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ピエール瀧薬物依存報道を伝えるメディアはインターネット依存症

ピエール瀧のコカイン使用による逮捕については、その報道のあり方に異論を唱えるという、ちょっと変わった状況が生まれている。これは好ましい事態,だ。

瀧が逮捕されたとしても、瀧が出演していた過去の番組の放送中止や瀧が所属する電気グルーヴCDの出荷や音楽配信の停止はやり過ぎではないのか?薬物は病気なのであって、これは罰するというより治療という文脈で捉えるのが妥当であり、犯罪者としてつるし上げにするのはいかがなものか?有名人の薬物に関する報道は、むしろこうした薬物に苦しんでいる人々を奈落の底に突き落とす行為ではないのか?(「薬物報道」は、麻薬に冒された人間がさらに手を染める引き金になるという)。視聴率稼ぎのためにパパラッチもどきの報道を行っているメディアは、いわゆるイジメの構造と同じではないのか?などなど。

こうした指摘は、ある意味的を射ているといえるだろう。とりわけ違法薬物使用者に対するメディアの対応には酷いものがあると言わざるを得ない。だが、今回の問題、実はもっと根が深い構造的な問題ではないか。つまり、これは「ネット依存症によるメディアの堕落」なのだ。

メディアによるネット依存の構造

近年、メディアが報道する「お手軽な手口」はだいたいこんな感じになる。

インターネット上で何か話題が起きている。とりわけ有名人が炎上する。しかしインターネット上で炎上が起きているうちはまだいい。「炎上」だから、いずれ炎は燃え尽きる。いわば「家が一軒燃える程度」で。ところが、これをメディアが視聴率、購買率稼ぎのために取り上げた瞬間、「一軒家程度の火事」は「大火事」へと転じてしまう。一般に言われるメディアは、正しくはマスメディア。マス=巨大なオーディエンスを相手にしているので、結果としてはネット上のバイラルどころの話ではないくらい全国規模で拡散してしまうのだ。

ところが、こうした大炎上は必ずしも民意を反映したものではない。慶応大学の教員である田中辰雄と山口真一は『ネット炎上の研究』(勁草書房)の中で、攻撃的な書き込みをする炎上参加者はネットユーザー全体の0.5%に過ぎないことを統計的な視点から明らかにしている。だから鵜呑みにするのは厳禁なのだ。

ただし、こうした炎上ネタは興味本位、出歯亀的視点からは極めてキャッチーだ。つまりメディアとしては容易に数字を取ることが可能と考える。そこで、きちんと現状を精査することもなくこれらを取り上げ、それが結果として大炎上に繋がってしまうのだ。その際、よりキャッチーなネタが好まれるわけで、それは有名人のネタということになる(例えば、これを書いている僕が麻薬所持で逮捕されようが、メディアは見向きもしないか、せいぜいものすごい小さい記事で掲載する程度だろう)。

で、ピエール瀧は好感度も高く、今最も旬な芸能人。ところがコカインで逮捕。この落差は大きい、そしてキャッチーだ。当然、お手軽に数字を稼げる。となると麻薬に関するクリーシェ=常套パターンを引っ張り出して袋だたきにする。注射器、白い粉、街頭インタビューでの「信じられない」「がっかりしました」「裏切られた」的なコメント。こうやって一儲けのネタ出来上がりというわけだ。これは、いうまでもなくフェイクニュースの類いとなる。正確には事実を適当に組み合わせ、クリーシェに沿って内容を盛って大騒ぎにしてしまうという手順が「事実を事実でないものとしてでっち上げる」ことになるのだ。

マスメディアは信用を失い、飽きられはじめた

だが、今回、当のインターネット上から多数の異論が提出されるに至った。なんとピエール瀧に対する同情論とか、前述したような薬物中毒患者の扱いに関する報道のあり方への疑問、メディアに対する種々の批判等が投げかけられるようになったのだ。

これは、メディアがそろそろ、こうしたネット依存状況を真剣に捉えなければいけないことを突きつけられる時期がやってきたと理解してもよいのではないか。実際、メディアへの信頼はどんどん失われている。80年代、文系の大学生たちが憧れたのはメディアだった。しかし現在、メディアへの関心を強く持っている学生はかつてほど多くはない。こうしたパパラッチ的なやり方に、ちょっとウンザリしているみたいなのだ。強気を助け、弱気を挫く。都合の悪いものには直ぐに蓋をする(今回のピエール瀧の件はその典型。瀧の利益に関するものを全てカットしてしまうのは自己保身以外の何物でもないだろう)。そして、こうしたメディア嫌悪の認識、徐々に高まってきているように僕には思える。

メディア=マスメディアは、そろそろこうしたネット依存をやめるべきだろう。いや、ネット情報を取り上げること自体は問題ない。ただし、その際には厳密に裏を取るという作業をするべきだ。そして、自分たちにとって都合のよい情報だけでなく、都合の悪い情報も受け入れるだけの度量を備えるべきだ。いいかえれば、メディアはインターネット情報に対してナイーブすぎる。ネットへのメディアリテラシーをもっと高めなければならない。

だが、悲しいことに、こうした「メディア、酷いんじゃね?」的なネット上の議論をメディアは取り上げようとはしない。ピエール瀧がコカイン依存症であるように、メディアは「インターネット依存症」だからだ。だから、無意識のうちにこれら情報をスキップしてしまっている。「人を騙すには、先ず味方から」という諺があるが、現在のメディアは「人を騙すには、先ず自分から」という状態なのだ(おそらくこの文章もメディアは完全に無視するはずだ。可哀想な話だが)。つまり、完全に中毒=依存症。

メディアも依存症治療のための専門家が必要?

もし、メディアがこうした活動を続ければ、その信頼はますます失墜するだろう。だが依存症患者ゆえ、自らでは治療不可能。それゆえ失地回復、すなわち数字を稼ぐために、ますますパパラッチ的な報道に身を染めていくことになるのではないか。で、最後に待っているのは「死」だけだ。だから、早急な治療が必要だ。そんな時期に来ているのではないか?

その手段、ひょっとしたらSNSのようなメディアが持っているかもしれない。「毒をもって毒を制す」といった具合に。

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