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突如として盛り上がり始めた「5G」の理想と現実

次世代のモバイル通信規格「5G」が、最近になって急に盛り上がり始めている。突如、話題となった理由はどこにあるのだろうか。そして、5Gは日本では2020年に商用サービス開始を予定しているが、多くの人がイメージするような5Gの環境は、果たしてすぐに実現できるものなのだろうか。

ここ1年で急速に盛り上がりを見せる5G

ここ最近、耳にする機会が急速に増えている「5G」。これは現在のスマートフォン向けの通信サービスなどで利用している「4G」に対して、次の世代となるモバイル通信の新しい規格だ。日本では2020年、ちょうど東京五輪が開催される年に商用サービス化を予定している。

だがこの5G、つい最近まではあまり注目を集めた言葉とは言えなかった。例えばNTTドコモは2015年頃から5Gの標準化を進め、5Gを盛り上げるための取り組みを積極的に実施していたのだが、正直、当時から世間の関心が高まる様子は見られなかった。

海外に目を向けるとより深刻で、特に欧州などは4Gの商用サービス展開が遅れたこともあり、新たな設備投資が必要な5Gに、通信キャリア側までもが及び腰だったのだ。

当初は5G導入に関する機運が世界的にあまり盛り上がらなかったことから、NTTドコモは2015年より「5G Tokyo Bay Summit」を開催するなど、5Gを盛り上げるための積極的な取り組みをしていた

ところがここ1年で、そうした状況が劇的に変化したように見える。実際、2019年2月にスペイン・バルセロナで開催された携帯電話の総合見本市イベント「MWC 2019 Barcelona」では、ありとあらゆる企業が5Gに関して積極的に展示とアピールを行っていた。

かねてより2019年の商用サービス開始を発表していた中国や韓国だけでなく、欧州などのキャリアも相次いで5Gの商用化を2019年に前倒しするなど、多くの企業が前のめりで5Gに取り組む方針を打ち出したのだ。

2019年の「MWC 2019 Barcelona」は多くの企業が「5G」を前面に打ち出した。これまでとは一転し、5Gに熱心に取り組む企業が劇的に増えているのだ

そうしたことから、5Gの商用サービス開始を東京五輪に合わせたばかりに、もともとは5Gで先端を進んでいたはずの日本はこの波に完全に乗り遅れ、現地では「日本は遅れている」という声が多数聞かれたほどだ。こうした話からも、いかに短期間のうちに、5Gに対する世の中の動向が劇的に変化したかを見て取ることができる。

しかしなぜ、そこまで急激に5Gへの関心が高まったのだろう。端的に言えば、要するに「5Gの使い道が見つかったから」である。

携帯電話の通信規格は、増大し続ける通信トラフィックに対処するため、10年おきに新世代へとアップデートする傾向にあった。そのため5Gも4Gの延長線上にあるものと捉えられており、スマートフォンを高速化するという以外の使い道を見出しづらく、ここまで関心が高まることはなかった。

ところが近年、「IoT」(Internet of Things)の概念が急速に広まったことで、あらゆる機器がインターネットに接続するという将来像が見え、5GがそのIoTを支えるネットワークとして有力視されるようになってきたのだ。

スマートフォンだけでなく、家電や家、工場、車、そして都市などを丸ごとスマート化する社会インフラとして、5Gが有力視されるようになった。そこに大きなビジネスチャンスが生まれると考える企業が増えたからこそ、5Gに対して熱い視線が集まるようになったといえる。

5Gで注目されているのはIoTを支えるネットワークとしての側面だ。MWC 2019 Barcelonaでも、5Gに関連する展示は都市や工場のスマート化など法人向けの展示が主だ

当初の5Gは期待通りのパフォーマンスを発揮できない?

そうした世界情勢の急変ぶりに焦りを感じたのか、日本でもキャリア大手3社が2019年秋のラグビーW杯に合わせる形で5Gのプレ商用サービスを提供すると発表した。今後は我が国においても、各所で5Gへの取り組みが急拡大することは間違いない情勢だ。

だが5Gが、そうした人達の期待通りに広まっていくのか? という疑問も少なからずある。その疑問の理由の1つは「周波数帯」だ。

5Gは4Gよりも高速大容量通信を実現する必要があるため、まだあまり利用されておらず、かつ帯域幅が広い、より高い周波数帯を利用することが前提とされている。具体的には3~6GHzの「サブ6」と呼ばれる帯域と、30GHzを超える高い周波数の「ミリ波」と呼ばれる帯域だ。

だが、そもそも電波は周波数が高ければ高いほど、障害物の裏に回り込みにくく減衰も早いため、遠くに飛びにくいという特性を持つ。そうした周波数帯を用いる5Gのパフォーマンスを十分に発揮するには多数の基地局を設置する必要があるし、その恩恵を得られるのも基地局が設置されたエリア周辺に限られてしまう。

きちんとインフラ整備をしていかなければ、かなり使い勝手の悪いネットワークとなってしまう可能性もあるのだ。

ソニーモバイルの5Gスマートフォン試作機による、ミリ波での通信速度測定デモ。ミリ波は遮蔽物に非常に弱いためアンテナ設計が難しいという

もう1つの理由は、多くの国で当初導入される5Gが、既に整備されている4Gのネットワークの中で5Gを一体運用する「ノンスタンドアロン」形式であることだ。ノンスタンドアロン型は低コストで導入できる上、4Gとの併用となるため安定した運用が可能というメリットがある。

一方、4Gの性能にひきずられるため5Gのポテンシャルをフルに発揮できない弱点がある。5Gのポテンシャルをフルに発揮するには、ネットワーク全体を5G専用の環境で運用する「スタンドアロン」形式が必要で、その導入にはまだ時間がかかるとされているのだ。

そして現状最も懸念されるのは、5Gのそうした課題が理解されないまま、周囲の期待だけが大きく膨らんでいることである。このままの状態で5Gの商用サービスが拙速に始まり、理想と現実のギャップを目の当たりにしてしまえば、5Gへの失望感が一気に広がり関心が薄れ、それが将来的な市場の形成や技術の進展に悪影響をもたらしてしまうことも考えられる訳だ。

5Gに対する機運が大きく盛り上がってきた今だからこそ、その先を見通す上では冷静な目を持つ必要があることを、覚えておきたい。

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