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子どもだけで通学させることは世界の非常識?/徒歩通学のメリットや必要性を考え始めた国々の動き

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子どもがランドセルを背負い、一人で徒歩または電車で通学する光景は日本ではごく普通のこと。しかし、世界的に見るとまだまだ「親の送り迎え」が通学手段の主流だ。国によって治安や距離の問題もあろうが、子どもたちだけで通学することを推進している動きを追った。
7歳の少女はひとりで家を出ると、世界で最も乗降客が多い新宿駅へと歩き出す。
ちょっと急がないと電車に間に合わない―。
東京ではごく当たり前のこんなシーンが、海外では「SF映画のワンシーン」かのように取り上げられた。これは、オーストラリアの公共放送局SBSで放送されたドキュメンタリー番組『日本の自立した子どもたち(原題:Japan’s Independent Kids)』の一場面。

番組の冒頭では、日本の子育てに対する考え方として「かわいい子には旅をさせよ」ということわざが紹介された。子どもは幼い頃から「自分のことは自分でやる」を身につけるべきと日本の親は考えている、実際日本では子どもの98.3%が毎日、保護者の付き添いなしで通学していると。


(c)photo-ac

なぜ日本の子どもたちは、そこまで自主性が与えられているのか? 「子どもの行動」を研究している文化人類学者ドウェイン・ニクソンは、日本の集団主義社会に起因するものと考える。子どもたちは、何かあればコミュニティに頼ることができ、お互いに助け合うべきだと教わる。自主性というより「集団の一員」であることを学ぶのが目的だと。日本の犯罪率の低さ、配慮が行き届いた都市計画も重要な要素であろう。さらに、東京では人口の半数が公共交通機関を利用している。車を運転する人たちも、歩行者や自転車に道を譲るべきことをちゃんと認識している、という背景もある。

自転車専用道を整備したデンマークの事例

では、自分が暮らす町で8割方の子どもが自転車で通学したらどうだろう? デンマークのオーデンセ市は、自治体の支援を得てこれを実現させた。「市内のすべての学校をつなぐ545kmの自転車専用道路を整備しました。おかげで子どもたちは安全に自転車通学ができるようになりました」と市の交通企画課の責任者コニー・クラウセンは言う。



小学生たちに自転車の乗り方を指導する「サイクル・ハッピーアワー」というプログラムもある。「子どもたちが自転車通学できることを親御さんたちに理解してもらいたいのです。校内で乗れるようになったら、外でも乗ってみましょうよと」。市として自転車通学を奨励するプログラム「サイクル・スコア」も導入されており、自転車でチェックポイントを通過すると電子ポイントがたまり、抽選で自転車グッズなどが当たる。(※)

※ 関連記事: オーデンセでは5歳から自転車通学

オーフス大学のニールス・エグルンド教授も「アクティブ・トランスポーテーション(*)」を強く支持している。2012年、教授が2万人の生徒(5~19歳)を対象に実施した調査では、徒歩または自転車で通学している生徒は、親に車で送迎してもらっている生徒より成績が良いとの結果がでた。「通学中に体を動かすことで、生徒の集中力が約4時間長かったのです」と教授は言う。

* 歩いたり、自転車に乗るなど、エコロジカルな移動手段を推進する動きのこと。

イタリアからスペインへと広がった「ウォーキングバス」の取り組み

北イタリアの街レッコでは、毎日450人の生徒が、市内にある小学校10校に、17通りものルートを使って通学している。バスの数は足りていないし、肥満・交通渋滞・環境汚染という三大脅威への対策にもなるとして、2003年に地方保健局が徒歩で通学しましょうと「ウォーキングバス計画」を提案。今では、市の職員や親たちが交代で引率にあたり、子どもたちは徒歩で通学している。

スペインの街ポンテベドラもこの取り組みに続いた。2010年に開始した「学校まで歩こう(Walking to School)プログラム」には7校が参加。6歳以上の子どもは親の付き添いなしで徒歩通学することが奨励されている。心配な親は、子どもが危険な交差点を渡るところを見守ってもよい。当プログラムは、子どもの自主性を育むだけでなく、学校周辺での交通事故をも減少させている。地元の警察署長いわく、2011年以降、車の死亡事故が一件も発生していない。事故の多くは親が起こすものだからだ。



カナダでは10歳未満の子どもは保護者の付き添いが必須

とはいえ、親の付き添いなしで通学することは、どこでも奨励されているわけではない。カナダのバンクーバーに住むエイドリアン・クックは、子どもたち(7歳、8歳、9歳、11歳の4人)に自分たちだけでバス通学できるよう教え込んだところ、ブリティッシュコロンビア州児童保護省との法廷闘争に発展している。

「自宅から学校の門まで45分かかります。2年間、膨大な時間をかけて子どもたちに付き添い、市バスの乗り方を教え込みました。そうしたのは私が暇だったからでも、車を買いたくなかったからでもありません。子どもたちが自信をつけ、自立して欲しかったからです。同じバスに乗り合わせた近所の人も子どもたちの態度を褒めてくれ、とても誇らしく思ったものです」


© Pixabay

「すべてうまくいってたある日、児童保護省(Ministry of Children and Family Development)から電話があり、『10歳未満の子どもは、保護者の付き添いなしで外出することは近くのスーパーであっても認められていません』と言われたのです。子どもの命を危険にさらしたいのですかとも言われたので、この2年でバスで誘拐された子どもはカナダ全土で1人だけじゃないですかと反論しました。でも、ムダでした。今、児童保護省に対する訴訟準備をすすめています。我が子のためだけではありません。年齢に関わらず誰もが公共交通機関を利用できるべきと考えている人は、私以外にもたくさんいますから」

* 関連記事:We’re Going to the BC Supreme Court! (エイドリアン・クックのブログ)

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