- 2019年03月11日 14:23
「アラブの春」再び? 中東で広がる抗議デモの嵐
1/2・アラブ諸国では生活苦を背景に、「独裁者」への抗議デモが広がっている。
・その構図は2011年の「アラブの春」を思い起こさせる。
・とりわけアルジェリアやスーダンなどでの政治変動は、「テロとの戦い」の文脈からも大きな意味をもつ。
アラブ諸国では政府への抗議デモが各地で発生しており、その背景には生活苦がある。2011年に発生した政治変動「アラブの春」はその後、シリア内戦や「イスラーム国」(IS)台頭を引き起こしたが、今回の各地での抗議デモも地域の不安定化材料になる危険性を抱えている。
82歳の大統領
中東・北アフリカでは政府への抗議デモが広がっている。そのうちの一つ、アルジェリアでは3月8日、ブーテフリカ大統領の辞任を求める数万人のデモが首都アルジェで発生し、195人以上の逮捕者を出した。
82歳と高齢のブーテフリカ氏は1999年から大統領の座にあり、2013年に脳梗塞で倒れて以来、車いす生活を送っている。しかし、それ以前と同様、公の場に出るときには灼熱のさなかでも常にスリーピースのスーツを欠かさない。
抗議デモのきっかけは、4月に行われる大統領選挙に、ブーテフリカ氏が出馬を表明したことだった。高齢であるうえ、健康状態さえ疑わしいブーテフリカ大統領による長期政権には、とりわけ若い世代からの批判が目立つ。
広がる批判に、ブーテフリカ氏は大統領選挙に立候補するとしながらも、「任期を全うするつもりはない」とも述べ、任期途中で降板することを示唆した。つまり、「すぐ辞めるから5期目の入り口だけは認めてくれ」ということだが、任期途中で辞める前提で立候補するという支離滅裂さは、それだけブーテフリカ政権への批判の高まりを象徴する。
広がる抗議デモ
抗議デモが広がるのはアルジェリアだけではない。
政府への抗議デモは、昨年末あたりから中東・北アフリカの各地で発生しているが、とりわけ先月からはスーダン、ヨルダン、エジプト、モロッコなどで治安部隊との衝突も相次いでいる。
このうち、エジプトではフランスで発生した「イエロー・ベスト」の波及を恐れ、昨年末に政府が黄色いベストの販売を禁止している。
また、スーダンではバシール大統領が2月23日、1年間の非常事態を宣言。これによって、「治安を乱す」デモに対する発砲や、デモ参加者を裁判や令状なしで拘留することも可能になった。
アルジェリアの生活苦
こうしたデモの広がりの背景には、生活苦がある。単純化するため、アルジェリアに絞ってみていこう。
アルジェリアはアフリカ大陸有数の産油国だが、そのGDP成長率は2010年代を通じて緩やかに減少し続け、2018年段階で2.5パーセントだった。この水準は、伸びしろの小さい先進国なら御の字だが、開発途上国としては決して高くない。
資源が豊富であることは、資源の国際価格によって経済が左右されることを意味する。2014年に資源価格が急落して以来、アルジェリアをはじめ、この地域の各国の経済にはブレーキがかかっている。
これと連動して、物価も上昇しており、昨年の平均インフレ率は10パーセントを超え、今年に入ってリーマンショック後の最高水準に近付きつつある。
さらに、資源経済は雇用をあまり生まないため、失業率は下げ止まっており、昨年段階で11.6パーセントだった。これだけでもかなり高い水準だが、世界銀行の統計によると、15~24歳の失業率(2017)は24パーセントで、ほぼ倍だった。
冒頭で述べたように、ブーテフリカ大統領に対する抗議デモには若者が目立つことは、これらをみれば不思議ではない。それぞれで事情は多少異なるものの、基本的にはどの国でも、こうした生活苦が抗議デモの引き金になっている。
- 六辻彰二/MUTSUJI Shoji
- 国際政治学者