記事

『ビジネスごっこ』から誕生した日本の給料システム

 先日、ソニーが全従業員の約6%にあたる「10000人の人員削減を行う」と発表したことで大きな話題となった。ソニーはリーマン・ショック時にも16000人の人員削減を行っているので、これで合計26000人の削減ということになる。

 前回の16000人削減で1000億円のコスト削減になったそうだが、今回の10000人では750億円のコスト削減になるらしい。

 6%ということは、100人の会社で考えれば6人という計算になるので、リストラとしてはそれほど大騒ぎする程のパーセンテージでもないような気もするが、「1万人」という具体的な数字が世間に与えた衝撃は大きかったらしい。新聞の見出しにデカデカと『1万人削減』などという白抜き文字が踊ると、必要以上に大事件だというイメージが刷り込まれ、余計に不安感を煽ることになってしまう。

 かつては「家電」と言えば日本製が主流だったが、今や、アジアの新興国に完全にお株を奪われてしまった感が強い。性能的な品質面では未だ日本製に分があるものの、価格的には全く太刀打ちできないような状況だろうと思う。

 最近は日本の家電メーカーも『MADE IN JAPAN』という看板を捨てて、形振り構わず人件費の安い他国で商品を生産している場合が多いが、本社がある自国の従業員の人件費(下請けの関連企業も含む)が高過ぎるためか、結局、世界を舞台にしたマーケットでは価格競争で負けてしまうことになる。

 先進国と新興国では、その人件費に圧倒的な差が有るため、同じ土俵の上で同じような商品を製造していたのでは、元々、勝ち目は無いに等しい。こういった事態(家電製造業の行き詰まり)を招くだろうことはもう20年以上も前から分かり切っていたことであるので、今更驚くような話でもないのだが。

 日本の労働者と新興国の労働者では、その人件費に10倍から30倍以上の開きが有ると言われている。どんなに器用で迅速に仕事ができる人であっても、流石に他人の10倍以上の仕事を行うのは無理がある。これは喩えて言うなら、100m走で90m以上のハンデを背負って競争しているようなものである。この差はもはや、能力や努力でなんとかなるようなレベルの問題ではない。こんな勝負をまともに行って勝てるのはスーパーマン位のものである。

 如何に日本国民が勤勉で有能であったとしても、モノ作りにおいては人件費の壁を超えることはできない。残念ながら、それがグローバル社会の厳しい現実であり、デフレ経済の中における日本の立ち位置である。

 ちなみに日本で言われている“お金が足りない”という意味での「デフレ」は、デプレッション(不況)のことであり、世界的なデフレ現象とはほとんど関係がない。

 前置きが少し長くなってしまったが、こういった事態を少しでも緩和する術が有るとすれば、それは、日本の労働体系を根本的に改めていくしかないのではないかと思う。

 具体的に言えば、正社員給というような建前給を止めて、日本の全企業が、市場の動向に沿った雇用・給与体系にするしかないのではないかと思う。

 昔の羽振りが良い頃の日本企業では、“仕事ができる人間”よりも“世渡りが上手な人間”の方が優秀な人間だということで重宝されたことがある。一部の公務員の世界では現在でもそうなのかもしれないが、今時の民間企業でそんな世渡りゲームのような真似事をすれば、即刻倒産ということになってしまいかねない。こういったデタラメなビジネスごっこが成り立った背景には、ロクに仕事をしなくても過剰な利益によって会社経営が成り立ったという裏事情がある。


 会社にいるだけで年々自動的に給料が上がっていくというような昇給システムも、このビジネスごっこの範疇に含まれている。しかし、毎月決まった給料が支給されるというシステムは、絶対的な仕事量も利益も保証されているという恵まれたビジネス環境でしか本来は成り立たないものである。

 実際、絶対的な仕事量の確保に躍起になっているのが現在の日本企業の姿であり、そんな状況下では、毎月の給料というものは、仕事量の変化によってアップダウンするのが本来の自然な姿だと言える。つまりは、仕事量によって変化する当たり前の給料体系でしか今後の経営は成り立っていかないということだ。

