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編集者・酒井章子「認知症の母、別人と思わなければ殺していた」



現在の日本人女性の平均寿命は約87歳。いままで、80代と50代が多かった母娘間の介護も、高齢化によって90代と60代まで上がっている。そんな“90歳を超えた老母の介護と看取り”を当事者が自らの経験を語る――。

「父に先立たれ、初期の認知症と診断された母の面倒をみるため、大阪市のマンションで’08年11月から一緒に暮らし始めたんです。そりゃ、ものすごい罵声を浴びせられる毎日でしたわ。『アンタはドロボーや、私の金が目当てや!』『誰に育てられたんか、素性を疑うわ!』。そしてベランダに出ては大声で、『ドロボーに閉じ込められているんです、おまわりさん、助けて~!』って」

約10年前に始まった母・アサヨさん(91)との生活を振り返るのは、一人娘の酒井章子さん(59)。現在はフリーの編集者であり、昨年12月に出版された介護エッセイ『認知症がやってきた!』(産業編集センター)の著者でもある。母の認知症の症状はその後も進み、やがて徘徊が始まったという。

「私から逃げようとして外に出るんですが、そっと尾行してみると、健脚の母は放っておけば10キロ以上も歩く。夕方に家を出て、気づけば朝日が出ていたなんてことも何回もありました。彼女のためにしていることがすべて否定される。あのままの状態やったら、殺していたかもしれないですね」(酒井さん・以下同)

その“殺意”を抑えるきっかけとなるような出来事があった。

「あるとき、母の反応を見たいと思って、道に倒れて死んだフリをしてみたんです。そうしたら母は、『フン、死にやがれっ!』と吐き捨てて、スタスタと歩き出した。それで悟ったんです。『この人を、育ててくれた母やと思ったら、やってられない』って。それ以降、母を『マリリン』という別キャラだと思うようになりました」

すると、気持ちの切り替えが、うまくできるようになったそうだ。

「ここ数年は、足腰が徐々に弱くなって、トイレもひとりでできないように。徘徊や暴言もなくなり、いまは“かわいいおばあちゃん”」

そう酒井さんは目を細める。長い介護生活を経て、“悟り”にも似たある境地に達したという。

「愛せなくなったら? いやいや、愛さなくていいんですよ(笑)。認知症ってわかってたって、腹立ちますって。だから我慢しないで、『うるさいな、黙っとき!』って言っちゃえばいいんです。どうせすぐ“忘れちゃう”っていう認知症の特性を、こんなときは最大限、活用させてもらえばいい。たしかに旅行にも行けず、仕事も縮小して、“人生小さくなった”と思っていたけど、いまは『ママリンといたほうがおもろいな、そう悪くない人生やな』と思えます」

酒井さんの「忘れちゃう」という表現には「だからこそいっしょにいるいまを大切にしたい」という願いが込められている。

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