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NZテロをなぜ犠牲者遺族は許したか―トルコ大統領が煽る報復感情との比較から(六辻彰二)

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  • トルコのエルドアン大統領はクライストチャーチのモスク襲撃事件をトルコやイスラーム世界に対する攻撃の一部と位置付け、欧米諸国への批判を強めた
  • エルドアン大統領の言動は事件を政治的に利用しているだけでなく、危険かつ不公正という点で、ほとんどのムスリムよりむしろ白人右翼テロリストに近い
  • さらに、ただ報復感情を煽ることは、犯人を「許す」と述べた犠牲者遺族に寄り添うものでもない

 クライストチャーチでのモスク襲撃事件を受けて、二つのコメントが世界の関心を集めた。一つは犠牲者遺族の男性が述べた「犯人を許す」という発言で、もう一つはトルコのエルドアン大統領による「(事件は)欧米諸国がこれまで無視してきたイスラーム嫌い(イスラモフォビア)の高まりの兆候」という主張だ。これらを比べると、欧米諸国全体を告発したエルドアン大統領の発言の方が「勇ましい」が、「犯人を許す」と述べた犠牲者遺族の方が人間としては強い。

【参考記事】ニュージーランド大量殺人の衝撃―国境を越える白人右翼テロ

事件の政治利用

 トルコのエルドアン大統領は3月17日、テロ事件の実行犯タラント容疑者が撮影したモスク襲撃の動画を選挙集会で上映し、これをトルコとイスラーム世界に対する攻撃の一部と位置づけた

 そのうえで、エルドアン大統領は(トルコを二度訪問した)タラント容疑者の「ボスポラス海峡の西側(つまりヨーロッパ)からムスリムを排除したい」という発言を引用して、「つまり、ヨーロッパに我々は行くなということだ。さもないと、彼(タラント容疑者)はイスタンブールにきて、我々を皆殺しにして、我々の土地を奪うつもりだった」。

 エルドアン大統領が上映した動画は、タラント容疑者が撮影したものだ。この動画が掲載されていたフェイスブックのタラント容疑者のアカウントは削除されているが、動画はすでに拡散している。それを公の場で上映したことに、ニュージーランドのピーターズ外相は「国内外のニュージーランド人の未来と安全を損なうものであり、まったく不当なこと」と非難している。

 クライストチャーチの事件では50人の犠牲者が出たが、3人のトルコ人も負傷した。それもあって、他のイスラーム諸国と同様、トルコでもクライストチャーチ事件やイスラーム嫌いへの抗議デモが発生している。これらを考えれば、エルドアン大統領の言動に理解を示す向きもあるかもしれない。

 しかし、エルドアン大統領の言動は、事件を政治利用したものと言わざるを得ない。

 トルコは建国以来「世俗主義」を国是としてきたが、エルドアン大統領は「ムスリム同胞団」などイスラーム主義団体を大きな支持基盤に抱えており、2003年以来イスラームに傾いた政策を相次いで実施してきた。その支持者たちを前に、白人キリスト教徒によってムスリムが虐殺される様子をみせることは、報復感情や宗教意識を鼓舞し、ひいてはアメリカをはじめ欧米諸国とさまざまなシーンで対決する自らへの支持を訴えるものになる。

白人右翼との共通性

 そのうえ、エルドアン大統領の言動には、白人右翼との共通性も見出せる。

 これまで、自国民や同胞がテロの犠牲者になった時、各国政府の代表はテロを批判しながらも、テロリストが所属する国家や文明を批判することを控えてきた。9.11後のアメリカでは「イスラームそのものに問題がある」という意見も珍しくなくなったが、少なくとも責任あるポジションの者がそれを口にすることはほとんどなく、ジョージ・ブッシュ大統領(当時)でさえ、内心はともかく公の場ではイスラームそのものを批判することはほとんどなかった。

「(そこに社会的背景があるにせよ)テロを行うのは一部の個人や勢力で、特定の国や文明の責任ではない」ことは、外交辞令としても、あるいは事実認識としても、当然のことといえる。そうでなければ、イスラーム諸国は自己批判を続けなければならない。実際、イスラーム過激派によるテロについて、イスラーム諸国の政府は「過激派は正しいムスリムではない」と言うのが一般的で、エルドアン大統領もこの点では同じだ。

 つまり、エルドアン大統領がイスラーム過激派のテロを「常軌を逸した一部の連中がやったことで、イスラームそのものに問題はない」と扱いながら、白人右翼テロを「これこそ白人世界の典型」といわんばかりに取り上げることは、全くフェアではない。言い換えると、タラント容疑者を白人の代表として扱うことは、ビン・ラディンを典型的なムスリムとみなすのと同じくらい、偏見と敵意を再生産するものでしかないのである。

 特定の文化や人種・民族への反発や敵意、あるいは相手に対する(根拠のない)優越感やコンプレックスがなければ自尊心すら保てない人々を煽動する点で、エルドアン大統領はほとんどのムスリムより、白人右翼に近いとさえいえる。

 開発途上国とりわけイスラーム世界に、欧米諸国によって自分たちが虐げられてきた、あるいは不利に扱われている、という感覚があることは疑いない。また、欧米諸国にイスラーム世界への偏見や反感があることも確かだ。

【参考記事】フランスの新聞社襲撃事件から「表現の自由」の二面性を考える-サイード『イスラム報道』を読み返す

 それでも、あるいはだからこそ、エルドアン大統領の言動は偏見や敵意を振りまくものという意味で危険であるばかりか、確かに不当でもある。

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