「乳幼児揺さぶられ症候群」(Shaken Baby Syndrome=SBS)という言葉は、多くの方が耳にしたことがあるだろう。頭にけがをした乳幼児に一定の症状があれば、激しく揺さぶられたこと=虐待が原因とみて良いとする理論で、両親らが刑事責任を問われたり親子が引き離されたりするケースも多い。だが、弁護士や法学者らの間でこの理論の科学的な根拠を疑問視し、見直しを求める動きが活発になっている。
生後7カ月の男児がつかまり立ちをしていて後ろに倒れ、頭にけがをした。児童相談所は「事故の可能性が高いが虐待の可能性もゼロではない」との医師の鑑定が出たとして男児を一時保護し、両親の面会を週1時間に制限した。
事故から1年以上経って、SBSを理由として母親が傷害容疑で警察に逮捕される。2日後に釈放され不起訴になったが、「やっていないのに息子をとられ、しんどい思いをした」と振り返る。
別の生後8カ月の男児も、つかまり立ちをしていて転倒し重いけがをした。男児は約1カ月後に児童相談所に一時保護され、1年近く経って虐待によるSBSが疑われて両親が警察に逮捕される。20日間勾留された後で不起訴になったが、母親は「取調べで『医学鑑定が証拠』『親として失格』と言われた」と憤る。
日本弁護士連合会(日弁連)と龍谷大学犯罪学研究センターが2月16日に東京都内で開いたシンポジウム。SBSによる冤罪被害を訴える人たちのインタビュー映像が流された。
SBS理論では、硬膜下血腫、網膜出血、脳浮腫の症状(3徴候)があれば、目立った外傷がなくても激しく揺さぶったためとみなされる。1980~90年代に欧米で定着し、日本では2010年ごろから児童虐待として積極的に事件化されるようになった。