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デサントへの「敵対的TOB」は、我が国TOBの悪しき常識を変えうるか

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共同通信社

スポーツ用品大手のデサントの経営をめぐって、同社筆頭株主の伊藤忠商事(以下伊藤忠)が敵対的TOB(株式公開会買い付け)による経営権取得に動き、現在3月14日の買付期限に向けてその動向が注目されています。

海外で「敵対的TOB」は成長戦略に有効な手段として評価

そもそもTOBとは、買い付け株数とプレミアムを付した買い付け価格を事前に公表し、公開で広く株主から株を買い集めることですが、株式発行会社側の同意なし、あるいは反対を押し切っておこなうTOBを特に「敵対的TOB」と呼びます。

今回のデサントと伊藤忠のケースは、デサントサイドが伊藤忠サイドのTOB表明に明らかな反対の意思を示しており、典型的な敵対的TOBであるといえます。日本では強引なやり口という印象から、どうも悪いイメージがつきまとう敵対的TOBですが、海外においては株主利益を優先すべく、企業の成長戦略転換の契機を外部からもたらす有効な手段として、その評価が定着しています。

我が国における過去の敵対的TOBの大半は、事業拡大目的の企業買収を狙った第三者企業からの突然の仕掛けであったり、投資ファンドなどが「物言う株主」として経営改善提案を掲げ経営権を握ることでのハゲタカ的株式売却益目的であったり、あるいはTOBで買い集めた株をさらなる高値で対象企業に買い取らせることを目的としていたり、といったケースでした。

有名なところでは、旧ライブドアによるフジテレビの経営権狙いでのニッポン放送株に対する敵対的TOBが、記憶にある方も多いかと思います。攻める側、守る側のスタンスにも問題があったのでしょうが、我が国の敵対的TOBでは株主利益を優先すべく被買収企業の成長戦略転換の契機とする様な印象は、感じられることが少なかったのです。

伊藤忠が”経営権取得”という荒業に打って出た理由

今回のケースが我が国のTOBとしてちょっと異例といえるのは、買収側の伊藤忠がデサントの過去の経営危機を機に筆頭株主として経営を支援し、協業に注力してきており、2013年以前は社長も送り込んでいたという親密な関係にあったという点です。

関係が一変したのは、2013年デサント創業家の石本雅敏氏が伊藤忠への事前通告なしで、いきなり社長に就任したことにあるといわれています。デサントサイドからの説明によれば、その原因は伊藤忠が取引先との仕入れ取引の間に、同社を入れるよう強制したことにあるのだと。

社長に座った石本氏は、伊藤忠社長時代の方針から転換して、同社に無断での外部提携や独自の海外展開をおしすすめ、さらには昨年末、伊藤忠支配排除を狙ったとみられるMOB(経営陣参加による買収)まで画策します。

これらに業を煮やした伊藤忠は遂に我慢の限界を越えTOBによる経営権取得という荒業に出た、という流れです。

今回、伊藤忠が提示したTOB価格が、公表前日終値の5割上乗せという異例な高プレミアムであることからみても(これまで通常は3割上乗せ程度が一般的)、同社の本気度が十分に伝わってきます。

それもそのはず、伊藤忠の繊維部門にとってデサントは稼ぎ頭ともいえる存在であり、デサントを自社の管理下において順調な運営を続けさせることは、伊藤忠自身の経営にとって最重要戦略のひとつでもあるのです。

今回のTOBには「ホワイトナイト」が手を出しにくい事情が存在

共同通信社

しかしながら、石本氏独自指揮下のデサントの現状は、伊藤忠いわく、利益は上がっていながらも売上の約半分を韓国向けで上げており、これは経営上の由々しきリスクであると。双方のコミュニケーション不足で始まったボタンの掛け違いは、明確に議論されることがないまま事業の基本方針相違という深刻な次元にまで至ってしまった、といわざるを得ない状況にあるのです。

日本における敵対的TOBは、「企業は経営者のもの」的日本人感覚からか、その強引なやり口ゆえ「悪」と見られやすく、被買収側企業の親密先第三者企業などがホワイトナイト(敵対的TOBにおける白馬の騎士)として登場し、友好的TOBを仕掛けるなど敵対的TOBを阻止に動いて、不成立になるケースがほとんどです。

ドンキホーテのオリジン東秀買収におけるイオン、スティール・パートナーズの明星食品買収における日清食品(ともに2006年)などが、我が国の敵対的TOBにおけるホワイトナイトの代表例といえます。

では、今回はどうか。先にも触れたように今回は敵対的TOBとはいえ、仕入れ・販売で協業関係にある親密先同士の経営権争いであり、被買収先デサントの有効取引先自体が伊藤忠とも取引先関係にある企業も多くホワイトナイトとして手を出しにくい、という事情が存在しています。

ただこの点は裏を返せば、親密企業同士による攻防戦であるがゆえに敵対的TOBが本来持つべき攻守双方が、「株主利益を優先すべく企業の成長戦略転換の契機とする」的な流れを作ることも可能にするのではないかとも思うのです。

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