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東レの営業部長が懲戒解雇、契約書偽造で架空取引15億円

東レのロゴマーク(時事通信フォト)

東レの日覚昭広社長(時事通信フォト)

 日本を代表する大企業が「巨額の不正問題」に揺れている。幹部社員が「巨額の不正契約を交わしていた」というのだ。経緯を辿っていくと、いくつもの奇妙な点が浮かび上がってくる。ジャーナリストの伊藤博敏氏がレポートする。

 * * *
 発端は、2月12日に東レが公表したリリースだった。

〈当社の元従業員が、水処理システム装置の海外向け販売において、当社とは直接取引関係のない第三者に対して、当社の買戻義務や連帯保証義務を定めた書類を無断で作成し、それを交付した〉

 不正行為(有印私文書偽造と同行使等)を働いたとして、同社の水処理システム事業部の営業部長・F氏の懲戒解雇(昨年11月)も公表。〈刑事告訴を検討している〉と明らかにした。

 説明するまでもなく、東レは売上高2兆円を誇る日本最大の繊維・化学メーカーだ。榊原定征・前会長(現・相談役)は昨年5月まで経団連の会長を務めていた。

「不正契約」に関わった業者などに取材すると、不可解な金の流れがあった。

◆600万円で売り、700万円で買い戻す

 50代のF氏は一貫して営業畑を歩み、海外向けの大プロジェクトを任される立場にあった。東レ関係者からは、「(海外事業にかかわる)総合商社との交渉に長け、日覺昭廣・代表取締役社長も評価するエリート」という評も聞かれた。

 では、どんな取引が行なわれたのか。東レの発表で〈取引関係のない第三者〉とされた企業の一社(以下、P社)の問題となった契約に関する資料を入手した。

「東レ製品を販売するO社」が水処理装置(地下水の浄化装置)を売却する売買契約を結ぶにあたり、F氏は「東レがO社の連帯保証人になる」という内容の契約書をP社と交わした。

 その内容は実に奇妙だ。

 売買契約は、「O社からP社へ1台600万円で50台を販売する」というもの。そして、連帯保証契約は、「3か月後までにP社が転売できない場合は、O社が1台700万円で買い戻す。その際に東レは買い戻し資金の保証を行なう」──という。つまり、“販売額に100万円上乗せして買い戻す”という、およそ商売とは思えない取引である。

 問題となったのは、日覺社長の名前の隣に「社印」が捺印された連帯保証契約の委任状だった。この契約書には、日覺社長が登録した「印鑑証明書」も添付されていた。F氏から契約を持ちかけられたP社の幹部が明かす。

「弊社はもともと水処理とは縁がないが、絶対に損が生じないということで契約した。Fさんからは、“外国に販売する予定のものが宙に浮いてしまって困っているから、とりあえず買ってほしい”と説明された。契約書類は揃っているし、何より東レの連帯保証があるから信用した」

 その後、水処理装置はO社からP社に納入され、P社は代金として約3億円を支払った。P社の在庫記録を見ると、“一時的に買い取った装置”が倉庫に保管されていることがわかる。

 だが、それらが買い戻されることはなく、P社が東レの日覺社長に対して連帯保証契約の履行を求めたところ、「架空契約」が発覚した。筆者が入手した取引資料から調べると、同様の「架空取引契約」はP社を含めて約10社、動いた資金は総計5億4000万円にのぼることが読み取れる。

◆バングラに売却予定の装置

 以上の情報からは、「F氏が東レの“看板”を使い、O社と協力してP社などから資金を騙し取った」──そんな構図が推測される。だが、前出のP社幹部は、

「F氏から取引に際してキックバックなどを求められたことはない。O社への振込手続きにもおかしな内容はなかった。すべてF氏の独断という印象は持たなかった」とも語る。

 そもそも買い戻しが行なわれなければ、P社らが東レに契約内容を確認することは当然の流れであり、架空契約があっさり露見することは想像に難くない。そうなればF氏は職を失った上、刑事罰を受ける可能性さえある。大企業の営業部長まで登り詰めた“辣腕エリート”にしては、いささか短絡的にすぎる行動にも思える。

 もうひとつ不思議なのは、F氏が“売却”しようとした装置の特徴だ。東レと取引のある財界関係者が言う。

「問題の水処理装置は、本来なら今頃、バングラデシュのプラントに納入されているはずだった。ところが2016年7月に首都・ダッカで日本人7人を含む22人が犠牲になったテロが発生して、プラント計画が頓挫。そのため約15億円分相当の装置が売り先を失ってしまった」

 F氏がP社に説明したとされる話とも符合するが、これらの水処理装置が東レにとって“厄介な在庫”だったという指摘である。水処理事業部の営業部長であるF氏としてみれば、その状態を解消しなくてはという焦り、あるいは使命感があったのだろうか。

 取引書類に記載されたF氏の自宅を訪ねたが、F氏は不在だった。また、問題の取引の「販売元」のO社は、社の代表番号に連絡が通じない状態が続いている。東レはどう説明するのか。

 同社広報室は「元従業員の不正行為に関して、2月12日に告訴状を提出しております」と説明するが、契約書の偽造や契約内容、さらにはP社らへの対応についての質問には「今後の捜査に影響を与える可能性があるので回答を控えさせていただきたい」と回答した。また、社としての管理責任についてはこう答えた。

「契約書管理の徹底を既に実施し、顧客審査の徹底、決裁プロセスの改善など、不正が起こらないように今後も厳格な社内管理を行っていく所存です」

 事は数億円が動いた“架空商談”であり、東レグループの取引先は国内5000社に及ぶ。捜査の進展を待つだけでなく、取引先や株主への説明を果たす責任も問われるのではないか。

※週刊ポスト2019年3月29日号

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