 ソニーも1万人もの人員をカットするよりも、ある程度、仕事量(利益)に見合った変動制の給料体系になっていれば、数千人の雇用は守られることになっただろうし、技術者の流出も避けられたはずだ。給料が下がって嫌なら、従業員自らの意思によって退職や転職を選択するというのが、まともな労働市場の姿である。

 時代や環境に沿った給料体系に移行することができないことによって、ハードランディング的にいらぬ失業者を生むことになり、全体としての労働市場にも景気にもマイナスの影響を与えることになる。
 
 ソニーの平井社長は「ソニーを変える。私は本気で全力で社員と一丸となって変えていく」と決意表明を声高らかに述べたそうだが、その抽象的な言葉には、どこか空虚さが漂っているように感じてしまう。今後、如何なる新商品を生み出したとしても、現在の雇用・給与体系をそのままの状態で放置すれば、再度、市場からの反作用を食らうことに成りかねないのではないかと危惧する。無論、これはソニーだけでなく、全ての日本企業に当て嵌まることでもある。
 
 「仕事量の変化によって給料が変わる」、これは至極当然の給料システムである。しかし、この当たり前のことができていないのが現在の日本企業の実態である。

 「毎月、給料が違ったら生活が安定しないではないか!」と怒る人がいるかもしれないが、毎月同額の給料が支給されるためには、トータルで総収入以上の利益を生み出していなければならない。グローバル化社会以前の日本では、その条件が幸運にも達成されていたがゆえに、そういったリスクヘッジ型を装った給料体系(経営者側から見れば、ピンハネ給料体系)が維持できていたに過ぎないのである。

 仕事量に比例して給料が変化するという当たり前の労働市場法則が機能していれば、現在の日本の雇用問題も少しはマシになるだろうと思う。現在の日本の労働市場の閉塞感の正体は、自然に逆らった人為的な計画経済に嵌り込んで、そこから抜け出せなくなってしまっていることにある。
 
 最後に、ソニーと言えば、以前、ホリエモンが買収する計画を立てていたことで騒がれた企業である。あの当時では、「なんと大それたことを…」と言う人が大部分だったと思うが、もし本当にホリエモンがソニーの経営を現在行っていたとすれば、どうなっていただろうか? これは私個人の推測だが、おそらく「世界のソニー」という言葉は現在でも通用していたのではないかと思う。

 彼はソニー買収によって iPhone的な商品を製造して流通させるという青写真を頭に描いていた。そして現在の大画面テレビ事業が不振に陥ることも既に見抜いていたフシがあり、「大画面テレビ事業は海外メーカーに売却する」というようなことも述べていたそうだ。

 ホリエモンを刑務所の中に閉じ込めた反作用は、日本経済にとっては無視できない悲劇を齎すのかもしれない。

あわせて読みたい

「ソニー」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    「天皇謝罪で慰安婦解決」は大嘘

    MAG2 NEWS

  2. 2

    夕刊フジ「韓国一面祭り」のワケ

    文春オンライン

  3. 3

    反日姿勢に米の韓国離れが加速か

    MAG2 NEWS

  4. 4

    10連休で支障ない行政は給与泥棒

    川北英隆

  5. 5

    橋下氏 五輪相カンペ謝罪に指摘

    橋下徹

  6. 6

    五輪相の失言は全文読んでもダメ

    永江一石

  7. 7

    いきなりステーキ NYでなぜ苦戦?

    佐々木康彦 / ITmedia オルタナティブ・ブログ

  8. 8

    韓国の日本軽視 裏に存在感低下

    WEDGE Infinity

  9. 9

    エロ本排除を招いた出版社の失策

    文化通信特報版

  10. 10

    眞子さま 皇籍離脱して結婚も?

    NEWSポストセブン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。