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難関中が入試で"貧困問題"をよく出すワケ

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筑駒、雙葉、聖光学院、学習院中等科、東洋英和女学院……。こうした名門私立中学の入試問題で、貧困や格差をテーマにした出題が増えている。中学受験指導塾代表の矢野耕平氏は、「受験生の家庭は高所得であることが多いため、学校側は社会問題を考えられる子の視野の広さをみているのだろう」という――。

中学入試の国語・社会で「格差問題」が頻出している

※写真はイメージです(写真=iStock.com/AlexLMX)

中学受験の世界で「時事問題」という表現がよく用いられる。そのときの時勢で話題になっているニュースを題材とした入試問題のことだ。2019年度の中学入試の時事問題でよく見られたのは「貧困問題」や「格差問題」である。

たとえば田園調布学園中学校と法政大学第二中学校の「社会」では、以下のような問題が出た。

《田園調布学園中学校(2019年度・第1回)社会入試問題より抜粋(一部改題)》 (問)次の条文は日本国憲法の一部です。次の□□□□に入る語句を漢字四字で答えなさい。
第25条 すべて国民は、健康で文化的な□□□□の生活を営む権利を有する。
(正解)最低限度
《法政大学第二中学校(2019年度・第1回)社会入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)説明文中に「どんな人でも尊重されて幸せに生きられる」とありますが、経済的に生活が困窮した人が、国や地方自治体から日常生活に必要な金銭などを受け取ることができる制度は何か、漢字で答えなさい。

(正解)公的扶助(生活保護)

聖光学院、雙葉、筑波大付属駒場といった難関校でも

小学生の受験生に対して、憲法の生存権や、現代のセーフティーネットに関する重要語句を知っているかどうかを確かめているのだ。このほか聖光学院、雙葉、筑波大付属駒場といった難関校でも社会で次のような問題が出された。

《聖光学院中学校(2019年度・第1回)社会入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)戦争や自然災害、貧困などのために住む家がなく、路上で物売りや物乞いなどをしながら生活している子どもたちがいます。こうした子どもたちのことを「○○○○○チルドレン」といいます。○○○○○にあてはまる語を、カタカナ5字で答えなさい。

(正解)ストリート(チルドレン)
《雙葉中学校(2019年度)社会入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)世界には、重い労働をさせられている子どもや、紛争に巻き込まれて兵士になる子どもなど、厳しい状況に置かれている子どもが多くいます。世界のすべての子どもたちを守るために、国際連合の総会で1989年に採択された条約は何ですか。

(正解)子どもの権利条約
《筑波大学駒場中学校(2019年度)社会入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)難民に関連してのべた文として正しいものを、次の中から二つ選び答えなさい。

ア 難民を保護するために、国際連合の加盟国は、助けを求めて自国に来るすべての人びとを受け入れる義務がある。
イ イスラエルとパキスタンとの間では領土の主張などをめぐって争いが続き、多くの難民が発生した。
ウ 近年、「ロヒンギャ」とよばれる人びとがミャンマーで迫害を受けて国外に逃れたことで多くの難民が発生した。
エ 近年、シリアから逃れた人びとの多くは、政府が難民を積極的に受け入れているブラジルに渡っている。
オ 「国境なき医師団」などのNGO(非政府組織)は、感染症の予防、安全な水の確保などをして難民を助けている。

(正解)ウ、オ

「国語」でも「貧困」「格差」問題が頻出した

そして、この傾向は社会だけではない。国語でも同じだ。学習院中等科では、格差社会を論じた書籍(鬼丸昌也『平和をつくるを仕事にする』ちくまプリマー新書)を題材にした読解問題が出た。

《学習院中等科(2019年度・第1回)国語入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)文中の「平和をつくる仕事」として当てはまらないものを次からすべて選び、記号で答えなさい。

ア どんな物が使われているかを調べ、買うものを決めること。
イ 貧しい国から資源を買ってあげ、商品を作っていくこと。
ウ 自分にとって本当の幸せな生活とは何なのか考えること。
エ 自分のところにある多様なエネルギー資源を利用すること。
オ 大量の商品やサービスを創り出し、他の国に売り出すこと。

(正解)イ、オ

東洋英和女学院では河川敷のホームレスと少年の交流を描いた小説(ドリアン助川『多摩川物語』ポプラ文庫収録の「台風のあとで」)から出題があった。なお、この本は昨年度の市川中学校でも取り上げられている。

ドリアン助川『多摩川物語』ポプラ文庫

《東洋英和女学院中学部(2019年度・A日程)国語入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)文中「バンさんは雅之くんにすぐ気づいた。手招きをして、『おーい』と声をかけてきた。そしてまわりのホームレスの人たちに『友達だ』と紹介し、歯を見せて笑った」とありますが、ここからバンさんはどのような人柄だとわかりますか。あてはまるものを次のア~カの中から2つ選び記号で答えなさい。

ア 口べたで誠実な人柄。 イ 不まじめでだらしない人柄。 ウ 器用でねばり強い人柄。
エ 率直でおおらかな人柄。 オ 強引で勝手な事柄。 カ わけへだてのない気さくな人柄。

(正解)エ、カ

高輪では是枝裕和『万引き家族』(宝島社)から読解問題が出た。

是枝裕和『万引き家族』(宝島社)

《高輪中学校(2019年度・A日程)国語入試問題より抜粋(一部改題)》
(問)文中「泣きたくても泣けない」・「見えすいた嘘をついてきた」とありますが、これらのことから、実の家族の中でりんが置かれていた様子を、30字以内で答えなさい。

(正解例)母親に折檻されることを恐れ、本心を打ち明けられない様子。

上記は一例にすぎない。ここ数年、中学入試の国語・社会では「貧困問題」「格差問題」が出題のトレンドとなっている感がある。いったいどうしてだろうか。

私立中学が裕福な家庭に子どもたちに問いかけるもの

わたしは約25年、中学受験を志す小学生たちの指導をおこなっている。受験指導を通じて、子どもたちの熟達を実感できるやりがいのある仕事であると誇りに思っている。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/RichLegg)

一方で、ある種の後ろめたさを抱くこともある。中学受験生の家庭の多くは「富裕層」や「高収入層」であり、わたしが受験指導をおこない名門の私立中高一貫校に送り込むことで、結果的に格差や階層の再生産に手を貸しているような気持ちになることもあるからだ。おそらく私立中高一貫校の教員も同じように感じているだろう。だから、中学入試問題で先述したような貧困や格差をテーマとした出題をするのではないか。

「富裕層」「高収入層」に家庭に生まれ育った中学受験生たちには、社会の中でいろいろな立場に置かれている人間たち、社会の底で苦しんでいる人たちに目配りできる「視野の広さ」を持っていてほしいという願いがそこにあるにちがいない。

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