである。金儲けを目的とした疑似科学はこのような人々を標的としている。著名人がこうした“治療”にはまる頻度が高いように見えるのは、決して偶然ではない。

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