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米韓合同軍事演習の終了に伴う諸問題 (我が国が覚悟すべき朝鮮半島の大激変) - 渡部 悦和

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「フォールイーグル」と「キー・リゾルブ」の価値

そもそも、今回の中止の対象になったフォールイーグルとキーリゾルブとはいかなる意義を有する演習であろうか。

 まず、フォールイーグルは、世界最大の実動演習と言われていて、後方地域の安全確保・安定作戦、前方地域への重要物資の推進、特殊作戦、地上機動、水陸両用作戦、戦闘航空作戦、海上作戦、特殊作戦部隊への対処作戦などの広範な作戦を実施する。米軍の参加者は数万員、韓国軍の参加者は数十万人(最大で50万人参加)であり、いかに大規模な演習であるかが分かる。

 次いで、キーリゾルブについて説明する。キーリゾルブは、実動演習ではなく指揮所演習であり、韓国防衛を支援する米インド太平洋軍の作戦計画に基づいて行われている。指揮所演習の主たる目的は、指揮官の指揮統制能力の向上、幕僚の幕僚活動の能力の向上、米軍と韓国軍の調整能力の向上などだ。

 フォールイーグルは2001年以降、キーリゾルブの前身であるRSOI(Reception, Staging, Onward movement, and Integration)演習と一体となって実施されることになった。RSOIの各段階を説明すると、米軍を韓国内に受け入れる(reception)段階、韓国内で部隊と兵器を合体させる(staging)段階、部隊を朝鮮半島内の所定の戦略的位置に移動させる(onward movement)段階、既に到着した部隊と新たに到着した部隊を統合する(integration)段階がある。つまり、RSOI演習では、米国本土等から到着する米軍を受け入れてから全ての部隊を戦力発揮できる状態にする段階までを訓練する。

 このRSOIは、2008年にキーリゾルブと名称変更になったために、それ以来フォールイーグルとキーリゾルブが一体となった大規模演習が行われてきた。

金正恩委員長が最も恐れた演習がフォールイーグルとキーリゾルブ

北朝鮮との交渉の歴史を振り返って明らかなことは、「力を信奉する北朝鮮には、力を背景とした交渉しか機能しない。北朝鮮に対して融和的な交渉は機能しない」という事実だ。

 トランプ大統領は2017年末まで、「北朝鮮に対する最大限の圧力をかける」と主張し、その通りに行動してきた。その最大限の圧力路線こそが金正恩体制に大きな影響を与え、核実験の中断や弾道ミサイル発射実験の中断をもたらしたと思う。

 最大限の圧力の中で最も重要な手段が「国連の経済制裁」と軍事的圧力であった。軍事的圧力の中で大きな効果があったのは大規模演習フォールイーグルとキーリゾルブの実施である。金正恩委員長が最も恐れた事態は、演習であるフォールイーグルとキーリゾルブがそのまま実戦に移行し、米韓連合軍が北朝鮮を攻撃する事態だった。金委員長は、自らが殺害される事態を恐れるからこそ、強硬にこの大規模演習に反対してきたのだ。この合同演習を中止することは、金委員長に大いなる安心感を与えることになる。

大規模演習の中止は皮肉にも北朝鮮の非核化を難しくする

まず金委員長が核ミサイルを放棄することはないことを再認識すべきだ。金委員長は、核ミサイルの保有が自らの体制を維持する最も有効な手段であると確信している。だから今まで米国の軍事的圧力に抵抗し、国連の経済制裁を受けても核ミサイルの開発と保有を続けているのだ。

 フォールイーグルとキーリゾルブが中止になり、大きな脅威がなくなった金委員長が北朝鮮の完全な非核化に応じるとはとても思えない。トランプ大統領が期待する「大規模演習中止が緊張緩和をもたらし、結果的に北朝鮮の非核化を推進する」とは私にはとても思えない。

 米国の北朝鮮への対応は、「全ての選択肢がテーブルの上にある」という「北朝鮮に対する最大限の圧力路線」に戻るべきだと私は思う。

大規模合同軍事演習中止に伴う米韓連合軍への悪影響

●演習をしない軍隊は使い物にならない

訓練や演習をしない軍隊は、有事の際に使い物にならない。私は自衛隊の現役時代、「練磨無限」を合言葉にして訓練や演習に励んできた。訓練に訓練を重ねることにより、有事に能力を発揮する精強な部隊が出来上がるという確信があった。

 自衛隊での勤務が長くなり、階級が高くなって連隊(約1000名規模)、師団(数千名規模)、方面隊(数万規模)を指揮する立場になって初めて大部隊の演習の重要性が分かってきた。若い小隊長や中隊長の時代にも確かに訓練に励み、その階級における訓練で多くのことを学んだが、大部隊を指揮統率するためには別の能力が必要だと痛感したものだ。その能力を鍛えるのが大部隊の演習なのだ。

 「フォールイーグル」や「キーリゾルブ」は、米韓合同演習で最大の演習であり、米軍と韓国軍の大部隊指揮官や幕僚の能力を高める非常に貴重な機会だ。その演習の機会がなくなることは、間違いなく米軍や韓国軍、特に韓国軍の能力を低下させる。

●演習を実施しないと米韓合同の有事作戦計画の改善が難しくなる

米韓合同軍は、保有する有事作戦計画を常に改善しつづけていかなければいけない。その改善の有効な手段がフォールイーグルとキーリゾルブなどの大規模演習を実施し、そこから改善の教訓を得ることだ。全ての大規模演習を中止する悪影響は余りにも大きいと言わざるを得ない。

●米韓同盟の形骸化

米韓同盟を形骸化していく可能性がある。在韓米軍の存在意義を低下させ、将来的な撤退に導く可能性がある。

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