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ドタキャンで損をするのは消費者 店と客は互いにリスペクトを

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日本には食育が足りない

BLOGOS編集部

—ノーショーの問題もそうですが、こうした事例が増えているのはなぜだと考えていますか?

これは二つの理由があるのではないかと思います。一つは、SNSなどで誰もが発信できるようになって、これまでにも存在したものの、見えていなかった問題が可視化されたこと。

もう一つは、現在の日本では「食育」が足りないのかな、ということも感じています。ひと昔の日本では、箸の上げ下げから米粒一つまで残さない食べ方まで、親や家族からうるさく言われて育ってきましたよね。

ただ時代が変わり、食べ物に対する見方が変わったことで色々なことが起こってしまう。生産者や作り手の存在、一皿の料理に対する苦労が見えず、お店に行けばすぐに料理が食べられる環境では「余ったら捨てればいいか」という発想になってしまいますよね。

—そういう面で食育が求められているんですね。

やはり昔と比べると「食と接する面積」が小さくなっていると思うんです。例えば、家でご飯を食べる時でも、準備するお母さんを見て「何か作っているな」とか「1時間くらい支度にかかったな」とわかると、その料理との接し方も変わりますよね。

小さい子の食育では、ニンジンを自分で切ってみましょうと教えると、ニンジンを食べるようになります。苦労がわからないと簡単に捨ててしまいますが、食育に力を入れることで、そうしたことが変わっていくのではと思います。

—戦争を経験した世代や、そうした環境で育てられた世代の親は「食事を残すな」と口を酸っぱくして言っていました。

すごく表現が難しい問題ですが、今は良くも悪くも多様化が求められている時代なのかなと思います。昔は「残さず食べなさい!」「嫌いでも、アレルギーでも食べなさい!」ということさえありました。今考えれば、ちょっと行きすぎではないかという問題ですけど。

悪い意味ではありませんが、例えば以前は菜食主義者のような立場の方はあまりいませんでしたよね。でも今は「残してもいいだろう」というように、多様性が悪い方向に行ってしまった例も表れているんじゃないかなと。

料理の価値を一皿だけで決めつけるな

写真AC

—スマートフォンが登場してからの変化はどのように見ていますか?

良くも悪くも「食」が軽くなってきているのではないかと思います。1990年代からグルメが大衆化しているという話をしましたが、そこからさらに軽くなってきている。今はネクタイをしないと入れないようなレストランはほとんどありません。昔はブラックタイのドレスコードがあった一流店でも、気軽に行って出された料理の写真をスマートフォンで撮って、という存在になっています。

多くの人に知られ、気軽に利用できるのは良いことだと思いますが、リスペクトもしてほしいなと。

—「新規開店して3年後には半分が閉店する」といった話もありますが、今まで挙がったような問題もあり、飲食業界で働くことは大変なのではないかと思います。

飲食業界に携わっている人は、大変だけどこの仕事がやりたい、人に喜んでもらうことが嬉しい、という人が多いですね。「美味しかったよ」と、反応が返ってくることが嬉しいんだと。だからこそ、ノーショーやドタキャンの問題を少しでも多くの人に伝えたいです。

—日本は飲食店のレベルが高いと言われますが、その一方で食事の価格が安すぎるという指摘もあります。

日本にある飲食店の数は世界のなかでも群を抜いて多く、日本全国で60~80万店とも言われ、東京だけでも10万店をゆうに超える数の店がありますよね。星付きレストランも多く、食のレベルはとても上がっています。

価格は、やはりお客さんの側のリスペクトの問題なのかなと。日本ではランチがワンコインで食べられますが、それが急に1000円になったら確実に文句が出ますよね。でも、本当はその値段で出す料理かもしれない。これはお客さんが料理の価値を一皿でしか見ていないことの弊害なのではないかと思います。

—「一皿でしか見ていない」とは。

レストランに行ったお客さんはネットに写真をアップして、口コミサイトにレビューを書きますよね。その時「コスパが高い、低い」と簡単に書いてしまいますが、実はそうした評価はプロでも難しい。自分が感じた美味しかった、美味しくなかったかの感想で、コスパについて判断しますが、使っているグラスや食器は見たのか、スタッフは何人いたか、坪数に対して席はいくつあったのか、見るべきことは多くあります。

—料理だけではなく、お店全体のコストを見たほうがいいんですね。 

その通りです。そうすれば、この料理で1万8000円って高いな、という考えも変わるかもしれません。

BLOGOS編集部

—今の時代、お店側が客からのクレームに気を使うことも多いのではないでしょうか?

お店に来たお客さんがシェフを呼んで、「このポワレ焼き目が甘いよ」といった、料理に対するクレームを言う人はほぼいないんです。でもサービススタッフがすぐに席に来なかった、というような、サービスについてのクレームはすぐに集まるという興味深い現象が起きています。ですので、お店の人も、お客さんへの言い方ひとつにすごく苦労しています。

—東龍さんが考える「良いレストラン」とはどのようなお店でしょうか。

良いレストランは「自分の食の体験を高められる場所」だと思います。良いサービスを受けた、綺麗な料理があった、知らない料理に出会えた…自分が何かに気づく体験があれば、良いお店なのではないかなと。それはファインダイニング(高級店)に限らずどんなお店でも同じで、思わぬお店で人生が変わることもあるかもしれませんよね。

—最後に、これからさらに発信していきたいことを教えてください。

お店の側は直接お客さんに言えない、お客さんもそれに気づいていない、という問題を積極的に発信していきたいです。僕は情報発信という意味ではメディア側の人間ですが、人に使われることも自分で食べることもあり、色々な立場を経験してきています。

そのため、皆さんが言えないようなことを発信し、問題提起していければなと。一度書いて解決までつながればいいですけど、現実はそんなにすぐ変わることはないと思うので、同じ問題でも何度もしつこく訴え続けていきたいですね。お店をリスペクトした行動をして、信頼関係を築いていけば、いつか自分に返ってくるよと。

東龍プロフィール

BLOGOS編集部

1976年生まれ。グルメジャーナリスト・一般社団法人 日本ブッフェ協会 代表理事。ブッフェ、フレンチ、鉄板焼、ホテルグルメ、スイーツをこよなく愛する。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。テレビや雑誌で活躍し、講演、プロデュースも多数。

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