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自治体が「公務員らしくない人」を求める理由。- 後藤和也(大学教員/キャリアコンサルタント)

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■公務員試験改革に戦略性はあるのか?

冒頭のポスターや筆記試験廃止などの公務員試験改革は「従来公務員試験を受験しない層を取り込む」ねらいがある。シンプルな発想だが、一方で高度な戦略性が求められる。

公務員の仕事は、その殆どが法令や規則に基づいた業務遂行が求められる。難解な筆記試験には批判が多いのは事実としても、それを突破する過程に「コツコツ目標に向かって精緻な業務遂行ができる人材」のスクリーニング機能があったとは言えまいか。

もちろんSPIなどの適性試験でもそうした業務適性などの能力を測ることはできるが、従来の筆記試験合格者とSPI高得点者とでは諸々の志向や潜在能力が大きく異なる可能性がある。果たしてこの点について十分な検討は行われたのだろうか。

これは「新しい酒を古い酒袋に入れる」議論だ。今までと全く違うタイプの若手が増大する可能性があることをリアルに想像したのだろうか。官僚組織にバイタリティ溢れる若者を投入しても、いずれ組織に染まってしまうだけにならないのか。さらに言えば、彼らをうまく使いこなせる人材が組織内にどれだけ存在するのだろうか。

公務員の職場から、法律・規則に従って着実に処理すべき業務がなくなったわけではない。むしろ、スポットライトを浴びるような華やかな仕事はごく一部であり、ほとんどが日の当たらない、地味だが失敗の許されないような仕事だと言えるかもしれない。

そうした職場で活躍する人材と、民間企業で活躍する人材の間に本当に違いはないのか。言い換えれば、単純に民間企業で活躍するタイプの人材を採用すれば職場は変わるのか。

そもそもこうした採用改革は目の前の経営課題に対してどのような人材をもって解決にあたるのかといった話が出発点となり、当該人材確保のためにどのような手段が最適なのか、という議論のはずだ。「まず入り口から変えてしまえ」という発想は雑ではないか。

■「職場を変える」のは現職者の仕事であり、丸投げは許されない。

また、冒頭記事の自治体では「終身雇用熱望型」や「思考停止型」の職員は皆無なのだろうか。

もちろん企業が求める人材像は、多くの場合当該企業に欠けている人材が設定されがちだ。そもそも公務員らしくない人が多い職場であれば、ことさらにそうした人材像を掲げる必要はないはずだ。離職率などは外部から知りようがないが、安心・安定を求める現職者が多いからこそ冒頭のようなキャッチコピーが生まれているとも解釈できよう。

しかし、本来職場の風土改善や職員の意識改革のような大きな仕事は、現にその職場にいる人たちが担うべき仕事ではないのか。その議論をすっ飛ばしてハードルの高い人材像を若者に求めるのは、職場環境改善の若者への丸投げではなかろうか。

将来を担う若者にのみ高いハードルを課すのだとすれば、それは必ずブーメランとなって上司や管理職に返ってくる。むしろ、「安心・安定」を求めて就職してきた若者がいつの間にか、公務員らしからぬバイタリティ溢れる仕事師になるような職場を目指して欲しい。相手に変わることを求めるならば、まず自分から変わるべきだ。

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後藤和也 大学教員 キャリアコンサルタント

【プロフィール】
人事部門で勤務する傍ら、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントを取得。現在は実務経験を活かして大学で教鞭を握る。専門はキャリア教育、人材マネジメント、人事労務政策。「働くこと」に関する論説多数。

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