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元ソフトバンク社畜の「ブラック生存術」流されて生きようぜ!

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写真:アフロ

 2018年6月29日、「働き方改革関連法案」が可決し、いよいよ2019年の4月から順次施行されていくことになる。いわゆる「ブラック企業」の社員酷使を是正するのが目的だが、ほんの20年前の日本は、大企業であっても、現在でいうブラックレベルの労働環境にあった。

 そんな時代に、まだベンチャー精神が根強いソフトバンクグループで「社畜」を体験したのが、現在は複数のスタートアップ企業で役員・アドバイザーを務める、須田仁之氏だ。

「1998年にソフトバンクのグループ企業に入社し、2002年に退社するまでの約4年で、僕は衛星放送事業『スカイパーフェクTV』と通信事業『Yahoo! BB(以下、BB)』に、経営企画担当として携わりました。

 しかし、前職の新卒入社した会社では、在籍した2年間ずっと社長秘書を務めていましたので、経営企画の実務スキルは皆無でした。そして、新しい上司は外資コンサル出身の、エリートビジネスマン……。

『エクセル』『パワーポイント』を中心に、資料の作成方法を徹底的に詰め込まれました。提出しては激しくダメ出しをされ、繰り返すうちに日が暮れますから、スキルが上がっているかどうかなんて、気にもなりませんでした。

 当時、僕は茨城の実家から通勤していましたので、仕事が終わらない日は、会社に寝泊まりして、課された仕事を黙々と進めました。

 夜になって仕事が一段落すると、ヨレヨレのシャツに昼食のシミをつけたまま、会社の近くのだだっ広いお台場を歩き回りました。誰もいない海浜公園は、つかの間ひとりでぼーっとできる『オアシス』でした。

 自分のことを客観視して、振り返りました。終わらない仕事に追われる毎日に、ゆっくり思考する暇はありません。そしてこのとき、社畜として、ひとつの真理にたどり着いたのです。

『僕はまだ下っ端だし実力もない。鬼のような上司に逆らってはダメだ。波に逆らうと、水底に沈むだけだ』

 オアシスで休憩できるのは、わずか10分程度です。休憩していたとは思われないように、コンビニ袋をぶらさげてオフィスに戻ると、上司は見透かしたかのように、不気味で恐ろしい笑みを浮かべていました。

『なんだか今日は、楽そうな顔してるじゃないか。仕事が足りないか? 最近、俺たちも甘やかし過ぎてるかもな~、もっと仕事をやろうか』」

 1年ほど上司に実務で詰められ続けた須田氏だったが、転機が訪れる。その上司に強引に誘われ、ソフトバンクグループ内に新設されたマーケティング会社に転職することになった。勤務地は、当時東京・箱崎にあったソフトバンク本社ビルに変わった。

須田仁之氏

顔が歪んだ社畜仲間とたどりついた「夢の居酒屋」

「仕事は同じ経営企画でしたが、あまりに忙しすぎて仕事が回らず、新卒で入社した会社の後輩・ホリウチくんを引き入れました。僕にも部下ができたのです。

 彼もキャリアは社長秘書だけでしたので、ベンチャー企業の経営企画部門の仕事、エクセルワークに四苦八苦していました。

 ホリウチくんも、すぐに家に帰れなくなりました。隣り合った席の僕たちは、いつも一緒に深夜まで働いていて。

 僕は深夜3時頃になると、後ろの壁に立てかけていたダンボールを床に敷き、先に寝てしまいます。ホリウチくんは仕事が終わらず、いつまでもキーボードを叩いていました。そして、『こんな職場に転職するんじゃなかった……』とひとりで泣いていたそうです。

 そのうち、ホリウチくんも僕と同様に、鬼上司から直接詰められるようになりました。僕はここで初めて、自分と同じような仕打ちを受ける人間を客観視できるようになったのです。

 彼の顔は、みるみる歪んでいきました。朝から晩まで、苦悶の表情をしているからです。『心身ともに厳しい日々を過ごすとリアルに顔が歪む』なんてことは、学校では教えてくれませんよね(笑)」

 それまで地獄の労働環境にひとりで耐えていた須田氏は、初めて「同志」を得た。そして社畜たちは、なんとか人間らしくあろうと、つかの間のオアシスを求めた。

「日中で気が休まるのは、会社近くの蕎麦屋でのランチタイムだけで、そこが慰め合う場所でした。歪んだ顔のままだと、笑うことができなくなる。少しでも笑いを入れていかないと、顔が崩れてしまいそうになります。

 この頃には、シンドウくんという部下が加わっていました。僕たちは、上司が帰って深夜残業の時間帯に突入すると、オフィス内で爆笑モードに入ります。取引先とのトンデモ事例や、たまの会食での面白話などを、披露し合っていました。

 それは恐らく、人間の生存本能からの行動です。定期的に笑わないと、顔だけでなく精神状態が歪み、もう人には戻れないような気がしていました。

 営業とは違って、僕たち経営企画部門は会食の頻度も低いですし、ふだんは深夜残業ばかりで、戦友同士で飲みにいってリフレッシュすることもできません。いまは『アルハラ』なんて言葉がありますが、毎晩のように上司とともに飲み屋にくり出す、新橋のサラリーマンが羨ましかった。

 それでも半年に一度ぐらい、奇跡的に飲みに行ける日がありました。ホリウチくんは、インターネットで安くて美味しいお店を探すのは得意だったようで、会社からは徒歩15分ほどの、日本橋浜町にある、『赤ちょうちん』の店を見つけてきました。

 背は低いながらガッチリした体格の、50代のおじさんがマスター。ゆりかもめでお台場に通勤していた時代は、仕事に忙殺されてついに味わうことの出来なかった、夢の居酒屋です。

 僕は、『やっとこんな渋い店で、煮込みとホッピーを堪能するサラリーマンになれた』と感動しました。ふつうのサラリーマン人生を歩めなかった自分が、ようやく掴んだ小さな夢でした。そこではもっぱら、『社畜あるある』に話の花を咲かせていました。

『まぶたの下がピクピクしない? これ止まんないんだよ』(須田)
『わかります! それ定期的に来ますよね』(シンドウ)
『ボクは鬼上司に詰められすぎて、嫌な汗をかくようになって、体臭がきつくなりました』(ホリウチ)
『僕は最近、顔面神経麻痺になりました。顔の半分がうまく動かないんですよ! ワハハハ!」(シンドウ)
『じつは言えなかったんですけど、須田さんがダンボールで寝てたころ、血尿が出てました』(ホリウチ)」

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