- 2019年03月12日 14:30
イチローの〝引退〟が未だハッキリしない理由 - 新田日明(スポーツライター)
1/2レジェンドが苦しんでいる。シアトル・マリナーズのイチロー外野手が10日(日本時間11日)のオープン戦出場時点で5戦14打席連続無安打(四球を含む)となり、通算成績22打数2安打2四球、ついに打率も1割を切ってしまった。マイナー契約でスプリングトレーニングに招待選手として参加している立場だが、成績だけみればメジャー昇格は非常に厳しい状況と言わざるを得ない。
〝最重要事項〟
だがイチローは故障でもしない限りは、間もなくメジャーへ昇格することになるだろう。言うまでもなく3月20、21日に日本の東京ドームでオークランド・アスレチックスとのMLB開幕2連戦が組まれているからだ。
大会主催者のMLB、そして日本野球機構(NPB)、読売新聞社としてはマリナーズのベンチ入りメンバーにイチローが加わるか否かは〝最重要事項〟。その辺りの事情はマリナーズ側も当然ながら百も承知でジェリー・ディポトGMが明言している通り、日本の誇るスーパースターのメジャー昇格を規定路線としてとらえている。
日本での開幕2連戦は25人から補充要員3人を含めて28人に枠が増えることも手伝い、失礼を承知で言うが〝客寄せパンダ〟としてのメジャー昇格であったとしても批判は起こるまい。
この母国・日本での開幕2連戦は米メディアの間で「イチローの引退ロードになる」とみられている。マリナーズは大功労者のイチローに華々しい花道を用意しようと日本遠征メンバーに入れるため、オープン戦での調子云々にかかわらずメジャー昇格をあらかじめ決めていた――。米メディア同様、そういう見解を抱いている人は少なくない。
問題は日本遠征後だ。実際のところ、イチローは日本の開幕2連戦で引退することになるのだろうか。それとも米国へUターン後も奇跡的にメジャーリーガーとしてロースター定着を果たせるのか。
マリナーズ側は、まだ処遇に悩んでいるようである。現状のイチローは確かに成績だけみると衰えが隠せない。10日の時点で三振も24打席中「7」。かつて動体視力に優れていたイチローにとっては考えられないような酷い数字だ。それでも45歳という年齢でありながらメジャーリーグのスプリングトレーニングで第一線の選手たちとともに同じメニューをこなし、オープン戦でプレーしていることについては関係者に少なからず驚きを与えている。
イチローはマリナーズ復帰を果たした昨季、5月3日に「スペシャルアシスタントアドバイザー」の契約を結び直し、残りの試合に出場しなかった。そこから1年近く実戦離れが続いていたものの、今春から再びメジャーリーグ復帰を目指している。
これだけの長期間に渡ってゲームに出場しなければ、普通は試合勘も必然的に失う。ましてや今年10月で46歳を迎える身体だ。常識的に考えれば、どれほど自信があったとしても長いブランクと高齢という2つのデメリットにさいなまれながらメジャーリーガーを相手に実戦出場することなど、まず不可能である。
一緒に戦えていることだけでもミラクル
ところがイチローは現にそれをやってのけている。オープン戦では2安打を放ち、盗塁まで記録してみせた。右翼守備でも難しい大飛球をフェンス際で好捕し、マウンドに立っていた新チームメートの菊池雄星投手を助けたシーンもあった。マリナーズのスコット・サービス監督ら首脳陣、チームスタッフ、そして選手たちが「一緒に戦えていることだけでもミラクル」と口を揃えているのもうなずける。
ただメジャーリーグは非常にシビアな世界であり、群雄割拠の競争社会だ。現にこのオープン戦では結果の出ないマリナーズの招待選手たちが次々とマイナー行きを命じられている。その中で成績が一向に上向かないにもかかわらずイチローだけを特別扱いし続けていたら示しはつかない。そういう観点で見ると、イチローに対する猶予はやはり母国凱旋の日本開幕2連戦までということになる。
大半を占めているとは言い難いにせよ、その猶予を少し延ばしてみようかという意見も確かに球団内から出ているようだ。イチロー擁護派のマリナーズ関係者が次のように言う。
「打撃の数字は伴わないが、イチローは動けている。フィーリングを取り戻し、さらに加齢によるコンディションの衰えをカバーする術も身につけることができれば、メジャーリーガーのプレーを再び見せることができるのではないか。少なくとも彼は現時点でプレーヤーの道を歩む気力を失っていない。それならば我々が道を閉ざすことはしないほうがいいと思う。今までマリナーズは彼によって支えられてきた。だから今度は我々が彼を支える機会だ」
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