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最大の問題は、急性期病院が「寝たきりの高齢者」を量産していること - 「賢人論。」第84回武久洋三氏(後編)

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世界に先駆けて超高齢社会に突入したわが国では、国民医療費の増大が止まらない。現実に人口減少社会を迎えた今、私たちの国は増え続ける国民医療費に耐えられるのか…。そう誰もが危惧するなか、「日本の医療費は半減できる」と豪語しているのが、医療・介護界のオピニオンリーダーである武久氏。今こそ、武久氏の持論にじっくり耳を傾けてみたい。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

多すぎるベッド数と長すぎる入院日数が、日本の国民医療費を増大させています

みんなの介護 2016年度の日本の国民医療費は約42兆円。団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年には、60億円に達すると推計されています。その一方で、現役世代といわれる生産年齢人口は年々減少を続けており、2025年には2002年より1,350万人少ないおよそ7,200万人に。このままでは、国家財政は医療費をまかないきれなくなるとの試算もあります。

そんななか、武久さんが2017年に上梓した『こうすれば日本の医療費を半減できる』は、各方面で話題になりましたね。

武久 おかげさまで。自分としては、特に目新しいことを書いたつもりはないのですが。

みんなの介護 本のなかで、武久さんは「日本の病院のおかしなところ」を列挙していますね。

武久 まず言えることは、日本は他の先進国に比べて、病院のベッド数が格段に多いこと。人口1,000人あたりの総病床数は13.4床で、これは3.1床のアメリカの4倍、2.6床のスウェーデンの5倍です。

一方、日本は他の先進国に比べて、医師と看護師の数が極端に少ない。病床100床あたりの医師数は、最も数の多いスウェーデンが148.7人、イギリスが97.7人、アメリカが79.9人。それらに対して、日本はわずか17.1人。スウェーデンのおよそ9分の1、アメリカのおよそ5分の1です。

また、病床100床あたりの看護職員の数は、スウェーデンの420.2人、アメリカの371.4人、イギリスの292.3人に対して、日本はわずか78.9人。スウェーデンのざっと5分の1です。

みんなの介護 なんだか、ずいぶんアンバランスですね。

武久 次に、患者さんの入院日数を見てみると、スウェーデンの平均在院日数は5.8日、アメリカは6.1日、イギリスが7.2日。そして日本はスウェーデンのおよそ5倍の約30日。

みんなの介護 つまり日本の病院は、他の先進国より医師や看護師が少なく、逆にベッド数が多い。そして、入院期間も長い。いずれも極端な差異がありますね。

武久 そのとおりです。それぞれの国の、医療の在り方の違いが見えますよね。たとえばスウェーデンでは、1人の患者さんに対して何人もの医師と看護師が集中して治療にあたり、短期間で病状を回復させて退院まで持っていく。だから、ベッド数はそれほど必要ありません。

一方の日本は、1人の患者さんに対して医師と看護師のマンパワーをあまり割かない代わりに、比較的時間をかけて病状を回復させる。だから入院日数も長くなるし、必要なベッド数も多くなります。

ここまでのお話から、日本の医療費の無駄が見えてきませんか?

みんなの介護 そうか、日本の病院では、多くの患者さんを無駄に長く入院させているんですね。

武久 まさに、そのとおりです。しかも、無駄に長く入院させている病床が、今日のお話の前半で出てきた「7対1」の一般病床だったりするのです。

みんなの介護 1日あたり約4万5,000円以上という、前編で出てきたあの病床ですね。

武久 そうです。病院側からすれば、「7対1」一般病床の病床1床を1人の患者さんで埋めておけば、それだけで1日4万5000円以上の収入になる。2週間で63万円になります。

みんなの介護 なるほど。問題解決の糸口が少し見えてきました。つまり、無駄に高額な病床に寝ている患者さんを退院させるか、あるいはもっと安い病床に移ってもらえば、医療費もそれだけ削減できるということですね。

