記事

頼まれてやるのはボランティアじゃない 善行を押しつける正義感の濫用

1/2
Getty Images

東日本大震災から8年だね。もう8年なのか、まだ8年なのか、人それぞれに思いはさまざまだろう。年々、3.11が来るたびに、東北が次第に忘れかけられている、東北を訪れるボランティアが減っている、なんて話が出てくるよね。

ボランティアが段々と減っていくのは仕方ないな。時と共にモチベーションの移ろいもあるだろうし、その後も熊本を含め災害は頻発しているしね。だけど、もちろん各地でまだまだボランティアの力を必要としている場所に必要なボランティアが充たされたらと思っているよ。

スーパーボランティア・尾畠春夫さんを見世物にしたマスコミ

共同通信社

そんな中で、昨年は尾畠春夫さんって人が現れたよね。ああいう根っからのボランティア生活をしている人が幼い命を救い出すというニュースがあって、スーパーボランティアと呼ばれて日本中がその名を知ったわけだ。尾畠さんに刺激を受けて、自分もボランティアをしてみようとか、いつかやってみたいなとか、ボランティア精神に目覚めた人も多かったと思う。尾畠さんが日本に与えた刺激と効果は大きいよ。

その尾畠さんがさ、1月に都内で講演したあと東京を出発して自宅のある大分まで1100キロを徒歩で帰るって歩き始めたよね。「世界の子どもたちの幸福を願う」っていう目的を掲げて。で、結局、約一ヶ月過ぎて周りが騒がしくなってさ、浜松で旅を断念したわけだ。

あの尾畠さんをひと目見たい、握手したい、写真を撮りたい、サイン欲しい、そんなギャラリーがわんさか集まって現場が尋常でなくなってしまったんだな。尾畠さんいわく「歩道にも車道にも車を止める人がいて、人も歩けない自転車も通れない状態となり“これは異常事態”だなと」「来てくれた人が悪いとか、なんだかんだじゃないんです。総合的に見て“交通事故になるな”と思ったから。人の命にはかえられないから。幼い子ども、高齢者の命にしても。もう、今回はこれで打ち切ろうと思いやめました」って振り返ってたよ。

そりゃそうなるよ。やる前からそうなるってわかってたよ。ハナっからテレビカメラが追っかけてただろ。あれは何が悪いってテレビが悪いよ。今どこにいますなんて追っかけて逐一放送してたらさ、直接そうは言ってなくても「さあお近くの皆さん、あの尾畠さんが歩いてますよ!行けば会えますよ!」って暗に宣伝しているようなもんだもの。煽り運転ってあるだろ、尾畠さんにテレビがしたことは煽り放送だよ。テレビが煽ったことで、現場が変わっちゃったんだ。

尾畠さんが昨年夏に山口で2歳の子を助け、最初に注目された時はニュース性のある「報道」だった。それがどんどん変容して、今回は興味本位の見世物になっちゃったんだな。テレビが尾畠さんを見世物におとしめた、って言ってもいいよ。

語弊があるかもしれないけど尾畠さんは「スーパー」な人で、いい意味で「変人」だよ。だから凄いんだと思う。やってることは一般人から見たらケタの違う相当変なことだよ。だから伝え方によっては「スーパーボランティア」にもなるし「スーパー変人」にもなる。今回はテレビが尾畠さんの「スーパー変人」な姿を追いかけて、その実、見世物としての視聴率を追いかけてたんだ。だから物事の本質からどんどん離れていったんだな。

そんな尾畠さんがリヤカー引っ張って坂登ろうとしたら、後ろからそれを押す人がいたよね。そのことに対して黒鉄ヒロシさんが番組で言ってたけど、「その行為自体を悪いとは思わないけど、もしもそれを、自分はいいことやってるなって感じてるのだとしたら、それはどうかと思う」って言ってた。

同感だよ。尾畠さんのリヤカーを押すってことは、尾畠さんに対する本当の応援ではないからね。尾畠さんがしていることに手を差し伸べたり、物を差し入れて渡そうとしたりっていうのは、単なるファン行為であって、あの人が本来、本意としているボランティア精神とはまったく異なるものだもん。

尾畠さん自身を助けるのは、いいことでも何でもない。尾畠さん自身が「きついから手伝ってくれ」って助けを求めたら話は別だけどね。それに尾畠さんからしたら、次から次に人が寄ってきてさ、挨拶されてその場の相手を続けてたら疲れると思うよ。あの人がやりたいこととは違う方向で、周りの人達が尾畠さんのエネルギーを奪っていたと思う。あんなふうに周りがワイワイと取り囲むのは尾畠さんのためにはならない、「贔屓(ひいき)の引き倒し」だよ。

尾畠さんを真にリスペクトするなら、まず、尾畠さんをほったらかしにすることだ。それが最も尾畠さんの力を発揮させることになるんだから。で、尾畠さんが何かやりたいことをやりきったのなら、その結果をたまに報じてくれるぐらいでいいじゃない。

尾畠さんの精神に共感し、その本質に共鳴するのなら、それは自分自身がボランティアとして何か出来るのだろうか、出来ないのだろうか、って考えてみることなんじゃない?

尾畠さんのように「いい」ことをしている人を応援する、それを良かれと信じて疑わないのは正義感の濫用だよ。正義感の濫用ってロクなもんじゃないよ。「いい」にのめり込むと周りが見えなくなるんだな。善意の押しつけっていうのかな。今回のワイドショーも野次馬も「いい」を盾にして、いつしか周りに迷惑をかけていることを、見て見ぬふりをしていたんだ。その結果、尾畠さんのしたかったことを遮ってしまったんだ。相手の立場を考えずにしてしまう、今の日本人のいちばん良くないところだよ。

結局、そこにあったのは自分を満足させるためだけの正義感だったんじゃないか? そのあたり、もう少し冷静に考えないとな。

あわせて読みたい

「東日本大震災」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    SNSでコロナ避難 危機感募る沖縄

    小林ゆうこ

  2. 2

    布マスク費用への批判は大間違い

    青山まさゆき

  3. 3

    コロナ方針 国が変更し都に圧力?

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  4. 4

    日本の補償は本当に「渋チン」か

    城繁幸

  5. 5

    東京都が休業を要請する施設一覧

    AbemaTIMES

  6. 6

    国民の理解得ぬコロナ議論は不毛

    中村ゆきつぐ

  7. 7

    コロナより東京五輪重視したツケ

    WEDGE Infinity

  8. 8

    タバコで新型コロナ重篤化の恐れ

    BLOGOS編集部

  9. 9

    緊急事態宣言も緊迫感ない芸能界

    渡邉裕二

  10. 10

    高学歴女性がグラビア進出する訳

    NEWSポストセブン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。