- 2019年03月19日 09:15
頭のいい人がまったく新聞を読まないワケ
2/2発明や発見ができるのは「考える」人
20世紀までがハードディスク(情報・知識)主体の時代だったとすれば、21世紀はCPU(思考力・想像力)が主体になる時代である。
これからの時代はハードディスクから解を抜くのではない。問いそのものを問い直す必要があるからだ。問いを問い直すことはたやすいことではない。常に考え続ける必要があるし、流れに逆らうことでもあるから、苦痛な作業である。
ここでフォード社の創業者、ヘンリー・フォード氏の逸話を紹介したい。
あるとき、知識人と呼ばれる人たちがフォード社を訪れた。フォード氏は落ち着いて「皆さん、どのような質問でも良いです。答えてご覧に入れます」と言った。
小学校しか出ていないフォード氏の無知さを晒そうと、知識人が次から次へと質問を浴びせると、フォード氏はおもむろに電話を取り上げて、部下を呼びつけた。そしてそれらの質問にあっさりと答えさせてこう言った。
「私は何か問題が起こったら、非常に優秀な、私よりも頭の良い人を雇い、答えを出させます。そうすれば、自分の頭はすっきりした状態に保つことができますから。そして自分はもっと大事なことに時間を使います。それはたとえば、『考える』ということなのです」
つまりフォード氏の本当のメッセージは、「考えることは過酷な仕事だ。だからそれをやろうとする人がこんなにも少ない」ということだ。
常識に果敢に挑戦し、発明や発見を行う人物に共通するのは「考える」ことであり、決して知識や情報量の多さではない。
21世紀において「知識」はお金を生まない
20世紀にお金を生むのは知識だった。そう指摘したのは経営学者のピーター・ドラッカー氏だ。21世紀では知識はお金を生まないだろう。知識は誰でも手に入る。お金を生むのは社会的関係(信用)である。ただ21世紀、知識はあらゆるコストを下げるために使われる。健康に関する知識があれば治療費や保険料が下がるのは言わずもがな、確かな知識と情報は購買にかけるコストをも下げる。
たとえば先日、私はスーツを新調することにした。ファッションに疎いので周囲にアドバイスを求めたら、どうやらエルメネジルド・ゼニアのスーツが最近評判が良いことがわかった。早速お店に行って値札を見たら、普段見るものより桁が一個多い。外見は信用力に影響するので妥協すべきではないが、さすがに50万円は予算オーバーだ。そこで私はスーツに関する情報をグーグルから拾い出した。
スーツは、いわゆるイタリアブランドも東欧で縫製されているのが主であるし、結局のところ、型と生地と縫製の組み合わせで成り立っている。ならば既成品をそのまま買うのではなく、個別に入手して自分で組み合わせたほうが安いと考えた。
50万円のブランド品を25万円で手に入れる「知識」
私は同じ銀座にあるオンワードのオーダーメイドの店へ向かった。店員に聞くとゼニアの型もあるし、ゼニアの生地(そもそもゼニアは生地メーカーである)を周辺のデパートから取り寄せることもできると言う。
こうして私は、ゼニアで買うのと変わらないスーツを半値で手に入れることができた。違いは縫製とタグがゼニアのものではないことだが、本当にタグが必要なら、どこかのショッピングサイトで調達できるだろう(その必要は感じないが)。
50万円のブランド品を25万円で手に入れることができたのは、知識があったのと少しばかり考えた(スーツの購入に必要なプロセスを分解して個別に発注した)からにすぎない。
個別の部品知識と組み合わせの方法さえ知っておけば、現代ではあらゆる高額製品(たとえば家や家具、車、会社の経営資源など)をそのまま買う必要はない。
21世紀において、知識はお金にならないが、コストを下げることができるのだ。
情報量が増えるほど人は考えなくなる
情報を軽視するつもりはない。だが「思考>情報」を若い頃から徹底し、実践している経験から、思考は情報に勝ると思う。情報はあくまでも思考のための“潤滑油”である。情報はあくまでも思考の素材であり、目的ではないのだ。
世の中は超情報化社会と言われるが、情報量が増えれば増えるほど人は思考しなくなる。これを私は「思考と情報のパラドクス」と呼ぶ(図表2)。

思考を鍛えたいのであれば、情報を減らし、思考の割合を増やすことだ。痩せたいのなら筋トレ(思考)の前に炭水化物(情報)を控えろ、と言われるのに似ている。
後に詳しく説明するのでここでは簡単に述べるが、思考の正体とは「意識を自由に動かすこと」にある。人の意識は有限なのに、むやみに情報を取り入れてしまうと、意識はそれらの情報と結合してしまう。これが「固定観念」というものである。
情報はスポンジのように意識を吸い尽くす「毒」でもある。
毒となる情報に意識が囚われると、頭がカチコチに固まってしまうのだ。
賢い人というのは頭が柔らかい人であり、それは意識が自由な状態の人を指す。情報に意識が絡め取られておらず、ニュートラルな状態にあるとも言える。だからこそ自由に意識を漂わせ、前提を疑い、問いを改めることができるのだ。
新聞は「化学調味料満載の不健康な食材」のようなもの

こうした理由で私は、22歳の頃から新聞を読んでいない。もちろん必要な情報があればしかるべき人に聞き、新聞のデータベース検索も使って情報を取りに行く。最先端の情報も入手する。
だが、今の記事はそもそもピントが合っていないと思われるし、事実かどうかすらわからない。新聞とは毎日軽トラックで化学調味料満載の不健康な食材を運んでいるようなものであり、思考活動の妨げになると考えている。
もし情報の洪水から逃れたいのなら、一定期間、情報を遮断することだろう。これを「情報デトックス」と言う。日本語の通じない海外に行くのも良いし、ネット回線がつながらない山奥の湯治場に身を置くのも良い。情報流入量を常に意識して、「思考量>情報量」という状態を維持することが大切である。
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山口 揚平(やまぐち・ようへい)
事業家・思想家
早稲田大学政治経済学部卒。東京大学大学院修士(社会情報学修士)。専門は、貨幣論、情報化社会論。1990年代より大手外資系コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わったあと30歳で独立・起業。劇団経営、海外ビジネス研修プログラミング事業をはじめとする複数の事業、会社を経営するかたわら、執筆・講演活動を行っている。
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(事業家・思想家 山口 揚平 写真=iStock.com)
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