武久 考え方としては、そのとおりです。しかし現実には、それほど簡単にはいきません。

病院で1ヵ月安静にして過ごすと、そこから体力を回復させることは至難の業

みんなの介護 日本の病院ではなぜ、欧米のように、患者さんの入院、治療から退院までを早いサイクルで回せないのでしょうか。

武久 欧米のように、急性期の患者さんを集中的に治療するには、医師も看護師も足りません。もし、欧米並みのサイクルで治療を進めるのであれば、医師と看護師の数を現状の3から5倍に増やす必要がありますが、そうなると、日本の教育システムそのものから再編しなければならなくなります。

みんなの介護 それは確かに、現実的な解決策ではありませんね。では、どうすればいいのでしょうか。

武久 医師や看護師の数を増やして患者さんを早期に退院させるのではなく、患者さん自身の力で、早期に退院してもらえればいいのです。つまり、リハビリが重要ということですね。

日本の患者さんの入院日数が長いのは、実際に寝たきりの患者さんが多いから、でもあります。なにしろ、寝たきりの患者さんの数はアメリカの5倍もいるのですから。

みんなの介護 日本はどうして、寝たきりの患者さんが多いのでしょうか。

武久 それこそが、日本の医療における最大の問題だと考えています。結論から言えば、病院が寝たきりの患者さんを量産しているのです。

たとえば、ご高齢の患者さんが心臓病、がん、脳卒中などの重篤な症状で急性期病院に入院し、治療を受けたとしましょう。そして幸いにも、命を取り留めたとします。

ここまでは、なんの問題もありません。ポイントは、病状が安定してから、ただちにリハビリを始めるかどうか。患者さんの機能回復に対して意欲の強い病院であれば、たとえ脳梗塞で入院した患者さんであっても、入院初日から足を動かしたり、ベッドで上半身を起こすなどのリハビリを促すはずです。

しかし残念ながら、急性期病院の多くは、リハビリに関してそこまで意欲が高くありません。むしろ、「しばらくは安静に寝ていてください」などと、誤った指導をするケースさえあります。すると、どうなると思いますか?

みんなの介護 どうなるのでしょうか?

武久 高齢者が病院で1ヵ月も横になったままの状態でいると関節が拘縮し、全身の筋肉が減少するだけでなく、心肺機能まで急速に衰えます。さらに、1日に必要な栄養や水分を与えないと、物を食べる機能まで失われてしまい、そこから体力を回復するのは至難の業。先ほどお話ししたように、急性期病院では患者さんの低栄養や脱水状態に気づかないことも多く、そうなるとほぼ間違いなく、寝たきりになってしまいますね。

みんなの介護 高齢者の立場からすると、発症後すぐに入院した病院がリハビリ意識の高い病院かどうかで、その後の運命が決まってしまうんですね。

武久 そういうことになりますね。発症から最初の1ヵ月が重要なのです。必要以上にベッドに横たわっていても、体にいいことはひとつもありません。

私たちの医療グループは全国9都府県で25の慢性期病院を運営していて、リハビリの必要な患者さんが急性期病院から転院してくるのですが、「もっと早くリハビリを始めていれば……」という患者さんがあまりにも多く、いつも心を痛めています。

みんなの介護 急性期病院では、患者さんが寝たきりになってしまうまで、どうして放置してしまうのでしょうか。

武久 “自称”急性期病院では、リハビリが十分に行われず、そのうえ早く退院させると病床が空いてしまうので、長く入院させることによってどうしても寝たきりの状態になってしまうのです。

みんなの介護 急性期病院ではそうやって、寝たきりの高齢者がつくられてしまうんですね。

武久 さらに、特定除外患者としていつまでも入院できるようになっているのです。

しかし、実は、急性期病院だけに責任があるのではありません。患者さんの家族から、「もう少し入院させておいてください」と頼まれるケースも結構多いのです。

何らかの事情により、自宅では病人の世話が見られないとか。あるいは、自宅に帰っても患者さん本人の居場所がないとか。病状的には退院できる状態なのに、何らかの社会的な理由で入院し続けることを「社会的入院」といいます。この社会的入院も、わが国の医療費を増大させる一因になっています。

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