記事

苦学生、フリーランス、シングルマザー、傷病者……必死に生きるとは何か パフォーマンスで「働き方改革」と言ってる場合じゃない - 山本 一郎

 先日、藤代裕之さんというメディア論の人が、いまどきの大学生に求められる勉学の量と大学に子どもをやる保護者の感覚のミスマッチについて考えさせられるコラムを掲載していました。そういえば、藤代さんヤフーニュースと喧嘩してませんでしたっけ……?

【写真】この記事の写真(5枚)を見る

 シラバスの厳格化と「生活費はバイトで稼いで」と言う保護者の間で詰む学生が出る(藤代裕之) - Y!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/fujisiro/20190215-00114839/


©iStock.com

「レジャーランドとしての大学」は昔のはなし

 で、年間何コマか臨時講師をさせていただいたり、大学やシンクタンク、研究所などで講演をすることがある私からしますと、この記事にある通り文部科学省や大学生の親が思っているような「レジャーランドとしての大学」としての側面は鳴りを潜め、ちゃんと勉強して文献に目を通しレポート書いて試験を受けて簡単な論文も書いて、ってぐらいに取り組まないと単位がもらえないケースも多くなっているわけです。

 言われてみれば、私の親父(現在89歳)なんかも、私が大学に上がるときに「大学に入ったら酒もたばこも博打も何でも大っぴらにやれるし、思い切り満喫しなさい」とかいうモラトリアムな雰囲気の言葉を頂戴した記憶が残っているのですが、最高学府たる大学もまあ随分様変わりしているんですよね。

今風の「大学生の流れ」は慌ただしい

 たとえば先日、新潟大学から講義に呼ばれて行ってきました。いろいろ喋ったうえで大学生に問題意識をお伝えし、その問題を解決するためのちょっとした設問込みのワークショップをやったのですが、メモ書き程度に渡したはずのA4用紙2枚にみんなみっちり鉛筆でテーマの整理や考えをまとめたものを書き込んでいたのが印象的でした。みんな真面目で超ヤバイ。私のころのグータラ大学生はどこに行ってしまったの。私の大学生のときなんかは講義そっちのけで紙ヒコーキが飛び交うぐらいの勢いだったのに時代が違います。

 必然的に真面目に授業することを強いられ、学生さんの熱量に引っ張られるような形になるわけですけど、話として目を引くのは「大学の授業や宿題・レポート提出と、就職活動と、生活の費用をねん出するためのアルバイトとに時間を割かれ、大学生活はとても慌ただしい」という声がたくさん聞かれたのです。もちろん、地域柄として大学生のうちに自動車免許ぐらいは取得しておこう、というのはあるかもしれませんが、基本的に皆さん大学に遊びに来ている雰囲気はありません。すげーな。

 最近は特にインターンが必修単位になって受け入れてくれる先の捜索から就職活動まで情報収集の連続であり、この今風の「大学生の流れ」に乗り遅れると良い就職先が見つからないどころか卒業もままならないという、日本の大学生の風景の殺伐さ加減はちょっと可哀想です。

「当面の学費がない」と嘆く大学生

 一方、私立大学に呼ばれると、様相はもっと深刻になります。状況はもっと込み入っていて、研究室での拘束時間が長すぎて経済的に成り立たない学生さんが変なローンに手を出してしまい収拾がつかないとか、1年以上の休学を挟まないと大学卒業までの学費が捻出できないなどという事例が多発しているようです。20歳そこそこの、人生で一番学べる貴重な時期にアルバイトで時間を使うのは若き時間の浪費のような気もするんですよね。

 もちろんそういう学生のために奨学金があるわけなんですが、昨今よく話題になるように事実上学資ローンみたいなもので長きにわたって返済しなければならない場合も少なくなく、また、寄付型の奨学金は競争率が高くて、これはこれで大変そうです。

 実際、私が以前経営していた会社にやってきた大学生が「当面の学費がない」と宴会で嘆いていたので、個人的に貸し付けることも少なくありませんでした。せっかく学びたいというのに、カネがないというのは切ないので当面必要な額はなるだけ貸してあげるわけなのですが、卒業して、私の会社に就職しなかったケースできちんと返済されるのは5人に1人ぐらいでしょうか。別に逃げ回ってるんじゃねーよと言いたいわけではないのですけど、返せないなら返せない、いま苦しいなら仕方がないので、メール一通電話一本一言くれないかなと思うわけであります。

マイナーな立場の人が零れ落ちるのです

 そして、なかなかいい就職先が見つからないぞとなると、大学生は悲惨です。いや、見た目の大学生の就職率は最低だった91%(2011年)から98%(2018年)まで伸びましたと凄く良さそうに見えるわけなんですけど、5年前にちょっと講座をやらせてもらった東京大学の子たちもほぼ半数は就職5年以内にみんな転職してしまっています。はえーよ。

