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年金を理解するうえで知っておきたい会計知識 ~ちょっとややこしい退職給付会計の話~

年金の問題は数年前から火がついて、マスコミでもずいぶん報じられています。
最近ではAIJ投資顧問によって企業年金に関しても盛んに報じられました。

が、実際の年金がどのように計算されて、企業にどのような影響を与えているのか、知らない人もいるかと思います。
そこら辺に関する基礎知識を書いてみようと思います(初心者向けなので、詳しい人は下の参考ページをお勧めします)。

企業年金の計算は「退職給付会計」と呼ばれる会計ルールにのっとって計算されています。
はっきり言って結構ややこしいです。
まずは年金資産と年金債務(正確には退職給付債務)、そしてその差額である退職給付引当金の説明をします。

年金資産は、企業が社員のために積み立てたお金です。あくまで年金や退職金のためのお金=社員のお金なので、企業は手はつけられません。給料の後払いとしての性質もあるためです。したがって、企業のバランスシートからも除外されています。
一方、年金債務は、将来の年金・退職金の支払いがどれくらいあるか、会計ルールにのっとって計算したものです。債務、と聞くと借金を思い浮かべるかもしれませんが、将来必ず支払わないといけないお金と考えれば借金も年金も同じような性質を持っています。

年金資産と年金債務は、同じだけの金額であれば、少なくともその時点では問題が無い事は分かるでしょう。
しかし、実際には多くの企業が年金資産の積立不足に陥っています。この積立不足の部分が退職給付引当金という名目で、企業のバランスシートに負債として計上されています(資産・債務とも毎年変動します。詳しくは下記の参考ページで )。

積立不足の理由としては、運用の不振と予定利率の高さです。
年金資産は株や債券などで運用されていますが、運用に失敗すると企業自身が損失の穴埋めをしないといけません。損失を出した場合は勿論、予定利率に届かなかった場合も同じです。
予定利率とは、これくらいの利率で運用できるだろうと想定&約束した利回りです。これが3%ならば、毎年3%で運用できなければ、足りない分を穴埋めする必要があります。

実際には国債利回りの低下や株価の低迷で、運用はボロボロです。ここで問題になるのが、年金資産の大きさです。歴史のある大きな企業では、年金資産が数百億円とか数千億円もある企業も珍しくありません。1000億円の運用資産で、1割の損を出せばマイナス100億円です。これを企業が穴埋めすればトンデモ無い事になる事はすぐに分かるでしょう。
規模の大小だけではなく、企業収益に対する割合で考えれば、年間の利益が1000万円の企業に1000万円の損が発生すれば、これも当然トンデモないことになります。
実際には穴埋めを何年かに分けて行いますが、その負担は企業収益を大きく圧迫します。


じゃあ利回りを下げればいいじゃないか、と思われるかも知れませんが、ココがくせものです。
ざっと調べてみたところ、企業年金の予定利率は3%程度が多いようです。
このケースで、年金資産の6割を国債、4割を株などのリスク資産で運用すると仮定した場合、国債の利回りは1%程度ですから、リスク資産は6%の利回りで運用しなければ予定利率を達成できません。
これは昨今の株式市場の状況を考えればかなりキツイ目標です(今年は年初から急激に上がりましたが、何十年も6%を続けるのは相当難しいです)。


ではこれを現実的な2%とか1.5%に下げるとどうなるでしょう。
この場合、将来約束した額の年金を払うには企業が毎年負担する費用(拠出金)を増やさないといけなくなります。あるいは年金を減らす、といった方法もあるでしょう。どちらにせよ、現状とは違う事をやるわけですから、簡単には実行できません(特に年金の減額は滅多な事では出来ない)。
そこでAIJのようなありえない高利回りを約束する会社に多くの企業年金が騙されてしまったわけです。


つまり、問題を覆い隠すために無理な高い利回りを追求しないといけないのが企業年金の現状だといえます。
企業年金を解散をするにも過去の損失を清算しないといけません。これは代行部分と呼ばれる部分で、本来国が運営する厚生年金の運用を企業が肩代わりしていたものの、損を出して減らしてしまった場合です。
過去の損を穴埋めできるだけのお金を企業が持っていなければ、解散する事も出来ずズルズルと運用を続ける事になります。結果として更に損を増やしてしまい、倒産にいたる、という年金倒産の企業も実際にあります。ここら辺は最近のニュースでもかなり報じられたので、ご存知の方も多いでしょう。


結局どうすれば良いか、という事になるのですが、個人レベルでできる事は将来の企業年金を当てにしすぎない、といった程度の話になってしまいます。
国レベルでは企業に過剰な責任を負わせる事は辞めて、確定給付年金に移行出来るように特例措置などをとった方が良いのかもしれません。年金のために企業が潰れるような事が果たして正しいのかよく考えるべきでしょう。
今の制度設計は人口増、経済成長を前提としている以上、無理が生じるのは当然といえば当然かと思います。


で、この退職給付会計を国が運営する国民年金と厚生年金に適用すると、現在すでにある1000兆円近い借金と同じ位の負債が発生するとも言われています。年金で借金が倍になってしまうわけです。
年金で破綻はすでに企業だけの問題では無くなっている、というのが現実です。


参考ページ
シェアーズカフェのブログ  老後の安心を得るには ~年金と保険の話~ 
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/3505326.html

シェアーズカフェのブログ  今話題の企業年金サギについてポイントを説明 http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/3476599.html


あずさ監査法人・退職給付会計の基礎講座
http://www.azsa.or.jp/b_info/ps/kouza/taishoku.html

IICパートナーズ 退職給付会計の仕分け
http://www.iicp.co.jp/library/learn/article/000614.shtml

鈴木亘教授 年金積立金は、本当はいくら残っているのか?
http://blogs.yahoo.co.jp/kqsmr859/36208916.html

朝日新聞グローブ JAL再建をめぐる 企業年金Q&A
http://globe.asahi.com/feature/091123/side2/01.html

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