【無罪や不起訴の事例も】
シンポには海外から2人の医師が招かれ、講演した。
イギリスの神経病理学者のウェイニー・スクワイア医師は、もともとSBS理論を認めていたが、その後、見解を変えた。「SBSに特異な特徴は、事故による落下などさまざまな自然原因によっても広く見られる」と指摘し、「『3徴候があれば揺さぶられたと推定できる』という主張にはエビデンス(根拠)がない」と強調した。
スウェーデンの法医学者のアンダース・エリクソン医師は、同国の最高裁が14年、SBS理論を認めずに無罪判決を出したことを紹介。自分たちの研究結果として「3徴候が揺さぶりと関連することを示す科学的なエビデンスは限定的」と説明した。
日本でもSBS理論に懐疑的な弁護士や法学者が17年秋に「SBS検証プロジェクト」を結成し、医師も交えた科学的な問題点の研究や冤罪被害者の支援に取り組んでいる。ここ1年間に大阪地裁で少なくとも3件の無罪判決が出され、不起訴になるケースも続く。しかし、市民が逮捕・起訴されれば痛手は大きく、否認しても有罪にされるケースも依然残る。
シンポで、同プロジェクト共同代表の秋田真志弁護士は「警察は『医学的な根拠があり結論は出ている』と言って自白を強要する」「医師の鑑定書に『犯人はこの人』『真実を語るべき』旨の記載がされていたことがある」と警察や鑑定医の対応を批判した。
関西医科大学の埜中正博・診療教授(小児脳神経外科)は「虐待でなくても3徴候がそろうことはあり、虐待かどうか100%の区別は無理」と述べ、鑑定書作成のガイドラインの必要性に触れた。
密室の事故で目撃証言はなく、警察や検察は医師の鑑定書をもとに逮捕・起訴し、裁判官もその信用性を認める傾向にある。児童相談所も同様で、保護者の側に重い措置を取ることが多い。
同プロジェクト共同代表の笹倉香奈・甲南大学教授(刑事法)は、シンポでこうあいさつした。
「児童虐待は許されないが、冤罪も許されない。現に多くの家族が引き裂かれ、涙を流している。客観的、科学的な議論を進めたい」
(小石勝朗・ジャーナリスト、2019年3月1日号)