記事
  • 橘玲
  • 2019年03月08日 17:47

幸福に生きるためのヒント(『人生は攻略できる』)

2/2

ここで「100倍の法則」を説明しておこう。これは(たぶん)誰も教えてくれないだろうけど、これから君が生きていくのにとても大切なことだ。

「100倍の法則」をひとことでいうと、「加害は100分の1に、被害は100倍に評価する」になる。これはヒトの本性なので、加害や被害の当事者がそれを客観的に知ることはぜったいにできない。

いじめっ子に「なんでそんなことをしたのか」と問い詰めると、「悪気はなかった」という。これは言い訳をしているのではなく本心で、スピリチュアル(無意識)が加害を100分の1に評価しているのだ。いじめられた子どもに「そんなに気にすることないよ」と慰めても、いつまでも泣き止まないのは、これとは逆に被害を100倍に評価しているからだ。

なぜこんなふうにできているかというと、その方が生きていくのに有利だから。

被害というのは、同じことを繰り返すと生命にかかわる出来事だ。不機嫌そうな大人に近づいたらいきなり殴られたとしよう。次から同じ失敗をしないようにするのは、この被害体験をしっかり覚えておいて、どういうときになにをしてはいけないかを学習するしかない。この仕組みをうまくはたらかせるには、実際よりもずっと強く被害を意識した方がいい。

それに対して加害の方は、覚えておいてもなんの意味もない。そんなものはさっさと忘れてしまってかまわないのだ。

これが「加害と被害の非対称性」で、個人と個人、集団同士、国と国との関係まで、この世界で起きるやっかいな問題のほとんどはここから発生する。

君がまず覚えておかなくてはならないのは、ひとにイヤなことをしたら、君はすぐにそのことを忘れてしまうだろうが、相手はずっと(場合によっては死ぬまで)覚えているということだ。これに気がつかないと、最初はいばっていられても、最後はたいていヒドいことになる。いつのまにかまわりが敵だらけになって、なにかあったら足を引っ張ろうと復讐の機会を待っているのだから。

もうひとつ大事なのは、ひとからイヤなことをされても、それを過剰に考えすぎないことだ。そのためのいちばんいい方法は、友だちに相談してみることだ。

「自分のことは自分がいちばんよくわかっている」と思うだろうが、これはまちがいで、友だちの判断の方がずっと正しい。なぜなら友だちは当事者ではないので、「100倍の法則」に影響されないから。

友だちが「そんなのたいしたことじゃないよ。無視しとけばいいよ」といったら、君がどれほど傷ついていたとしても、その程度のことなのだ。ただし、友だちもいっしょに巻き込まれているときは注意した方がいい。被害感情が増幅して、ますます判断が歪んでしまう可能性がある。

学校での地位(スクールカースト)が実社会での成功とあまり関係ないということも覚えておこう。生徒会長に選ばれるようなリーダーシップのある生徒が政治家や大企業の社長になるというのはもちろんあるけど、それよりもカースト上位の生徒が社会に出るとぜんぜん目立たなくなったり、下位カーストの(いじめられていた)生徒が起業家になったり、芸能や音楽、芸術の世界で有名になったりすることの方がずっと多い。

なぜこんなことになるかというと、近代の学校が同い年の男女をひとつの場所に集めて共同生活させるというものすごく特殊な場所だからだ。こんな異常な環境は実社会にはないから(会社はときどきこれに近くなるとしても)、学校生活に最適化された「コミュ力」はたいして役に立たないのだ。

ついでにいっておくと、恋人ができたとき、うまくいくかどうかもたいていは友だちが正しく判断している。本人たちはものすごく盛り上がっていても、まわりが「あの2人、似合わないよね」といっていたら、いずれ破綻する可能性が高い。これも、自分のことは自分ではわからないからだ。

相談する友だちがいないこともあるだろうけど、そんなときは旅に出るといい。とくに海外旅行が効果的だ。

なぜなら、脳(スピリチュアル)は心理的な距離と物理的な距離をうまく区別できないから。心理的に傷ついた場所から物理的に遠ざかると、その出来事を客観的に見られるようになる。「失恋旅行」というのは、ちゃんと理由があるのだ。

ぼくたちが生きている日本の社会は伽藍の世界で、ほとんどの日本人は失敗を避け、誰からも批判されないようにしようと、一生懸命ネガティブゲームをやっている。これはたしかに、その場をうまくやりすごすにはいい方法かもしれない。

でもこれからの時代は、どれほどネガティブゲームがうまくてもなんの役にも立たない。なぜなら、いつまでたってもよい評判が集まらないから。

「いいね!」というのは、なにかに挑戦したひとに与えられる評価だ。1年間なにひとつ失敗しなかったことで、たくさんの「いいね!」をもらえるはずがない。

みんながネガティブゲームをしている日本では、ポジティブゲームができるようになるとものすごく有利だ。大富豪や有名人にはなれないかもしれないが、すくなくともここで説明したような「幸福の土台」を手に入れるのは、そんなに難しいことではないだろう。

そのためには、ものすごい努力も、とてつもない才能も、信じられない幸運も必要ない。なぜなら君はすでに、「人類史上もっともゆたかないまの日本に生まれた」という大きな幸運を手にしているし、少子高齢化の日本では若者はますます希少になるのだから。

君たちの未来は明るい。必要なのはちょっとした勇気だ。

あわせて読みたい

「ライフ」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。