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2018年の診療報酬改定では、治療実績を評価するという本来あるべき方向に舵が切られた - 「賢人論。」第84回武久洋三氏(前編)

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1984年、日本一の慢性期病院を目指し、徳島県に60床の博愛記念病院を創設した武久洋三氏は、まさに信念の人。「絶対に見捨てない」をグループの旗印に、全国9都府県に25の病院、63の介護施設などを展開する平成医療福祉グループを率いてきた。社会保障審議会の委員として、歯に衣着せず、政府や厚労省にもの申す論客としても知られる。老年医学とリハビリテーションを専門とする医師として、また1万4,000人を擁する医療法人の経営者として、2018年の診療報酬・介護報酬ダブル改定をどう評価しているのか。まずはそのテーマから語っていただく。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

これまでの診療報酬は治療の実績よりも職員配置で決まっていた

みんなの介護 2018年は6年ぶりに、診療報酬と介護報酬の同時改定となりました。武久さんは日本慢性期医療協会会長として、また病院や介護施設など100以上の事業所を束ねる医療福祉グループの理事長として、日頃から日本の医療と介護制度にさまざまな提言をされていますね。今回のダブル改定については、どのように評価されていますか?

武久 全体として、正しい方向に舵が切られたと考えています。特に急性期医療の入院料に関して、基準をより厳しくしたことは評価して良いのではないでしょうか。

みんなの介護 ちょっと難しいお話になりそうですね。読者の方には、「急性期医療とは何か」から解説していただいたほうがいいかもしれません。

武久 確かに、一般の人には、急性期病院と慢性期病院の違いから説明したほうがわかりやすいかもしれませんね。

病院には大きく分けて「急性期病院」と「慢性期病院」の2つがあります。急性期病院とは、がん・脳卒中・心臓病・肺炎などの病気やケガの治療を行う病院のこと。救急病院をはじめ、皆さんが精密検査などで普段お世話になっている一般病院のほとんどが「急性期病院」ということになります。一方、急性期治療を終えて、リハビリなど一定期間の治療が必要な人のための病院が「慢性期病院」です。

2018年の時点で、日本の病院数は約8,300病院あります。精神病床を除く病院の総ベッド数は約122万床で、そのうち一般病床が約89万床、療養病床が約33万床です。

みんなの介護 武久さんは以前から、「日本の医療費を抑制するには、急性期病院(一般病床)の病床数を大幅に削減せよ」と主張してこられましたね。

武久 はい。急性期病院の入院料は、慢性期病院に比べて高すぎるからです。

もう少し詳しくお話ししましょう。

病院の入院基本料はこれまで、看護職員の配置に応じてランク分けされていました。最も手厚いのが、1日を通じて平均して患者さん7人に対して1人の看護職員を配置する「7対1」。この配置を実現するためには、病院側は患者1.4人に対し1人の看護職員を雇用しておく必要があります。そこから順に「10対1」「13対1」「15対1」「20対1」「25対1」と手薄になっていきます。

もちろん、入院費用は看護職員配置が手厚いほうが高額で、「7対1」の平均請求額は1日約4万5,000円。逆に、最も手薄な「25対1」の平均請求額は1日約1万5,000円。ちなみに、「20対1」や「25対1」は慢性期病院の人員配置になります。

みんなの介護 病院側からすれば、看護職員を「7対1」で配置すれば、「25対1」で配置するよりも、患者さん1人あたり、つまり、ベッド1床あたり1日3万円の増収になるというわけですね。

武久 そのとおりです。それまで最高で「10対1」だった看護配置基準に、厚労省が新たに「7対1」という手厚い基準を導入したのは2006年から。厚労省からすれば、「7対1」は、がん・心臓病・脳卒中などの重篤な患者さんに高度な急性期医療を提供する病棟、と位置づけていたようです。

みんなの介護 しかし、病院側はそうは考えなかったんですね。

武久 そうです。お金儲けに走ってしまったんですね。厚労省の当時の担当課長は、新たに「7対1病床」として申請されるのは5万床くらいだと予想していた。ところが、実際の申請数は35万床を超えてしまいました。

そのとき、全国の病院で何が起こったかというと、すさまじい看護職員争奪戦です。病院側からすれば、とにかく看護職員の頭数さえ揃えてしまえば、もっとも高額な「7対1」を申請できるのですから。

その結果、一般病床の4割近くを「7対1病床」が占めるようになってしまった。そして、ベッドを埋めるために、手厚い看護ケアを必要としない患者さんまで、そこに入院させるようになったのです。その入院費用の7〜9割には莫大な保険金や公費などが投入されている。これこそ、医療費の無駄遣い以外の何物でもありません。