 でも、社会に出てみて「あれ? この会社ブラックじゃね?」とか「言われていたのと随分違う」となって、すぐに転職ができる人はまだ救われています。地方の大学を出てなんとか就職したものの転職もままならず安い給料でこき使われて結婚予算も作れずに悶々としている若者の話を聞いていると、この状況で安倍政権が「展望は明るい」とか強弁しているのはさすがにどうなんだろうと思うのです。それでも本当に景気が悪ければ就職などできないわけですから、アベちゃんでまだマシだと言われるとそうなのでしょうが。

 どうしても、社会の形を考えていくとマイナーな立場の人が救済や対策の手から零れ落ちてしまうのでしょう。そのマイナーだったフリーターもシングルマザーも、晩婚化、ブラック企業、転職上等の時代にいつの間にか人生の選択として当たり前のようになって、いま問題になっているということです。もちろん、そういう人も視野に入りつついろんな議論はあるわけですが、先日、某所で行われていた「働き方改革と人生100年時代の企業経営」とかいうシンポジウムで自民党の小泉進次郎さんがいろんな施策や構想を打ち出す発言をしていたようです。

イケてる人たちであることが前提

 でもこれ、失業保険を支払っていないフリーランスや、うっかり休業してしまったら経済的に立ちいかないであろうシングルマザーや傷病者(メンタルヘルスに問題を抱えている人も含む)は零れ落ちてしまうんですよね。このシンポジウムの主催者も喋っている小泉進次郎さんも、みんな立派な人たちなので、対象になる人たちはみんな夫婦揃っていて、失業保険を支払っていて、休業期間が終われば原職に復帰できるようなイケてる人たちであることが前提のスローガンを打ち出しているんじゃないかと思うんですよ。

 いま実際に育休・産休界隈で起きていることは、私も先日記事を書きましたが「子どもを産んで育てようという人たちに対する結構冷たい目線」であって、こういう働き方改革がパパママ揃った健康でちゃんとした勤め先にいる人たちを前提にしている限りは、困っている人たちへの手助けにはならないんじゃないかとすら思います。

「第4子出産で産休・育休7年」NHK青山祐子アナウンサーの退職への「もらい逃げ批判」が面白い件(山本一郎) - Y!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20190315-00118412/

一つ間違えば生活保護待ったなし

 突き詰めれば、国家が国民の出産育児をより良いものにしていくにあたり、企業が男性育休を認めるような福利厚生を整備しろと号令をかけたところで、本来は国家が担うべき福祉を民間に押し付けている限り「そういう企業には勤めていない大多数の人たち」はいつまでもその働き方改革とやらの恩恵には与れないのでしょう。

 そして、今度は経済産業省が「プレミアム“キャッシュレス”フライデー」とか言い出して、そもそも金曜日に時短勤務させてもらえる企業がどのくらいあるのかすら判然としないのに、さらに経産省が進める電子マネー決済を推進するという駄目なテトリスみたいな政策の積み上がり方をしていて本当に残念です。

 おそらくは、名前が売れている人や蓄財ができている人でもない限り、フリーランスや片親で頑張っている人々は、一つ間違えば生活保護待ったなしという危機感や焦燥感を抱きながら日々子どもを育てつつ働いているという現実を見てほしいんですよね。いますでに必死に生きている人たちが大勢いるところで、パフォーマンス的に「働き方改革ですよ」「ワークライフバランスが大事です」と言っても、お前それどころじゃねえだろと誰かがちゃんと丁寧に彼らの頭から水をかけてあげる儀式が必要なんじゃないかと思うのですが。

(山本 一郎)

あわせて読みたい

「働き方改革」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    進化する日米同盟を嘆く韓国紙

    木走正水(きばしりまさみず)

  2. 2

    人気ラッパー語るアイドル界の闇

    BLOGOS編集部

  3. 3

    年収1000万円達成 早起きがカギ?

    キャリコネニュース

  4. 4

    田原氏 安倍首相は大問題解決を

    田原総一朗

  5. 5

    堀江氏 お金のため働く人は危険

    PRESIDENT Online

  6. 6

    心折れる? 吉高主演ドラマに反響

    女性自身

  7. 7

    キャバ嬢が勘違い客を一刀両断

    AbemaTIMES

  8. 8

    派遣会社が人手不足で倒産の皮肉

    中田宏

  9. 9

    日本の終身雇用制度が完全終了か

    佐々木康彦 / ITmedia オルタナティブ・ブログ

  10. 10

    櫻井よしこ氏の朝日批判は不公平

    週刊金曜日編集部

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。