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2018年の診療報酬改定では、治療実績を評価するという本来あるべき方向に舵が切られた - 「賢人論。」第84回武久洋三氏(前編)

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低栄養と脱水が寝たきりの高齢者を生み出している。そのことに医師が気づけないのは、臓器しか見ていないから

みんなの介護 今回の介護報酬の改定では、管理栄養士以外の介護職員による栄養スクリーニング加算や、低栄養リスク改善加算が認められました。高齢者の低栄養状態については、武久さんも著書のなかで危惧していましたね。

武久 そうなんです。急性期病院から私たちの慢性期病院に転院してくる高齢の患者さんのなかには、驚くほど低栄養で、しかも脱水状態に陥っている人が多くいます。

急性期病院では、その患者さんが入院する原因となった病気そのものについては経過観察するものの、全身の栄養状態については、あまり関心が払われないケースもしばしば見受けられます。これは実は、非常に危険なことなんですよ。

一般の成人であれば、たとえ低栄養であっても、食事で比較的速やかに栄養状態を改善できます。しかし高齢者には、一般成人のような予備的な体力はありません。食事をするにも実は体力が必要なので、その体力すらない高齢者の場合、栄養状態の改善は容易なことではないのです。

みんなの介護 低栄養状態に陥ってしまった高齢者はどうなるのでしょう。

武久 低栄養と脱水が進んだ高齢者は、話しかけても反応が鈍く、一目で心身の衰えを感じさせます。低栄養が寝たきりをつくり、命まで縮めるケースを何度も見てきました。

低栄養や脱水が進んだ結果、腎不全で命の危険にさらされることもあります。また、低栄養のために免疫力が低下すると、各種感染症にかかりやすくもなります。

ときには、そのあまりにも悄然(しょうぜん)とした心身の状態から、認知症を疑われたり、終末期だと誤解されたりする患者さんさえいるのです。

みんなの介護 病院に入院中の患者さんは、多くの医師や看護師の目にさらされているわけですよね。にもかかわらず、患者さんの低栄養と脱水が進んでしまうのはなぜでしょうか。

武久 一つには、患者さんの主治医が臓器別専門医だから、という理由が考えられますね。たとえば心臓病の患者さんなら、心臓血管外科や心臓血管内科の医師が主治医を務めることになりますが、専門性に特化するあまり、全身の栄養状態に関する知識の乏しい医師もときに見受けられます。

また、医療行為そのものが高齢者にマイナスに働くこともあります。たとえば、検査のために絶食を強いられたり、薬の副作用で食欲が減退し、そこから体力の低下を招くケース。絶対安静を強要したため、全身の身体機能が低下してしまう場合もあります。このように、医療行為が原因で心身の状態を悪化させることを、「医原性身体環境破壊」と呼んでいます。

みんなの介護 武久さんは以前から、臓器別専門医よりも、テレビ番組「ドクターG(NHK)」に出てくるような総合診療医を増やすべきだと発言されていますね。

武久 急性期病院と慢性期病院を併せて、現在、病院に入院している患者さんの8割は高齢者だというデータがあります。高齢者の場合、複数の臓器に病気を抱えていることが普通ですよね。だとすると、ある特定の臓器だけしか診られない臓器別専門医では、高齢者の全身状態を管理できないことになります。

一方、総合診療医であれば、高齢者の全身状態を把握しつつ、総合的な知見と判断で治療を進めることができます。もちろん、低栄養や脱水についてもケアできるし、複数の症状に対して、優先順位を決めて治療することで、必要以上に薬を処方することもなくなり、医療費の抑制にもつながります。

これからさらに高齢化が加速するわが国の医療現場において、最も必要とされているのは総合診療医だといえるでしょう。

みんなの介護 そういえば、新たな専門分野として、2018年から総合診療専門医の研修制度がスタートしたそうですね。これから、総合診療を専門とする医師が増えていくのでしょうか。

武久 そうなることを期待しています。現状では、総合診療医の数は医師全体の1割にも満たないのですが、将来的には、総合診療医:臓器別専門医の比率が5:5、あるいは7:3くらいになるのが適正ではないかと考えています。

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