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ニュージーランド銃乱射事件の惨劇が浮き彫りにした白人至上主義の台頭

「惨劇の原因は寛容な移民政策にある」

AP

[ロンドン発]ニュージーランド南部クライストチャーチで15日、モスク(イスラム教の礼拝所)が半自動小銃を持った男に襲撃され、50人が射殺された。隣国オーストラリアでは極右フレイザー・アニング上院議員(69)が、自分に生卵を投げつけた17歳の少年を殴り返す事件が起きた。

発端はアニング議員のツイートだ。「まだイスラム系移民と暴力の間の関係の議論に明け暮れている奴はいるのか」

「左派はこれ(イスラムを侮辱する者の首を切り落とせと書かれたプラカードを持つイスラム過激派の写真)を放置するつもりか」

これとは別にアニング議員はこうも述べている。

「いつものことだが、左派の政治家やメディアは(クライストチャーチで起きた)今日の銃撃を銃規制やナショナリストの信条を持つ者に責任を押し付けようとするだろうが、全くもって陳腐なナンセンスだ」

「今日ニュージーランドの通りで起きた惨劇の本当の原因はまずもって、イスラム教徒の狂信者がニュージーランドに移住することを許した移民政策にある」

「上院議員の発言は胸が悪くなる」

オーストラリアのスコット・モリソン首相は即座に、ツイッターでアニング議員を非難した。

「ニュージーランドで起きた暴力的な極右の過激派テロに関するアニング議員の発言は胸が悪くなる。こうした見解はオーストラリア議会だけでなくオーストラリアでも受け入れられない」

オーストラリアは英連邦に加盟しているため、パキスタン系英国人のサジッド・ジャビド英内相は「悲しみと追悼を捧げる時に上院議員(アニング氏)の発言は暴力と過激主義を煽っている」と批判した。

16日、オーストラリア南東部メルボルンでのイベントに参加していたアニング議員の後ろからスマートフォンで撮影していた17歳の少年が突然、卵を同議員の頭に叩きつけた。

怒ったアニング議員は少年を殴り倒し、周りにいた支持者が少年を床に押さえつけた。

繰り上げ当選したアニング氏 背景に「二重国籍問題」

そもそも問題が多いアニング氏がどうして上院議員に選ばれたのか。2017年に発覚した上下両院議員の二重国籍問題が原因だ。

オーストラリア憲法では「外国への忠誠、服従、加担が認められる者、外国の臣民、市民である者、外国の臣民、市民としての権利、特権を有する者」は「上院、下院議員として選出され、または議会に出席することができない」と規定されている。

この規定に引っ掛かる議員の辞任や資格無効が相次いだため、アニング議員が繰り上げ当選した。昨年8月の初演説でアニング議員は、イスラム系移民を排除するため、かつて白人以外の移民を排斥した「白豪主義」の再導入を提案し、厳しく非難された。

ナチスによるホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を意味する「最終的解決」という言葉も使ったため、オーストラリア社会を震撼させた。

英国では英国籍、英連邦の国籍、アイルランド国籍を持つ18歳以上であれば基本的に総選挙に立候補できる。英国の基準から見れば、オーストラリアの二重国籍条項は非常に厳しく感じられる。

戦後4倍に人口が増加したオーストラリアが移民抑制に舵を切った

かつて白豪主義をとったオーストラリアは人口問題に対処するため1970年代から移民受け入れに舵を切り、現在では人口の28%が海外生まれ、親のどちらかが海外生まれの移民2世は46%にのぼる。第二次大戦中600万人だった人口は約2500万人まで増えた。

しかし移民を抑制するため2017 年 4 月、マルコム・ターンブル前首相は一時滞在就労ビザを廃止し、厳格化した就労ビザの導入を発表した。この結果、就労ビザから永住権を取得する道は格段に狭められた。

難民支援団体「オーストラリア難民会議」によると、難民に対するオーストラリアの対応は厳しく、この5年間に5万1637人が海を渡ってオーストラリアに到着する一方で、862人が海の藻屑(もくず)と消えた。

オーストラリア政府は業者に委託し、難民や移民を乗せたボートが領海内に入る前に拿捕(だほ)して、南太平洋の島国ナウルやパプアニューギニアの収容所に送り込んでいる。絶望した子供や若者が精神に異常を来すケースも多く、国際社会の強い批判を浴びている。

アニング発言の背景にはオーストラリア憲法の二重国籍条項や同国の移民・難民政策も影を落としていると言えるだろう。

フェイスブックで銃撃を生中継

AP

ニュージーランドの極右テロリスト、ブレントン・タラント被告(28)はオーストラリア人で、フェイスブックのアカウントを使ってモスクの中で男性や女性、子供を無差別に銃撃する様子を現場から生中継していた。

犯行中、1995年にボスニアのスレブレニツァでイスラム系住民の民族浄化を指揮したラドヴァン・カラジッチ被告を英雄視する歌を聞き、イスラムの侵入を食い止めた歴史上の人物カール・マルテルの名を半自動小銃に記していた。

インターネット上にはタラント被告が白人至上主義を唱える74ページの声明が残され、2011年、ノルウェーで77人を殺害した極右テロリストのアンネシュ・ブレイビク服役囚と短い接点があったという。

米団体「反中傷連盟(ADL)」の調査では、昨年、過激派により50人が殺害された。15年は70人、16年は72人、17年は37人。

昨年の事例はすべて極右とのつながりを持っており、イスラム過激派に関係していたのはごく最近転向したばかりの1人だけだった。

白人至上主義の秘密結社「クー・クラックス・クラン(KKK)」 の歴史を持つ米国では今や白人至上主義こそがテロの源流なのだ。

KKKに潜入するアフリカ系とユダヤ系警官を描いたスパイク・リー監督の「ブラック・クランズマン」は白人至上主義の恐ろしさを見事に描き、今年のアカデミー賞(第91回)で脚色賞に輝いた。

白人至上主義を助長しているドナルド・トランプ米大統領に対し、リー監督は次の大統領選に向け、反トランプ・リベラル勢力の結集を呼びかけている。

対テロ戦争に長年、反対してきた英イスラム系民間団体「ケイジ(CAGE)」は「今回のモスク襲撃は対テロ戦争のレトリックがもたらした不可避の結果だ」と指摘している。

CAGEのモアザム・ベッグ広報責任者はこう語る。「『反イスラム』感情は極右だけに留まらず、議会や記者室、大学にも息づいている。イスラムを疎外し、反移民感情に火をつけるネオコンの脚本によって暴力が生み出されている」

日本でも深刻な人手不足を解消するため今年4月から、外国人労働者受け入れを拡大する新制度がスタートする。反イスラム、白人至上主義という対立軸こそないものの、反中・反韓感情が強まる日本にも排外主義という暗雲が垂れこめているのは言うまでもない。

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