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「破産者マップ」への対応をした弁護士は凄い!!

 弁護士の最所です。

 「破産者マップ」の件では、多くの弁護士の方々が迅速に対応され、現在では閉鎖されているに至っています。ご尽力された諸先生方には、ただただ、頭が下がる思いです。

 特に凄いなぁと思ったのが、個人情報保護委員会に対して、緊急命令の申入をするという方法が採られたことです。

 通常の発想だと、侵害された利益に着目して、名誉毀損行為に該当する、または、プライバシー権が侵害されたとして、民事上、刑事上の責任追及を行うことを検討するのが一般的です。

 ところが、民事上の責任追及を行おうとした場合、まずは、運営者を特定する為に、発信者情報の開示請求を行う必要がありますし、外国法人を相手にしなければならないという性質上、どうしても、時間がかかってしまいます。

 一方、刑事責任の追及ができるのであれば、事案によっては、迅速な捜査がなされ、早急な解決が期待出来る場合もありますが、刑事責任を追及しようとした場合、名誉毀損であればともかく、プライバシー権侵害の場合には、直接の刑事責任を規定したものはありませんので、刑事責任を追及することはできません。

 そこで、今回の「破産者マップ」が名誉毀損に該当するかといえば、その人が破産したということは事実ですし、サイトの作成自体に公益目的がないとまでは、直ちには断定し難いと思われます。

 そのため、仮に、名誉毀損で刑事告訴したとしても、警察としても、直ちに動くことは、そう簡単ではなかったように思います。

 この点、個人情報保護法には、罰則が規定されており(82条以下)、仮に、42条3項の是正命令が出されたにも拘わらず、命令に違反した場合には、84条で「6月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が課されてしまうことになります。

 今回は、サイト運営者は、行政指導の段階で閉鎖に応じた訳ですが、それは、行政指導に応じなければ、42条3項の是正命令が出され、それにも応じなければ、刑事事件化されてしまうこと(場合によっては身柄拘束がなされてしまうこと)を畏れた為ではないかと思われます。

 また、同時に、多くの弁護士が集団訴訟を提起する考えを示したことも、サイト運営者に対する牽制となったことも間違いないと思います。

 もっとも、現状の裁判所の判断基準からすると、プライバシー権侵害の場合の慰謝料は、非常に低廉なものとされてしまうのが一般です。

 とはいえ、破産者の情報という他人に知られたくない情報としての度合いが高いこと、実生活への強い影響が生じうる情報であること等の事情を考慮すると、いくら裁判所の慰謝料判断が低廉なものに止まるとはいえ、さすがに、1人あたり5万円程度の慰謝料は認められてしかるべきではないかと思っています。

 仮の話ですが、集団訴訟で、2000人が原告となったとして、1人あたり5万円の慰謝料が認められば、運営者の側には、1億円の賠償が命じられてしまうことになります。

 そうなれば、「破産者マップ」の運営者が破産してしまうという事態も生じないとは限りません。

 こういった事情を踏まえて、サイト運営者は、サイトを閉鎖したのではないかと思っています。

 当初は、サイト運営者の弁明を見る限り、運営者は、官報で公表されたいた情報なので、プライバシー権侵害には当たらないと考えていたようです。

 この点に関して、裁判例では、登記簿上に住所が掲載されていたことを理由にプライバシー権侵害にあたらないと主張された事案で、

 「登記簿や電話帳への自宅住所の記載は、いずれも一定の目的の下に限定された媒体ないし方法で公開されるもので、同目的に照らし限定的に利用され、同目的と関係のない目的のために利用される危険は少ないものと考えられ、公開するものもそのように期待して、公開に係る自宅情報の伝播を上記範囲に制限しているというべきであるから、上記各事実を理由として、原告X1が自宅住所情報につきプライバシーの利益として保護されることまで放棄していると評価することはできない」(東京地判平成23年8月29日:「最新プロバイダ責任制限法判例集」(LABO)174頁)

 と判断したものがあります。

 このような裁判例が存在することからすると、すでに公開されている情報だから、プライバシー権侵害には当たらないとの主張は認められないものと考えています。

 その意味でも、今回の申出書に記載された「破産等情報は官報に公表された情報ではあるものの、広く検索可能な形で流通されることを意図された情報ではなく、『破産者マップ』のように広くこれが公表されていることは破産者個人のプライバシーを侵害し、ひいては社会生活上多大な害悪をもたらす」(弁護士ドットコム)との指摘は、まさにその通りだと思います。

 破産者の情報が官報に掲載されるのも、基本的には、債権者に対して債権の届出を促し、公平かつ迅速に破産手続きを遂行することにあるのであって、当然のことではありますが、破産者を世間一般に対して「晒す」ことが目的ではありません。

 そういった点からすると、本来的には、破産手続きが終了した後になってもなお、長期間にわたり、破産者の情報を公開し続けること自体、法が予定しているものではありません。

 法がそもそも想定していない範囲において、殊更、個人のプライバシーを犠牲にしつつも、公開しなければならないことを正当化するような事情は、運営者の弁明においても、なされていたようには思えません。

 運営者の弁明では、破産者の氏名や住所を単なる「データ」として捉えていたようですが、人の氏名や住所は、その人の生活の場であり、生活の場における他者との関わりは、その人の人生そのものなのですから、単なる「文字列」だから、自由に扱って良いということにはならないはずです。

 個人の情報は、生身の人間の生活そのものに関わる情報ですから、適切な配慮が求められなければならない、それは当然のことだと思います。

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