みんなの介護 そこでようやく、冒頭のお話に戻ります。今回の診療報酬改定では、その部分にメスが入れられたわけですね。

武久 そのとおりです。これまでは、看護職員の頭数さえ揃えておけば、7対1の一般病床=高度急性期病床として高額の診療報酬が受け取れました。しかし、これからは、急性期病床の重症患者割合が厳しくチェックされるようになります。

具体的には、従来の「7対1」と「10対1」の病棟が統合され、急性期一般の入院料は7段階に細分化され、「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度に係る評価票」という評価基準に応じて、「呼吸ケアをしたら1点」「心電図モニターを管理したら1点」など、医療行為が細かく評価されるようになったのです。

結論から言えば、急性期病床の評価基準は「人員配置」から「重症度」や「アウトカム(治療実績)」重視へと、大きく舵を切りました。すなわち、今回の改定は「アウトカム元年」となります。冒頭で申し上げたとおり、診療報酬体系の在り方は正しい方向に向かっていると思います。

みんなの介護 全体として、アウトカムを正しく評価しようという動きになっているんですね。

武久 それが日本の医療制度が進むべき正しい方向だと思います。たとえば、国民皆保険制度のないアメリカでは、医療費は莫大です。盲腸の手術はおよそ400万円、胃がんの手術はおよそ700万円。日本に比べてめちゃくちゃ高額です。

一方、国民皆保険の日本はどうかというと、盲腸の手術を成功させて患者さんを1週間で退院させるよりも、盲腸の手術に失敗して再手術を行い、患者さんを1ヵ月間入院させたほうが、病院は儲かる。手術に失敗したほうが報酬を多く受け取れる制度なんて、どう考えても間違っています。

国民皆保険という素晴らしい制度を維持したうえで、日本ももっと成果や成功が重視される仕組みを考えていくべきです。

淘汰の先にあるのは高度急性期病院と地域多機能病院の二極化

みんなの介護 ここまでのお話は、日本の医療制度がアウトカムを重視する流れに変わってきたということでした。しかし、この改革についていけない医療機関は一体どうすれば良いのでしょうか?

武久 私は、これからの医療機関は、二極化すると考えています。高度な急性期医療を施す病院と、地域に根ざした地域多機能病院です。地域多機能病院は、「地域包括ケア病棟」の機能を中心に慢性期の治療やリハビリなどの機能を併せ持つことで、地域の多様なニーズに応えることができます。

みんなの介護 2014年に設立された「地域包括ケア病棟」ですが、まだまだ一般的な認知は広まっていないようですね。どのような位置づけの病棟なのか、簡単に説明していただけますか?

武久 「地域包括ケア病棟」とは、急性期病棟での治療を終えた患者さんや在宅療養中の患者さんを受け入れ、在宅復帰に向けて一定期間医療ケアやリハビリを行うための病棟であり、また、一部に急性期治療が主な患者さんも受け入れます。

みんなの介護 確か、地域包括ケア病棟は、武久さんのご提言がきっかけで創設されたと伺っています。

武久 私の発言だけで、できたわけではありませんが(笑)。

私が数年前から主張していたのは、アメリカのLTAC(Long Term Acute Care Facility=長期急性期病床)のような病棟が日本にも必要だということ。ポイントは、単なるLTC(Long Term Care=長期療養)の病棟ではなく、Acute、つまり急性期の患者も受け入れるという点です。

みんなの介護 なぜ、急性期の患者も受け入れるのですか?

武久 そうした方が、治療効果が高いためです。

たとえば、長期療養中の患者さんが肺炎にかかり、症状が急激に悪くなったとします。その場合、慢性期病棟から急性期病棟に移すのではなく、慢性期病棟のベッドに寝たまま急性期の治療を受けたほうが、予後が良い。慢性期病棟には、普段から患者さんの多くの臓器の状況を把握しているスタッフがいるのですから。

そこで、基本的には長期療養中の患者さんを受け入れると同時に、必要に応じて急性期医療も提供できる病棟が必要ではないかと考えました。

幸い、私と同じように考えている医療関係者が多かったようで、日本版LTACが「地域包括ケア病棟」新設のきっかけとなり、2014年から日本の医療制度に組み込まれることになったのではないかと思っています。

みんなの介護 地域包括ケア病棟は、最長で60日入院できることになっていますね。

武久 地域包括ケア病棟の主な役割のひとつが在宅生活への復帰支援です。高度急性期病棟で症状が改善した患者さんが在宅生活へ戻れるようになるために、リハビリを行います。地域包括ケア病棟で高度急性期の病棟のような難しい治療が行われることはありませんが、患者を総合的に診ることができる医師が必要です。

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