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痴呆化する保守

先日紹介した文藝春秋7月号・大坪論文の横で、藤原正彦がすごい文を寄稿していた。名前見ただけで読み飛ばしていたのだけど、大坪論文の後に読んでみると、レベル、視野の広さの違いに惚れ惚れする。いや、やっぱり読み飛ばして正解なレベルなんだけど、こういう不思議な生き物の生態を知る上では、それなりに有益な文である。

まず、なんといってもタイトルが凄い。
「日本国民に告ぐ」

「ドイツ国民に告ぐ」をパクったらしいけど、これが後に続く本文とのギャップを素晴らしく高めている。ジェットコースターとかで落ちる前に一段持ち上げる的な。ここから先の急降下ぶりの一端を紹介しよう。

愛国者・藤原氏曰く、今の日本は様々な危機に直面しているそうだ。凋落する一方の経済、世界一の財政赤字。政治の低レベル化と官僚の暴走。

そして、氏の国を憂うる思いは、若者にも向かう。なかなか結婚せず、してもなかなか産もうとしない。モラルも地に落ち、子殺し親殺し、通り魔殺人など、かつてありえなかったような犯罪が頻発するようになった。学級崩壊や陰湿なイジメによる自殺の蔓延は、子供の間でもモラル崩壊が進んでいることを示しているそうだ。

その理由なんだけれども、すべてのきっかけは、戦後にアメリカが日本の誇りを失わせるために仕組んだ陰謀だそうである。ここから東京裁判や「第二次大戦は侵略戦争か?」論まで延々と話が続くのだが、これがもうすごい長さで、途中で何の記事読んでたのかわからなくなるほどだ(中身がないのでここはパスしてOK)。

ついでに言うと、愛国者・藤原正彦的には、構造改革もまたアメリカの陰謀らしい。なんでも郵政民営化というのは340兆円をアメリカに差し出すための、そして派遣法改正は中産階級を破壊するための、そして医療改革は世界一の水準を誇る医療システムを破壊するための陰謀なんだそうだ。

で、結論だが、要するに日本は昔から穏やかで格差の無い平等な社会であり、帝国主義、新自由主義といった非日本的なイデオロギーは忘れて伝統に立ち返れというわけだ。たとえば自由貿易のための規制緩和を外国から要求されたら、こう切り返せばよいらしい。「日本人は聖徳太子以来、和を旨とする国柄です」
(冗談じゃなくて、本当にこう書いてる)。

そういったものを取り戻すために、憲法や教育基本法を改正し、個人主義から「長幼の序」「孝」を叩き込めというのが、氏の日本国民に告げたいことらしい。よくわからないけど、これで少子化対策もバッチリと言っておられる。

一応30代論者の一人として言わせていただくと、晩婚化も少子化も別にモラルの問題ではなく、先進国共通の現象である。対策としては(若年層の負担集中を軽減するため)労働市場を流動化し、世帯の所得を引き上げるために女性の社会進出を進めるしかなく、むしろ藤原センセイの御提言は日本の国力という観点からはものすごくマイナスなんですけど。

凶悪事件については、あらためて言う必要もないだろう。多くの論者が指摘している通り治安悪化というのは幻想に過ぎない。それから外資にお金預けたら全部持っていかれるなんてロジックは氏の頭の中では成立しているのかもしれないが、社会一般では「写真で真ん中に立つと魂を取られる」レベルの迷信だと言っておこう。

そしていつも言っている通り、非正規雇用を生み出したのは氏の絶賛する日本型雇用自身だ。連立政権が派遣再規制に舵を切った今、氏は「万歳!万歳!」と叫んでいるかもしれないが、現実に起きているのは雇用の減少である。

さて、この藤原氏であるが、昨年めでたく定年を迎えられたそうだ。僕は定年制度不要論者なのだけど、初めてこの制度があって良かったと心の底から感じられた。

「祖国再生の鍵はどこにあるのだろうか」と氏は問いかけてみせるが、一つだけ簡単ですぐに実行できる提案がある。今すぐ断筆して2度と公では発言しないことだ。あなたは保守でもなんでもなく、たんなる老害に過ぎないから。

今どき「階級闘争で問題解決」と信じている既存左派はバカ確定だが、「古き良き日本」というようなもので国際競争に勝てると思っている保守も、頭の程度は似たようなものだろう。

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