- 2019年03月21日 05:59
第2回米朝首脳会談、全面的な失敗とは言い切れない - 岡崎研究所
2月27~28日にハノイで開催された第2回の米朝首脳会談は、物別れに終わった。
トランプ大統領による一貫して楽観的な発言等により、第2回米朝首脳会談に対して、世界の期待は高められていた。ハノイで米朝首脳会談が始まった時は、トランプ大統領も金正恩書記長もご機嫌だった。それが最終的に決裂したことは、世界を驚かせた。
farosofa/Artystarty
第2回米朝首脳会談後の大方の反応は「失敗」論であった。準備不足や抑々会談はやるべきではなかったなどとの批判がなされた。それらは、正しい批判である。首脳の余りにも個人的な関係が、事務レベルの協議を阻むことになっていることも否定できない。ハノイ会談の問題は初めからわかっていた。
しかし、第2回米朝首脳会談は、全面的な失敗とは言い切れない側面がある。次に示す通り、幾つか良い点も考えられる。
第1点目は、トランプ大統領が良く踏みとどまったことである。そうでなければ、交渉は大失敗するところだった。トランプは初めて「まともな外交」をしたとの評価もある。記者会見でのトランプ発言は、今までの乱暴な発言と比較して、妙にニュアンスのある発言が多かったし、慎重に発言していた。
第2の利点は、北朝鮮問題の対立の論点が、米朝間で極めて鮮明になったことである。少なくとも、金正恩は、直面する問題の解決策の選択の厳しさについて、認識を新たにしたのではないか。今までのような誤解、意図的曖昧さを残したままでは、きちんとした交渉は出来なかった。非核化の定義(会談に先立ち米国はペーパーを北朝鮮に渡したと言われる)や彼我の主張の相違点が明確になったことは、極めて重要である。
北朝鮮は、寧辺の閉鎖と交換に国連制裁措置の解除を要求した。トランプ大統領は「北朝鮮は制裁の全部の解除を要求した」と説明したが、北朝鮮の李容浩外相は、2月28日深夜の記者会見で、トランプの説明を否定し、要求したのは国連制裁の一部である最新の5の制裁、「民需経済と人民生活に支障を与える制裁」だと主張した。しかし、最新の5の制裁は、石炭、鉱物資源等輸出全般に亘る規制や石油の北朝鮮への輸出規制であり、それらは対北朝鮮制裁の核心である。
北朝鮮の要求は、実質的に全面制裁解除の要求に等しかった。そんなことをすれば、米国のレバレッジは全く失われていただろう。国連制裁は交渉の最重要な梃子であり、安易に解除してはならない。北朝鮮がかかる要求をしたこと自体、制裁が効いていることの証左でもある。
第3は、一部核施設の閉鎖とICBM廃棄の取引を受け入れなかったことである。もし受け入れていたら、米国と同盟諸国との安全保障は分裂し、同盟の信頼は大きく損なわれただろう。トランプの記者会見では、日本など同盟諸国への配慮も滲み出ていたように見えた。
第4は、米国は、全ての核・ミサイルの廃棄の後に、制裁が解除されるとの考え方を北朝鮮に示し、グランド・バーゲンしたとされる点である。実施は段階的に行っても良いが、最終目標を含む基本的なビジョンは双方で一括合意しておく必要がある。そのためにはグランド・バーゲンの考え方が欠かせない。
第5に、トランプは寧辺に関連して、他の秘密濃縮施設の存在を北朝鮮に突き付けたことである。これに対して金正恩は驚いていたとトランプは述べた。米国の諜報に、北朝鮮は大きな衝撃を受けたのではないか。
ハーバード大学のアリソン教授は、ハノイ首脳会談は1986年のレイキャビク米ソ首脳会談に酷似しており、ハノイ会談につき「歴史は非核化に向けての重要な一歩になった会談として記憶されるのではないか」と、3月2日付のナショナル・インタレスト誌で述べている。興味深い見方である。ゴルバチョフからの「美しい書簡」によりレーガンはレイキャビクに行く、しかしゴルバチョフは核軍縮合意のためには米国が SDIを止めることが必要と主張する、レーガンは会談を打ち切り帰国する、その後シュワルナゼ等のレベルで協議が続き、ソ連が立場を変え、最終的に1年後にINFの核軍縮が合意されることになった。
今後、ハノイの米朝首脳会談を踏まえて議論を推進することが重要である。レイキャビク会談後、ソ連は2カ月かけて政策を練り直した。米国の政治日程を考えれば、交渉の窓は長くはない。米国は例えば李容浩か金英哲の訪米を求め、交渉を続けるべきである。必要であれば、日本等が座敷をかすことも考えられるのではないか。グランド・バーゲンには日朝国交正常化等あらゆる事項を含めた方がよい。それは北朝鮮にとっても利益がある筈だ。
米中が疎通することも重要である。金正恩を交渉から離脱させないようにする必要がある。他方、 3月5日には、米国の研究グループが、昨秋北朝鮮が廃棄を表明していた東倉里ミサイル発射場で施設立て直しの兆候が見つかったと発表した。70時間に近い列車旅の中で、金正恩は何を思いながら帰国したのであろうか。
- WEDGE Infinity
- 月刊誌「Wedge」のウェブ版



